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「エンターテイメントレイヴの最高峰」をドキュメントしたライブ盤。 『DON'T THINK -LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL(2012)』 / the chemical brothers

基本的に出不精な私がまともに参加した音楽フェスは、2006年の荒吐ロックフェスティバル(宮城)ぐらいである。

ステージ裏を歩いていたら屈強なSP3人ぐらいに囲まれた木村カエラとすれ違った。冗談抜きで顔が私の拳ぐらいの小ささだった。人形のように可愛かった。今もテレビでたまに観るけど20年近く経っても相変わらず可愛い。ズルいよ瑛太くん。

東京スカパラダイスオーケストラのステージに永積タカシがサプライズ登場して披露された『追憶のライラック(2005)』が同フェス一番のハイライトだったが、個人的に最も衝撃的だったのはDOPING PANDAのステージである。
披露していたのは『MIRACLE(2006)』という曲で、彼らの楽曲そのものの魅力ももちろんあったのだが、屋根の無い屋外で電子音が鳴り響くあの迫力っていうのは、ちょっと尋常ではなかった。

反響音がほとんど無い屋外では、出力された音だけがナチュラルリバーブで空間に拡がる。屋内で聴くライブの「音に包まれている」感じよりも、「音が空に突き抜けていく」感じがする。
本来自然界には存在し得ない人工的な電子音と、遠くに見える山々や青空や夜空とのコントラストは異様なまでに神々しいのである。なんというか、「空の上の神様に届くように音楽を飛ばしている」みたいな感じ。

屋外レイブの魅力を身をもって体感したこの日の経験で、生音ロック一辺倒だった私のリスナー人生はそれまでより大きく開かれた。「クラブっぽい音楽も聴いていこう」と。


というわけで本題。


ケミカル・ブラザーズ(the chemical brothers)については今更説明するまでもないだろうが、ザックリ。

ケミカル・ブラザーズはロンドン郊外で同級生として知り合ったトム・ローランズとエド・シモンズによるEDM(ブレイクビーツ)ユニットである。

ニューウェイヴとヒップホップに心酔していた若き日の二人は、シモンズのマンチェスター大学進学を機に一緒にマンチェスターへ移住。セカンドサマーオブラブの震源地だった伝説のナイトクラブ「ハシエンダ」に入り浸りアシッドハウスの洗礼を受け、1992年に「The Dust Brothers(ダスト・ブラザーズ)」名義でDJ活動を開始する。

プレイするレコードが枯渇し始めてオリジナルのトラックを制作し始めるようになると、その楽曲がアンドリュー・ウェザオールの耳に留まり、氏の主宰レーベルJunior Boy's Ownと契約。
英国外でのイベントやフェスへの出演が増え、先に同名義で音楽活動をしていたアメリカのダスト・ブラザーズからクレームが入るほど彼らの名が売れ始めるとユニット名を「ケミカル・ブラザーズ」に改名する。
1995年にデビューアルバム『Exit Planet Dust(さらばダスト惑星)』を発表し、全英アルバムチャート最高位9位、チャートに留まった期間は実に71週というロングヒットとなる。
Virgin Recordsとメジャー契約を果たしリリースされた続く2ndアルバム『Dig Your Own Hole(1997)』は全英アルバムチャート1位を記録。イギリス国内みならず世界中でチャート上位のセールスを記録し、同年に行われた初のワールドツアーは売り切れが続出する事態となった。

その後はファットボーイ・スリム、アンダーワールド、プロディジーらとともに「ビッグビートムーブメント」を牽引し、1960年代のビートルズやローリング・ストーンズ以来のブリティッシュインヴェイジョンを名実共に成し遂げ、それまでアングラカルチャーに甘んじていたEDMをポピュラーミュージックの領域まで押し上げた世界的スターとして不動の地位を確立した。

「ビッグビート」は従来のミニマルビートとは違うロックのような極太なドラムフィルを多用したダンスミュージックとして世界中に受け入れられた。パンクの祖国にサンプリングの概念が輸入され生み出された「パンクロックのアティテュード」と「ブレイクビーツの方法論」のミクスチャーである。日本と同じように文化折衷が得意なイギリスだからこそ華開いた音楽である。
ビッグビートムーブメントは「USヒップホップに対するイギリスからの返答」だった。

「ブレイクビーツ(ヒップホップ)」という音楽がどのようなものかは以前『since i left you(2000)』を紹介したnoteでサラっと説明したが、ケミカル・ブラザーズの『Block Rockin' Beats(1997)』を教材にした素晴らしい動画があるので一旦見てみてほしい。「サンプリングミュージックの作り方」を最も直感的に理解できる動画である。


ケミカル・ブラザーズはブレイクビーツとアシッドハウスをパンクミュージックのようなキャッチーなアプローチで再構築した。クラバーやレイヴァーだけでなくダンスミュージックに苦手意識のあったロックファンをも虜にした。
そして何よりケミカル・ブラザーズの一番の功績は、VJとプロジェクションマッピングを駆使したライブパフォーマンスの先駆的な仕事である。

Star Guitar(Live from Japan)(2011) / the chemical brothers

MAH(2019) / the chemical brothers


メンバーがステージの方々に配置される生バンドのライブに比べ、中央にターンテーブルがチョコンと配置されているだけで見栄え的に手持ち無沙汰だったそれまでのEDMのライブとは違い、ケミカル・ブラザーズのライブパフォーマンスは凄まじいビジュアライズ演出でエンターテイメント性を追求した革新的なものだった。EDMのライブを単なる「ダンスフロア」ではなく「体験の場」に変えた彼らの功績は計り知れず、その後のレイヴカルチャーの商業化・大規模化を促しその方向性を決定づけた。

そんなケミカル・ブラザーズが2011年のフジロックフェスティバルのグリーンステージで披露したヘッドラインパフォーマンスの模様を記録したライブ盤が、今回紹介するアルバム『DON'T THINK -LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL(2012)』 である。

現状Spotifyでは配信未解禁なので今回はApple Musicからどうぞ。

DON'T THINK -LIVE AT FUJI ROCK FESTIVAL(2012) / the chemical brothers


とにかく録音環境とミックスダウンが素晴らしい。セットリストも代表曲・人気曲を網羅していて文句の付けよう無し。
ダンスミュージック系のライブ盤は基本的に小箱特有の反響音のせいで籠ったサウンドになりがちなのだが、このアルバムは屋外特有の夜空に吸い込まれていくようなリバーブサウンドと会場の歓声が絶妙なバランスで記録された見事なライブ盤である。
これが未配信なんて、頼むよSpotify。


同時発売で同ライブを映像化したDVDも発売されている、というか何ならそっちがメインなので、機会があったらぜひご覧になってみてください。

人類が到達した「エンターテイメントレイヴの最高峰」を体験できます。

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