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Örlög 第十七話 祝祭の槍

年は明けた。ヴィグボルグ城の新年の祝いは、例年どおり厳かに、時に華やかに、賑やかに執り行われ、家臣は皆、王と王妃に敬意をはらい、あらためて忠誠を誓う。

祝宴の後に開かれた新年評議会には、王の側近を含めた十二人の要人が議会室の中央に鎮座し、その他、小領主などが末席を温めた。
去年との違いは、要人席にホルム卿がいないこと、そして王の隣に王太子たるハムレットがいないことである。
議会室は、分厚い毛皮姿の男たちで埋め尽くされ、冷え切った石の間にも関わらず、妙な熱気が漂っていた。
新年とあって、褒賞の儀から始められる。
侍従長ズェルヴァンが一歩前へ出た。
選ばれし者の名を朗々と告げ、それぞれの功績を簡潔に述べる。
「北岸を守りし、ハーコン卿!」
皆が固唾を呑み、注目する中、ハーコンが前に出た。靴音が響いた。
「冬の嵐の折、三度にわたり敵船を退け、穀倉と民を守りし功——」
そこまで言うと、ズェルヴァンは王に向き直った。
「——ここに明らかにございます!」
「北岸を守った功、よく覚えておる。今年よりあの港の三分の一の税を任せる。」
王トルヴァルドは、そう答えて、満足気に頷いてみせた。
王として、最大限、威厳を示せる場であった。

こうして、官職の付与、叙任と続き、大半の者は眺めているだけに終わった。
「国王陛下は、いつ拝謁してもご立派であられるな。」
小休止合間に、末席の地方領主が唸るように言った。家督を継いだばかりで、所領の管理だけで精一杯、褒賞どころか、王と直接、言葉を交わす機会すらありはしない、末席を温めているだけの男だった。
「まさしく王の中の王であられる。叶うことなら、お側にお仕えしたいものよ…。」
すると、隣に座っていた中年の、ひときわ分厚いブーツを履いた男が周囲を見回し、小声で言った。
「王家のお血筋でもないのに、”王の中の王“とは皮肉なことを。」
鼻で笑うような物言いに、若い領主はムッとして言い返した。
「…国王の力量は、血ではなく、神に認められたものかと…。」
「力量…?打算の力量など、神がお認めになるであろうかの?」
若い領主は、黙り込んだ。
「戦は勢い、後は謀(はかりごと)、それがあの男だ。わしの所領など、もともとは…、」
中年男がそこまで言った時、席を離れていた者たちが、声高に話しながら戻って来た。彼らもまた、王を称賛する者たちであった。
男は言いかけた言葉を呑み込み、素知らぬ顔に戻った。

この日の大役を無事に終えたズェルヴァンは家に戻った。彼にはもう一つ、仕事が残っていた。
オフェリアが、また最近、部屋に閉じこもっていることは、父ズェルヴァンも知っていた。しかも気鬱の病が、子爵邸訪問を境に悪化していることもである。
ズェルヴァンは、オフェリアの部屋をノックしようとしてためらい、ついにはそれができず、自室に戻った。そして、紙に用件をしたため、オフェリアに渡すよう、メイドに命じた。
『子爵アルヴィン様が、明日、ヴィグボルグ城の馬上槍試合をご覧になる。お相手をするように。
昼一番には、主城門でお待ちする。くれぐれも、支度を怠らぬように。』
翌日、美しく装ったオフェリアを見て、ズェルヴァンは胸を撫で下ろした。メイドの気配りに救われた。しかし、こんな時に妻がないことは、何と不自由なことかと思い知らされた。

オフェリアは、ズェルヴァンとともにアルヴィン・エーレンス子爵の到着を迎えた。
トーナメントは、出場者も観戦者も、華を競う。
馬車を降りた子爵も、それを意識した装いであった。ワインカラーの柔らかな帽子が片側にたわみ、赤い帯と羽が横へ流れていた。羽のひと房は風を受け、わずかに震えている。
「また、お目にかかれて光栄です、オフェリア殿。」
アルヴィンは、父親には軽く会釈を寄越すと、真っ直ぐにオフェリアのもとに向かい、深々と会釈をした。短めのマントを片肩だけに掛け、帽子と同じワインレッドを、裏地からちらりと覗かせていた。
「私こそ光栄です、子爵様。」
オフェリアも笑顔で、軽く膝を折った。が、両手は毛皮のマフに収めたままだった。アルヴィンは少し残念そうに、手元に視線を落として苦笑いをみせた。
トーナメント会場は、すでに観客が、柵越しにびっしりと立ち並んでいた。男も女も、見慣れぬほど色とりどりの装いで、まだ控えの騎士たちに、好き勝手に声援を送っている。
騎士の方も、盾には大きな家紋、兜には羽根を仕込んで、自分の腕前を見せつける時を待っている。
その日、オフェリアは首元まで詰まった淡い銀白のドレスとコート姿だった。生地のごく薄い青が装飾の銀糸を際立たせている。髪と耳飾りは小さな真珠。貴族ではない彼女の身分を考えると、充分に贅沢な装いであったが、この会場の華やかさと比較すると、控えめに見えた。
だが、それが逆に、オフェリアの初々しさを引き立て、彼女自身が真珠のように静かに光っていた。

