AI時代の論文執筆:生成AI特有の「9のクセ」と実践的対策(Word文書の校正Skill付き)
生成AIは、もはや論文執筆に欠かせないツールとなりつつあります。PubMed収載の生物医学抄録を対象にした大規模解析では、2024年の抄録の少なくとも13.5%がLLMで処理された可能性が示されており、AI支援の論文執筆は珍しくは無くなっています(Kobak et al., 2025)。
ただし、AIは「検証可能で再現可能な論文」を自動的に保証するわけではありません。医学質問に対するChatGPTの実験研究では提示された参考文献の69%が実在せず、別の横断領域研究でもGPT-3.5が生成した文献の実在率はおよそ73〜77%にとどまりました。さらに、医療領域の質問応答を対象にした2025年の検証では、LLMの回答の50〜90%が引用元に十分には支えられておらず、ときに引用元と矛盾さえしていました。科学要約でも、LLM生成要約は人間の要約より約5倍、結論を過大一般化しやすいことが示されています(Haman & Školník, 2024)。
そのため、AI時代の論文執筆で問われるのは「AIがどこで間違いやすいか」を知り、その間違いを防ぐチェックポイントを執筆フローに埋め込めるかどうかです。ICMJEはAIを用いた原稿であっても最終責任は人間の著者が負うと明言しています。(ICMJE Recommendations, 2025)。
以下では、生成AIで論文執筆する際に頻出する9の間違いやすいクセを整理し、それぞれに対する対策を示します。
1. 幻覚と事実の捏造(ハルシネーション)
AIは存在しない論文や、実在しないがもっともらしい論文の情報を生成することがあります。これはモデルの進化に伴いかなり減少し、GPT-5.4Thinkingであればほとんどない印象ですが、Gemini3.1Proではいまだにハルシネーションを起こすことがしばしばあります。
対策のお勧めは、本文を書く前にCEC表(Claim–Evidence–Citation)を作ることです。主張、根拠、引用の三列。出典を付けるだけでは無く「その論文のどのページ、どの表、どの図が、その主張を支えているのか」まで記録します。ひと手間ですが、これを最初にやっておくと考察が書きやすくなりますし、上司にレビューしてもらう時も、上司がこの文献が存在するのかと言うことを心配しなくて済むようになります。
2. 引用内容の不一致(引用ドリフト)
2025年のNature Communications論文では、LLMが挙げた引用元が回答中の個々の文を十分に支えていないケースが広く見られ、Web検索付きの高性能モデルでも未支持文が相当割合残りました。「その文献が実在する」ことと「その文献がその主張を支える」ことは別問題です(Li et al., 2025)。特にDeep Researchした結果などで見られることが多い印象(これもGeminiに多い)です。
これも対策は上記と同じでCEC表(Claim–Evidence–Citation)を作ることです。abstractにも書いてあるような大筋の結果や知見を引用する場合はリスクが少ないですが、特定の細かい言及は特に注意が必要です。各引用にdirect support / partial support / background / contraevidenceのタグを付けると、考察での使い勝手が増します。
3. 文脈の無視と論理の飛躍
科学論文の要約を対象にした研究では、LLM生成要約は人間要約よりも有意に広い一般化を行いやすく、結論の解釈を原著より広げがちという結果でした。AIは文の接続を滑らかに見せるのは得意ですが、関連・因果・機序・仮説の境界を曖昧にしやすいようです(Tang et al., 2025)。
私がやっているのは、考察ではパラグラフライティングのルールをしっかり守らせることです。また通常の観察研究ではcaused, result in, lead toなど、因果関係を強く示すワードは避けるようにします。査読では拡大解釈は不利となります。
4. 統計の誤用と推論の混同
