話したがる男達 ~自分のゴール~
独身男と再婚男
「貸しましょうか? ちょっと待っていてください。持ってきますから」
どうやらそれは彼のバイブルであり、いつも持ち歩いるらしい。
新学期に向けて教室を整理しようと出勤した夏休み後半。ある男性教員は私を見つけると話し始めた。最初は世間話から、気が付けば人生の話になっていた。
中年太りの顔面に少年のような黒目が光っている。立ち姿のまま、興奮気味に開いた本は、スティーブン・R・コヴィーが書いた『7つの習慣』。「ここに全部書かれているんですよ!」
おっさんは、クーラーの温度を調整しながら、熱弁を続ける。終わりを思い描くことから始めるという2つ目の習慣を「自分が死ぬとき誰といたいか」と語った場面。
「『終わりを思い描く』って自分の周りの人の話ですか?」と私は質問した。
「そうだ」と彼は解釈したらしい。
今を生きるために、自分のゴールを思い描くことは有効だ。ぼんやりでよい。自分のゴール。その隣に、彼女がいればいいなあと最近思う。
「お前が夏休み中に飲みにいこう!」
同級生と13年振りに再会した。眉間に皺を寄せて、口から出まかせを並べる。視線は斜め上の煙草。灰皿に目を落とす時、楽しそうにエクボを浮かべる。ハンサムで有名だった昔の面影は変わらないが、当然、年を重ねている。結婚、2児の父親、離婚、再婚、3児(合計5児)の父親…… 彼の前向きな生き方を聞きながら、「俺は結婚には向いていないんだよ」と漏らす私。
あるがままの自分を受け入れること。一人が好きで、飽きっぽくて、恥ずかしがり屋の私をそういうものなのだと受け入れること。
酔っぱらってもう帰ると言う私を2軒目に誘う強引な男。日付が変わる時間になった頃、「結婚に向いていないなんて言うな」と時間を置いて返答した場面。
「そんな男には誰もついてこない」
「もしもお前が死ぬとき一人になりたくないなら」と彼は言葉を加えた。
「そうだね」と私は自分に語りかけた。
肌に合う場所で、自然を感じながら文章を書く最後を思い描いている。
独身の頃、それだけでいいと思っていた。
離婚後、そこに愛する人がいてほしいと思っているのかもしれない。