アルヴィンは、何度も黙ってオフェリアを見た。エスコートとして、自分の腕に手をかけるようオフェリアに促すと、中央ボックス席の国王のもとに歩みを進めた。途中、オフェリアの美しさに羨望の眼差しが飛ぶと、アルヴィンは自慢げに微笑み、オフェリアの手に、自分の手を重ねた。
まるで、自分の所有物であるかのように。
オフェリアの心は、凍っていった。

「陛下、エーレンス子爵がご挨拶に来られました。」
侍従長ズェルヴァンは、職務に戻ったかのように、国王に近づくと、耳打ちをした。
そして、ズェルヴァンの目の合図で、アルヴィンは王の前に進み、胸に手を当て、一礼した。
「お招きに預かり、光栄でございます。新しき年、陛下の御治世にさらなる光がもたらされること、信じております。」
眼差しは真っ直ぐに国王に向けられている。アルヴィンは若いが所作は慣れていた。
国王は、アルヴィンと少し離れたところに立つオフェリアに、ほんの一瞬、目をやり、短く答えた。
「うむ。よく参った。」
ボックス席の端には、子爵とオフェリアの席も用意されていた。騎士たちの支度は整い、馬は家紋を染め抜いたカパリソンに身を包み、裾を翻して、思い思いに色を揺らしていた。
「トーナメントは初めてですか?」
アルヴィンがオフェリアに尋ねた。
「いえ、幼い時に、二度ほど。」
オフェリアは素っ気なく答えた。
彼女が、この馬上槍試合を観たのは、十歳くらいの頃だった。ハムレットに誘われて、このボックス席にちょこんと座らせてもらった。
ハムレットは、彼の剣術の師匠であるホルム卿の応援で熱くなっていた。オフェリアは、剣術のことなど分からないし、興味もなかったが、派手に装う騎士たちの中で、一人、黒尽くめの装いでホルム卿が登場し、圧倒的な強さで勝利をさらった時には、立ち上がって力一杯、拍手を送ったものだった。
早く、帰りたいと、オフェリアは思った。そして、今、何気に思い出した光景を、さり気なく、クラァラに話してみたいと思っていた。

そして、試合は始まった。
中央に設えたフェンス、両側からすれ違いざまに、二人の騎士が槍を交える。
その瞬間、折れた槍から火花が散り、敗者は馬とともに地へ崩れた。
勝者は観客に武勇を誇示し、観る者は褒め称える。
そのような対戦を繰り返し、一人の勝者が決定した。喝采の中、国王から称賛の言葉と賞金がもたらされた。
そして、最後の戦いは、「一騎打ち」。
選び抜かれた強者が、真っ向から戦う競技であった。
二人の騎士が入場して来た。
どちらの馬も荒ぶって落ち着きがない。観客のざわめきが一段低くなった。
二人は円を描くように間合いを測る。
一方は黄色、もう一方は青のカパリソン。色は風に翻り、互いの位置を示していた。だが、オフェリアの目にはそれが舞のように映っていた。

小さな小競り合いが続き、見る側は息を忘れる。
そして、大きな怒声が騎士たちの口から発せられると、次の瞬間、何が起きたのか分からぬまま、黄色の騎士が馬から落ちていた。
勝負はついたのだ。
落ちた騎士と倒れた馬がたてる土埃。静寂の後、城内から割れんばかりの歓声が挙がった。
アルヴィンも立ち上がって拍手をした。オフェリアもそれに倣った。
すると、アルヴィンはオフェリアの耳元で囁いた。
「ハンカチを。」
その意味は、暫くして分かった。
勝者はゆっくりと場内を回り、馬上から自分の勝利を宣言した。そして、オフェリアの前で馬を止め、目の前までやって来たのである。馬の息遣いまで、手を伸ばせばそこにあった。
「ハンカチを渡して。」
アルヴィンに言われるがままに、オフェリアが騎士の目の前にゆっくりとハンカチを落とすと、騎士は首尾よく受け止め、場内から更なる喝采を浴びたのだった。
子爵の帰りを見送り、オフェリアは、別世界から逃れるように、ようやく自分の部屋へ戻った。
あのような虚栄の世界では生きられない。自分には正直でひたむきな、城の中庭や暁の塔が似合っている、強く、そう思った。
だが、彼女が愛するハムレットは、その虚栄の世界に生きるべき人だった。
今日、国王が座っていたまさしくその同じ席で。
オフェリアは、ドレスを脱ぎ散らかし、ドアの外のメイドの声も拒んで泣き続けた。
その彼女に、父から非情な命が下ったのは、二週間ほど経った頃だった。

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