調査報告書
早くも現れ始めた真夏日の昼休みに公園へ出掛ける。腰を下ろした大きな長椅子の端の方には二人の老人が短パン一枚で横たわり、日焼けをしている。膝の上に広げた弁当を頬張りながら、鼻をつく香りに思わず目を遣ると、一人の老人が煙草を吸っていた。親子連れも多い中、このご時世でもまだいるのだな、と思いながらぼんやり見ているうち、手持ち無沙汰も相まって興味が湧いてくる。
平日の真昼間、こうして日焼けに勤しむ人物とは定年後の悠々自適な生活だろうか。しかし煙草老人の、今どきこんな公共の場でも臆せず煙を燻らせている様は、短パン一枚の出で立ちとも相まって路上生活者にも見える。或る特有の、失うもののない者が持つ大胆さ。しかしこの公園は中心部からは外れているとはいえ、比較的高級住宅地でもある。路上生活者ならばもっと繁華街に根を下ろしそうなものだ。ならば近所の高級住宅街に居を構え、悠々自適に日焼けを楽しむ成功者か。今ある判断材料だと、対極的な人物像が浮かび上がっている。ここまで正反対な調査結果は許されない。考え始めると俄然興味が湧いてきて、探偵の様な心持ちで観察を続ける。
すると煙草老人ではないもう一方の老人が、おもむろに寝そべったまま新聞を読み始めた。これも判断材料としては難しい、そう思いながら眺めていると頁繰りのために大きく紙面を広げた瞬間、それが英字新聞であるのが見て取れた。これは成功者だ。休憩終わりに遂に決定的な情報を手に入れたのを頃合いに腰を上げる。
けれどよくよく考えてみれば、何ら決定的な情報ではない。如何に着飾っていない、身ぐるみを剥ぎ取った人間は見分けがつかないのか。それだけに数少ない小物ひとつ、英字新聞の印象ひとつが、いかに大きな影響を及ぼしているのか、自分もそこに縋り付いているのかは分かった。ここまでを鑑みて、今回の内偵任務は全くの失敗だったことが分かる。
調査結果。被疑者二名は富裕層もしくは貧困層だと思われる。