ここで問題になるのは二つあります。ひとつは、AIが統計的な誤りを「専門的に見える文章」に仕上げてしまうことです。関連を因果のように記述するるといった誤りは従来からありますが、AIはそれらを流暢で整った文章に変換するため、誤りが表現の自然さに覆い隠されやすくなります。もうひとつは、AIが利用者の理解を超えた高度な手法を提案してくることです。競合リスク回帰、ベイズ階層モデルなどを、前提条件や適用限界の説明なしにコード付きで提示されると、正しいかどうか判断できないまま採用してしまう危険があります。理解できない手法を使った論文は、査読で問われたときに著者が説明できません。これは知識不足の問題ではなく、解析の説明責任を著者が果たせないという、より本質的な破綻です。
そもそも統計解析とは「どの推定対象に対して、どの仮定の下で、どの不確実性を伴って述べるか」を定める作業です。危険なのは、AIが仮定を点検しないまま解析法と記述を一体で出力できる点にあります。SAMPLガイドラインはp値だけに依存せず効果量と不確実性の指標を示すことを勧め、ASAもp値だけで仮説の真偽や効果の大きさを判断すべきでないと述べています(SAMPL)。
5. 略語の不統一
AIは略語を初出で定義しなかったり、初出でないのに再定義したりします。この項目は、長文生成と反復編集で起こりやすい編集破綻としてもあり得ます。AIは局所的には自然な書き換えをしますが、全文を通じた略語の初出管理は不得手です。
私のやっている対策は共通の指示(カスタムインストラクションやAGENT.md)で略語の取り扱いについて指示することと、最後にAI校正もしくは検索で揺れを潰すことです。略語を複数回定義しているとAI使ったのは明らかです。
6. セクション内の重複
AIは「同じことを別表現で言い換える」のが得意なので、背景・考察に同型の文が重複しやすくなります。AIの書いた文章が内容を薄めて引き伸ばしたように感じられる原因とも言えると思います。
これはあくまで印象ですがChatGPTは一般的に無駄のない文章を書くのに比べGeminiは冗長な文章を書く傾向があります。基本的には長い文章を生成してそこから無駄な文章を削っていくのが良いと思います(最初から短い文章を出そうとすると情報が欠損しがち)。
7. 迎合と反証の欠如
AIは学習の過程で人間が好む回答をすることを報酬としているので、その性質上、ユーザーに迎合する傾向があります。ハルシネーションがだいぶ減った最近のモデルにおいてはこの迎合の方が問題だったりします。自分で書いた論文をAIにレビューさせてもユーザーに忖度してポジティブな回答をしがちです。またLLMに限界を書かせると「サンプルサイズが小さい」「単施設研究である」のような表面的、定型的な文しか出てこないことが多いです(厳しい指摘で致命傷を追わされても困りますが)。
批判的な役割を明示してやらせるなどの手法が有効とされています。こちらにもまとめています。
8. 専門用語・訳語の不安定さ
とくに日本語の医学原稿では、AIが英語の専門用語を一見もっともらしい日本語に訳して、その訳語が学会の用語集に載っていなかったりすることがあります。英語では正しい用語現でも、日本語にすると直訳調で不自然になったり、似ているが意味の異なる語に置き換わったりします。こうした語は誤訳ほど目立たない一方で、検索性を下げ、解釈の一貫性を崩し、ときに概念の誤読まで招きます。
日本語訳が辞書や学会用語集で確認できない場合は、無理に新しい訳語を採用せず、英語原語を併記するか英語のまま残すほうが安全な場合もあります。AIが提案した日本語を採用する際の基準は「意味が通るか」ではなく、「その分野の人が実際にその語を使うか」です。用語統一は見た目の問題ではなく、検索性、読者の理解、そして論文全体の概念的一貫性を守るために重要です。
9. LLMが好む単語、表現の混入
生命科学抄録の大規模解析では、2024年の抄録にLLM好みの"style words"が急増し、LLM支援文には測定可能な語彙の痕跡が残ることが示されました。AI支援文には、内容以前に「機械が選びがちな言い回し」が出やすいやすいのです(Kobak et al., 2025)。
ChatGPTが好む語彙パターン、対策については、以下の記事で詳しくまとめています。以前は私も結構気にしていましたが最近はモデルが賢くなるにつれて、そこまで気にならなくなっているのと人間の書く文章がAIに寄っていくようなこともあり、露骨なもの以外はそのままにしてしまうことも多くなっています。
付録:原稿チェックをAIエージェントに任せる
ここまで書いてきたようなAIが間違えがちな項目を毎回手作業で全部チェックするのは、正直辛い作業です。私は最近、CodexもしくはClaude Codeの「Skill」という仕組みを使って、このチェック作業の一部を自動化しています。日本語の抄録でも英語論文でも両方いけます。また大学院生にもこのSkillを渡して私の確認前に事前にチェックしてもらっています。
