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『真っ白なものは汚したくなる』

「あ」

時にその静寂に居た堪れなくなって、弾ける様に打ち破ってみる。それは泥濘ぬかるみを切りつけた様に一瞬ぱっくりと切り口を開けるが、即ぐにそれまでの静寂とこれからの静寂に挟まれて押し潰されるように静寂で埋められ、塞がれる。こちらも即ぐに元通りになるのを知っているからひと思いに傷つけられる。
まっさらなものを汚したくなる気持ちか。完全なるものを壊したくなる気持ちか。完成が近づいて怖くなる気持ちか。どうしてもドミノを爪弾きしたくなるような無責任な興味本位か。

静寂を壊したくなる、あの魔がさすような衝動は何だろう。

静寂は冷たい。突然肌に金属が触れたように、その冷ややかさにはっとする。談笑している所にエレベーターが来て、自然とかしこまる感じ。浮ついた心持ちで入室すると、その静寂に即ぐに取り繕うように襟を正す感覚。
その堅苦しくも不可欠な静寂が今、自分だけが自由にできる状況で、不必要なものとしてヽヽヽヽヽヽヽヽヽ横たわっている。普段、恐れはばかる存在への意趣返しだろうか。誰もいないことを入念に見渡して、それでも尚、静寂が自分だけのものであると確信した時 ─── 「あ」

公衆便所の個室で、じっとしていると自動で消灯される所がある。慌てて暗中にみっともなく上半身を揺らしながら腕をじたばたさせると即ぐに存在を認めて明るくなる。それと同じで、静寂の中に飲み込まれそうになっている在り方に対する恐れとあらがいなのかもしれない。
打ち破られた静寂の、その切り口が完全に塞がり跡形もなくなるまで、じっとその響きに耳を澄ませる。静寂の中でも声はまだ余韻として響いて聴こえる気がする。その錯覚の誤差も含めて。気のせいに、気のせいに、なお気のせいを重ねて、やっと確信出来た静寂に再び身を浸す─── 

「あ」


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