グラスパー、DJクラッシュ、PUNPEE、BOSS、漢、志人、フレシノ、KOHH...ジャパニーズヒップホップ相関図の中心に位置する才能、OMSBによる大傑作アルバム 『ALONE(2022)』
学生時代、ノーティー・バイ・ネイチャーとファーサイド狂いの先輩が居た。
先輩は僕の1つ年上で、都内でも荒れていることで有名な地域の出身で、先輩自身にもここでは書けないようなストリート武勇伝があった。
バスケとタギングが上手で、身体がちょっとだけ横に大きくて、寡黙で、何事にも動じる気配がなく、でも威圧感は無くて、笑顔が優しくて、アクセサリーも最小限でチャラチャラしてなくて、けど本気で怒らせたらヤバそう、みたいな「これが本当のBボーイだな」っていう感じのカッコイイ先輩だった。
R.I.P.スティーヴ・アルビニばっかり聴いてた僕にTHA BLUE HERBとand1 mixtapeを教えてくれた人である。
あれから20年。
今は音信不通になったけど、もう一度会うことがあったらお酒飲みながらOMSB『ALONE』の話をしたい。「凄いアルバムだったっすね」って。
現日本におけるオルタナティブヒップホップの最右翼レーベルsummitの看板クルーであるSIMI LAB(シミラボ)。
SIMI LABは2007年に神奈川で結成。外国籍とのハーフのメンバーが多く在籍しており、佇まいだけでモノホン感が漂う。
反面、彼(彼女)らから感じるのは、従来のラッパー風情にありがちだった攻撃性よりも「奥深いインテリジェンス」であり、彼らの批評や主張の対象は、従来の日本語ラッパーたちが目の敵にしていた「セルアウトな隣のラッパー」などではなく、「国」「国籍」「社会」「自己」「生き方」などより抽象度の高い問題意識である。彼(彼女)らの音楽から溢れ出る独自性と説得力は、幼い頃から人種やアイデンティティについて悩み熟考してきた彼(彼女)らが故の結実であるように思う。
Show Off (2011) / SIMI LAB
今回紹介する『ALONE』は、SIMI LABのメンバーであるOMSB(オムスビ)のソロ名義としては3枚目のフルアルバムである。
OMSBはラッパーとしての活動がメインではあるものの、トラック/ビートメーカーとしてのタレントも一級品であり、ソロ名義での自身のアルバムのみならずゲストプロデュース業も数多くこなしており、『ALONE』でもそのほとんどのトラックを自らが手がけている。
今作で何よりも魅力的なのが、ドープネスを突き詰めた前2作とはガラッと印象が変わったセンチメンタルでメロウなトラック群とOMSBの抜けの良いフックである。とにかく聴こう。カッコいいから。
Kingdom (Homeless) (2022)/ OMSB
波の歌(2022) / OMSB
大衆 (2022)/ OMSB
LASTBBOYOMSB(2022) / OMSB
Standalone / Stallone (2022)/ OMSB
OMSBの魅力はクールな見た目に反する音楽オタク的嗜好である。彼のヒップホップに対する敬意と愛情は『LASTBBOYOMSB』で十分すぎるほどに伝わってくるが、とあるネットメディアのインタビュー記事でウータンやDJスクリューに言及しつつ、椎名林檎とHermann H.&The Pacemakersの名前を出していてロックファンの私はガッチリ心を掴まれてしまった。
OMSBはBボーイとしての自意識の型にハマることなく、ヒップホップ以外のあらゆる音楽を分け隔てなく楽しんできた結果として『黒帯(2015)』から『波の歌』までのアウトプットのバリエーションを獲得できたのだと思う。
そんなOMSBのノーサイドな精神はまさに「新世代のメンタリティ」っぽくて頼もしい。ポルノグラフィティへの愛をしっかり公言する井口理に通ずるものがある(余談だけどポルノグラフィティの1stと2ndはマジで傑作)。
セルアウトに対するカウンター、に対するカウンター、に対するカウンター…のbeef合戦でシーンを盛り上げてきた上の世代の日本のラッパーたちとは全く違う角度で物事や社会や世の中を捉えているOMSBの、ニヒリズム寸前の際でなんとか持ち堪えているような大人びた感性は、ラッパー同士の「敵が自分の外側に居るある意味で健全な」罵り合いよりも、深刻で根源的だったであろう自身の目下の現実への対峙による彼の繊細な自己内省がもたらした賜物であり、そのまま彼の音楽の魅力として表現されている。
OMSBにはレーベルのドンであるPUNPEE、恐縮しきりでインタビュー対談していたILL-BOSSTINO、恐縮しきりでラジオ鼎談していた漢と菊地成孔(N/K)、DJ KRUSHのバックDJで一緒にマイクリレーした志人やmeiso、そこに来るはずだったR-指定、といった両雄並び立たずな一世代上〜同世代のラッパーたち同士を繋ぐ役割として、またプロデュースや客演歴のあるJJJ、KID FRESINO、C.O.S.A、KOHHら下の世代にとっては「プリモみたいな存在」として活躍してほしい。
そんでもって、
「俺ぜんぜんそんなんじゃないっスよ」
って言いそうなところもOMSBの魅力だったりするのである。
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