Wordファイルを渡すと、変更履歴付きで返ってくる
medical-proofreaderというスキルは、Wordの.docxファイルを読み込んで、校正結果を変更履歴(トラックチェンジ)がオンの状態で返します。削除は取り消し線、挿入は下線で表示され、変更理由はWordのコメントとして各修正箇所に入ります。
つまり、Wordで開いて「承認」か「却下」をひとつずつ選べる、普通の校正ワークフローと同じ形です。
チェック項目は本記事で挙げた項目と重なる部分が多いです。論理の飛躍、結果と考察の混在、過大な主張、統計記述の曖昧さ、略語の不統一、段落構成の乱れ。英語原稿の場合は、文法やスペルだけでなく、医学雑誌で自然な表現かどうかまで踏み込みます。
Claude Web版でもできるが、安定性が違う
Claudeのウェブ版(claude.ai)にWordファイルをアップロードして校正を頼むこともできます。ただ、ChatGPTのウェブ版は修正履歴ONでの書き込みが不安定でできたりできなかったり安定しません。
スキルとして動かす場合、ローカルにPythonスクリプトが走るため、Wordファイルの読み込みから変更履歴の書き込みまで一貫してプログラムで処理されるため安定しています。ただし指摘の粒度はテキストを貼り付けた場合やWordを読み込ませて(Wordを修正させずに)テキストで回答させたい場合に比べると荒くなります。細かく指摘して欲しい場合はその旨伝えてください。
Claude Code / Codex 用設定フォルダの使い方
この圧縮ファイルには、AIエージェントで使う設定フォルダが入っています。
`.claude`
`.agents`
これらは、Claude Code や Codex にスキルや作業ルールを読み込ませるためのフォルダです。
フォルダ名の先頭に「.」が付いているため、通常は隠しフォルダとして扱われます。
1. 圧縮ファイルを展開してください
まず、受け取った zip ファイルを展開してください。
Mac:zip ファイルをダブルクリック
Windows:zip ファイルを右クリックして「すべて展開」
2. 隠しフォルダを表示してください
フォルダが見えない場合は、隠しフォルダの表示をオンにしてください。
Mac:Finder で `Command + Shift + .` を押す
Windows:エクスプローラーで「表示」→「隠しファイル」をオンにする
3. 使い方は2通りあります
グローバルで使う場合
PC全体で共通に使いたい場合は、ホームフォルダ直下に置いてください。
Mac の例
`/Users/ユーザー名/.claude`
`/Users/ユーザー名/.agents`Windows の例
`C:\Users\ユーザー名.claude`
`C:\Users\ユーザー名.agents`
プロジェクトごとに使う場合
特定の作業フォルダだけで使いたい場合は、そのプロジェクトフォルダの中に置いてください。
例:
`MyProject/.claude`
`MyProject/.agents`
4. 使い始め方
フォルダを置いたあとに、Claude Code または Codex で対象のフォルダを開いて使ってください。その中に校正したWordファイルを入れるかチャット欄に校正したいWordファイルをドラッグ&ドロップして@でSkillを指定して校正してもらいます。
(2026.3.29追記)
3つのAIから校正を受けてそれをまとめてWordに修正を加えるSkill
メインで使う AI (CodexもしくはClaude Code)が校正案を作り、他の 2 モデル(Codex/Claude Code/Geminiのうちメインで使っていないもの)に追加レビューを依頼できます。最終的にどの修正を採用するかは、メインの AI が決めます。
※CodexやClaude Codeに頼めば作成できると思いますので購入しなくても大丈夫です。また各 CLI(メイン利用以外の2つ) のインストールが済んでいることが前提です。投げ銭してもよいよという方は購入いただければ嬉しいです。
必要なもの
校正したい `.docx` ファイル
Python 3 が動く環境
各 CLI のインストールとログイン
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