「普通」は最も高くつく。大型施設開業事例から見る、"経営者の見栄が新規事業を殺す"理由
売れるかどうかも分からない段階で、なぜ企業は「立派な箱」をつくりすぎてしまうのか。
売れるかどうかも分からない段階で、なぜ企業は「立派な箱」をつくりすぎてしまうのか。
とある大型施設事例(投資額 17 億円)から見えるのは、市場の読み違い以上に深刻な「経営者の見栄」という問題です。
本稿では、なぜ「普請道楽」が新規事業の足を引っ張るのか、そしてどうすれば初期投資を抑えながら成功確度を高められるのかを解説します。
新規事業を殺すのは、市場の読み違いだけではありません。
売れるかどうかも分からない段階で、立派な箱をつくりすぎることです。
グローバルダイニングの「那須パラダイスヴィレッジ」。
シー・ヴイ・エス・ベイエリアの「THE FARM スロウマウンテン成田」。
どちらも2025年3月に開業した、大型の宿泊複合施設です。
グローバルダイニングの本業は飲食業だが、宿泊施設の開業。
シー・ヴイ・エス・ベイエリアはビジネスホテル、カプセルホテルが本業だが、グランピング施設の開業。
つまり、それぞれ、本業とは別の新規事業として行われました。
写真を見ると、よくできています。建物は格好いい。空間にもこだわっている。飲食、宿泊、アクティビティを組み合わせ、わざわざ足を運ぶ理由もつくられています。
しかし、決算を見ていると、どうしても同じ疑問が浮かびます。
売れることを確認する前に、金をかけすぎたのではないか。
立派な建物ほど、商売の失敗を包含している
「THE FARM スロウマウンテン成田」を運営するシー・ヴイ・エス・ベイエリアの2026年2月期決算短信によれば、開業直後は連休・週末を中心に高稼働だったものの、6月以降は予約の伸びが鈍化。客数、客室単価ともに当初計画を大きく下回りました。
ホテル事業全体(THE FARMに加え既存のビジネスホテル・ユニット型ホテルを含む)では、事業収入が前年より12%増えた一方、セグメント利益は54.8%減少しています。
さらに見過ごせないのは、この減益がTHE FARM不振だけにとどまらなかったことです。会社全体では固定資産の減損損失6億17百万円を計上し、前期11億円超の黒字から一転、11億39百万円の当期純損失に転落。決算短信には「継続企業の前提に関する重要事象等」の注記まで付き、金融機関との借入契約の財務制限条項に抵触していることも明らかにされています。
立派な施設は、うまくいかなかったときに会社の存続そのものを揺さぶる規模になっていた、ということです。
一方、那須パラダイスヴィレッジは、敷地約3,260坪、延床約877坪。37室のホテルと12の飲食店などを備えています。
当初掲げていたのは、グランドオープン翌期に年商10億円という目標でした。しかし、2026年1月度時点の月次コメントでは「那須は目標の半分ペース」とされています。グローバルダイニングの決算資料でも、那須パラダイスヴィレッジと同時期にオープンしたロサンゼルスの新店(Settecento)の開店費用が響き、営業利益は前期比8.6%減、純利益は40.2%減となったことが説明されています(具体的な那須単独の金額は開示資料からは特定できませんでした)。
現時点で、この事業を失敗と断定することはできませんし、
ここで考えたいのは、個別企業の成否ではありません。
なぜ装置型の新規事業は、売れるかどうかを検証する前に、ここまで立派につくられてしまうのか、ということです。
見栄は、「品質」という名前で会議に入ってくる
経営会議では、誰もが「初期投資を抑えよう」と言います。
ところが、いざ施設をつくり始めると、投資額は膨らんでいきます。
「普通のホテルなら、この設備は必要です」
「この状態で開業したら、お客様からクレームが来ます」
「競合施設には、これくらいのものがあります」
どれも、もっともらしい意見です。だから厄介なのです。
見栄は、「見栄です」と名乗って会議に入ってくるわけではありません。「品質」「ブランド」「顧客満足」「業界常識」という、反対しにくい名前に姿を変えて入ってきます。
そうして一つずつ要望を受け入れた結果、業界標準をすべて備えた、立派な施設が完成します。
同時に、少し売れたくらいでは黒字にならない、重たい事業も完成します。
未完成を恥じた瞬間、新規事業は大勝負になる
初期投資を抑えるとは、見積書の数字を少し削ることではありません。
壁が少し安っぽい。外構が完成していない。部屋数が少ない。飲食店も一部しか開いていない。
そんな状態で、人前に出すことです。
社員からは、「これでは格好がつかない」と言われるかもしれません。経営者自身も、取引先や同業者に見せるのが恥ずかしいでしょう。
それでも開業する。
安全、法令、衛生、そして顧客に約束した中核価値は削ってはいけません。しかし、それ以外のものは、売れると分かってから足せばいい。
初期投資を抑えるとは、節約の技術ではありません。
「しょぼい施設をつくった経営者」と思われることに耐える姿勢です。
これがなければ、小さな実験として始められた事業が、開業した瞬間から「絶対に外せない大勝負」に変わります。
経営者は、建物の中に自分を載せてしまう
建築には、人の心を躍らせる力があります。
図面ができる。完成予想図ができる。内装や家具が決まり、自分の構想が目に見える形になっていく。
この高揚感に、事業判断とは別の感情が入り込みます。
人から称賛されたい。経営者として、大きなものを残したい。業界関係者から、センスのある人だと思われたい。
経営者は、自社の建物の立派さに、自分自身を投影します。
立派な建物をつくれば、自分も立派な経営者に見える。格好いい施設をつくれば、自分の価値まで上がったように感じる。
しかし、建物の立派さと、経営者としての優秀さは、本来まったく関係ありません。
建築が好きなのは構いません。それなら、格好いい建築のホテルに、プライベートで泊まりに行けばいいのです。
自分の美意識をひけらかしたり、建築への欲求を満たすために、会社の資金を使う必要はありません。
自分を投影した建物からは、撤退できない
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