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「全てのローファイミュージックの始祖」「宅録ゴッドファーザー」ことR.スティーヴィー・ムーアの全キャリア網羅ベスト盤。『ON EARTH(2021)』/ R. Stevie Moore

遡ること1960年代後半から、ジャンデックやダニエル・ジョンストンに先んじて「宅録」という概念を凄まじいボリュームとクオリティで40年以上にわたって実践し続け、アリエル・ピンクに多大な啓示を与えたホームミュージック/ベッドルームポップのパイオニアにしてリビングレジェンドであるR.スティーヴィー・ムーア(R. Stevie Moore)。


「宅録(自宅録音=ホームレコーディング)」と聞くとアングラでスカムなイメージが先行するが、広義では藤井風だってVaundyだって元々は宅録アーティストである。


R.スティーヴィー・ムーア(以下RSM)は1952年にテネシー州ナッシュビルに生まれる。

父のボブ・ムーアはエルヴィス・プレスリーやボブ・ディランらのレコーディングを請け負った伝説的なスタジオミュージシャン集団「ナッシュビルAチーム」のベーシストだった。

RSMは10代でギター、ベース、ドラム、ピアノを独学で習得。
16歳の誕生日にオープンリールテープデッキをプレゼントされたことをきっかけに、実家の地下室にて宅録ワンマンバンド/ソロプロジェクトを始動し、コツコツと自作曲の録音を始める。

自身と同じスタジオミュージシャンとしての道を促す父親の期待とは裏腹に、自らのクリエイティヴィティを追い求めていたRSMは、1971年にヴァンダービルト大学を中退し、本格的な作曲および宅録活動に舵を切る。
24歳の頃に自主レーベルVital Recordsを立ち上げ、過去2年間にわたる宅録音源をコンパイルした初の公式音源『Phonography(1976)』を100枚限定でプレス。
同アルバムはニューヨークのTrouser Press誌にて「A True Slash of Genius(天才による真の一撃)」と激賞され、デヴィッド・バーン(トーキング・ヘッズ)を筆頭とした当時のパンク/ニューウェイヴコミュニティの面々からも「コイツは一体何者!?」と驚きと称賛を持って迎えられたが、本人の内向的な性格が災いしてRSMが同シーンに積極的に関わることはなかった。


26歳の時にニュージャージー州に移住し、レコード店やラジオ局で働きながら自室のアパートでの旺盛な宅録と細々としたライブ活動を継続。

1982年から通信販売サービス「R Stevie Moore Cassette Club」を開始し、「RSM手作りのペーパーカタログを見た購入希望者が、RSM本人に直接電話をかけてカセットを注文する」という販売形態によるリリース活動をライフワーク化。
まだインターネットもEメールも無い時代に、メルカリみたいなノリで自作曲入りのカセットテープやCD-Rをリスナー達に直接売り捌くという、旧態依然としたマーケット構造に歯向かう無頼なDIY道を貫いた。

デイヴ・グレゴリー(XTC)やロバート・ポラード(ガイデッド・バイ・ヴォイシズ)からも熱烈に言及されるものの、熱心なファン達の間でのみ流通する非公式音源(上記の通販カセット)へのアクセスのしづらさが枷となって(半分意図的だが)、長らくアングラな知名度に押し留められていたRSMだが、とりわけ彼が大々的に日の目を見ることになったのは、ゼロ年代の宅録貴公子アリエル・ピンクとの師弟関係が公になって以降である。

当代きってのお騒がせカルトスターであるアリエル・ピンクのインスピレーションソースとなった得体の知れないミステリアスなカルトレジェンドRSMの存在は、瞬く間に都市伝説的にフィーチャーされ、2019年にはドキュメンタリー映画『AuCool Dadio: The Second Youth of R.Stevie Moore』が公開されるに至る。

その注目の波に乗って2021年に自身初となる全キャリア(1974年〜)を網羅したベスト盤『ON EARTH』をリリース。

ON EARTH(2021)/ R. Stevie Moore


不穏なモヤのようなパンク精神で覆われた、それでいて鋭く尖ったローファイミュージックの先駆けにして極北にして到達点。

スポットライトに嫌われた、いや自ら拒否した引きこもりのフランク・ザッパ、もしくは早過ぎた一人バットホール・サーファーズかの如き、予測不能でセオリー無視の、アヴァンサイケなヒプナゴシックポップの発掘された震源地。

サウンドのベース自体はビートルズやビーチ・ボーイズ直径のメロウな60'sロックだが、そこにガレージサイケやポストパンクやプログレの実験精神をグチャグチャにチャンポン。
酔っ払って自暴自棄になったブライアン・ウィルソンの即興鼻歌ジャムをこっそり録音したみたいなカオスでファジーな生々しさ。
煌びやかなモータウンサウンドの真裏で息づいていた、鬱々としたロック青年の孤独な戦いの記録。

前述のドキュメンタリー映画および本アルバムのリリースによってようやくその実力に見合ったアテンションを得たRSMは、ウォッシュト・アウトもマクロブランクもロス・フロム・フレンズも、下手すりゃヌジャベスも影響下の文脈としてマッピング可能な、現行のあらゆるローファイカルチャーの大元の大元「ローファイムーブメントのゴッドファーザー」として若い世代にも支持層を拡大。

デジタルプラットフォームのアーカイブ文化との相性の良さに加えて、本人の若き日の狂気的な創作活動の賜物によって、RSMはカセットやCD-Rにして約400作品、楽曲数にして実に約4,000曲という自らの膨大な宅録ストックを日々小出しにするという、誰もが羨む片手うちわの悠々自適なリリース活動を現在も続けている。今頃ベッドに寝っ転がりながらハンバーガー食ってビール飲んでるかもしれない。


RSMは、まさに「ベッドルーム」ポップ最初にして最大の、真の成功者である。

Chantilly Lace(1980)/ R. Stevie Moore

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