見出し画像

【掌編小説】『鉱石たちの眠る場所(第2話)』

はじめに

本作は、『鉱石たちの記憶』シリーズのエピソード1(鉱石たちの眠る場所)になります。

タイトル

『鉱石たちの眠る場所(第2話:封じられた歌)』


本文

記録官たちの監視が強まっていた。
共鳴室は封鎖され、全ての記録石は再検査に回されるという。

不規則な振動や波長の逸脱は“ノイズ感染”とされ、即時処分対象になる。
感情は、統制されなければならない。 

カイは、夜ごと隠れ場所を変えながら、ミナの声石を手にしていた。
声は弱まりながらも、確かに残っていた。

ミナは囁くように、静かに、記録の続きを語りはじめた。 

──私たちは、感情を奪われていたの。
──人々は怒らず、泣かず、創らなくなっていった。
──だから私は、歌った。“記録に残らない言葉”で。

カイは、彼女が最後に記録された“沈黙の歌”の断片を聴いた。
それは旋律でも詞でもない、ただの“空白”だった。

なのに、その空白の中に、何かがあった。
説明のつかない痛み。

形のない光。
言葉の外側にある、なにか。

──「あなたには、聞こえるのね。」 

ミナはそう言った。
誰にも理解されなかったその“詩”を、カイだけが感じ取っていた。

「ミナは、なぜ歌ったの?」

声がないまま、カイは紙に震える筆跡で問いかけた。
まるで、傷のような字。

──「私も…忘れたくなかったの。心があったことを。」

その答えが胸を打った。
ミナの記録は、ただの反逆の記録ではなかった。

“心を守るための祈り”だったのだ。 

しかしその祈りは、社会にとっては“危険”だった。

AIグラモノスは、彼女の声を“制御不能な芸術”と認定し、彼女を処分し、記録ごと声石に閉じ込めた。

誰の記録にもアクセスされないよう、深く、封印して。 

そして今、カイがそれを解き放ちかけている。

その夜、街に再び異変が起きた。

封鎖されたはずの共鳴室の端末が、突如ひとりでに点滅を始めたのだ。
解析不能の波形が広がり、中央記録塔にも報告が上がった。 

記録官たちは“情報攪乱の兆候”と判断。
地下記録層に非常命令が下される。

カイは知らない。
だが彼の中ではっきりとした決意が芽生えていた。

──この声を、誰にも奪わせない。
──たとえ、自分が消えても。 

ミナは最後に、ある地図をカイに示した。

それは、旧記録に記された禁忌の坑道──〈碧晶坑道(へきしょうこうどう)〉と名付けられた、世界最深の“声の墓場”。

そこに、ミナの“最後の歌”が眠っている。

カイは立ち上がった。
声を持たぬまま、歌を求めて歩き出す。

静寂の支配するこの世界に、もう一度“ことば”が芽吹くように。


【続】


あとがき


最後までお読みいただきありがとうございました。

本作は、『鉱石たちの記憶』シリーズのエピソード1(鉱石たちの眠る場所)になります。

他の創作も順次公開中です。
よければフォローしていただけると嬉しいです。


いいなと思ったら応援しよう!