面影をさがして。第一章①
<あらすじ>
夫・祐樹を亡くしてから五年。私は今も、彼を探し続けている。はっきりした理由はない。ただ、ふとした瞬間に思い出される声や仕草に、彼の気配を見つけてしまうのだ。手元には、祐樹の声を録音したICレコーダーがある。再生するたびに記憶は呼び起こされるが、それは過去を確かめているのか、それとも作り直しているのかはわからない。仏壇の遺影に語りかけ、日常をなぞるように過ごすうちに、現実と記憶の境界は静かに揺らいでいく。過去に縋るような日々の中で、私は何を確かめようとしているのか。その答えを見つけられないまま、私は今日も、祐樹を探している。それが遠ざかることなのか、近づくことなのかもわからないままに。今もなお。
一章
「祐樹、おはよう。
今日も一日、よろしくね」
仏壇の前で、
毎朝そう言って、手を合わせる。
祐樹の遺影は少しだけ斜めを向いている。
三十歳のままの彼は、
ネイビーのシャツを着て、
ちっとも年を取らない。
祐樹が死んで、もう五年が経つ。
私だけが年を取っていく。
カレンダーをめくるたびに、
置いていかれている気がした。
写真の中の祐樹は、
同じ時間にとどまっている。
その前に立つ私は、
少しずつ変わっていく。
それを、
誰にも見られない。
加戸京子、四十歳。
いつしか私は、
この世にあるはずのない彼の姿を、
あちこちで探すようになっていた。
今日、
ショッピングセンターで、
祐樹に似た後ろ姿を見た。
足が止まり、目はその人を追った。
もっとも、
後頭部しか見ていないのだから、
「出会った」というのは、おかしい。
見かけたに過ぎない。
祐樹が歩いているはずがないことは、
理解している。
別人だと分かっていながら、
どうしても顔を確かめたくて、
その人のあとをついていった。
小走りで追いついたあとは、
慎重に距離をとった。
危ない女だな、と
自分でも可笑しくなり、
それでも、
確かめずにはいられなかった。
ついていくうちに、
肩幅が違うとか、
服装の趣味が違うとか、
そもそも身長が違うのかもしれない、
などと観察していると、
その人は薬局で足を止めた。
ここまで来ると、
顔を確かめたい気持ちよりも、
何を買うのだろう、という
好奇心のほうが勝っていた。
手に取ったのは、ウコン。
そのパッケージの黄色が、
やけに、目についた。
この人はこれから飲み会なのだろうか。
そう思った瞬間、その人がこちらを振り返った。
目があってしまった。
息を飲み、
そっと視線を外した。
何もなかったように、立ち尽くした。
――そうね。
期待していたわけではないけれど、
ちっとも素敵じゃなかった。
勝手についてきて、
こんな風に思われて、
可哀想な人だ。
口元だけが、
わずかに緩んだ。
お詫びに、
この人が二日酔いしませんようにと、
心の中でそっと祈っておいた。
そういえば、頭痛薬が切れていた。
もうすぐ生理になるのか、
頭痛の気配を思い出した。
生理痛に効く薬を手に取り、
そのままレジに向かった。
「ポイントカードはお持ちですか?」
同年代の女性が、私に問いかけた。
“ニャオーン”
猫の鳴き声がして、支払いは終わった。
頭痛薬をバッグにしまい、薬局を出た。
