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羽のない天使 epi-16

地球を守る7人の異能者

─ 火の浄化者、アレハンドロとの出会い ─


日本で闇のウイルスが拡がり始めたころ、
莉子と隼人は、同じような異変が世界中で起きていることに気づいていた。

向かった先は、メキシコ。

そこで二人は、“炎の浄化者”と呼ばれる男に出会う。
その瞳は、絶望に燃えながらも、命への祈りを宿していた‥。


メキシコの空は、乾いていた。
照りつける太陽の下、しかし街には人影がまばらだった。

莉子と隼人が到着したとき、
すでに病は広がり、各地の村や都市は混乱の渦中にあった。

「同じだ 日本と」
莉子がそっとつぶやく。
空気の中に漂う、黒いもやのようなエネルギー。
それは、病気という“現象”ではなく
霊的な感染だった。

二人が向かった先の病院は、野戦病院のような様相をしていた。


そこで、炎のように動き回る一人の男がいた。

「そこをどけ! 彼の肺が焼け始めている! 
“火”を入れる!」

周囲の医師たちが恐れるように身を引いた瞬間
男の掌に、真紅の炎が宿った。

その炎は、病を焼くためにある。
そして、命を決して傷つけない、
精密で聖なる火だった。

患者の胸に炎をかざすと、
黒い煙のようなものが一気に抜け、空間の端に消えた。
息を吹き返した男の瞳に、微かな光が宿る。



その光景を、隼人は黙って見つめていた。

「あれが、アレハンドロだな。
 “火の浄化者”    生身でやってる」

莉子は小さく頷いた。

「でも 彼ひとりじゃ、もう限界」

ちょうどそのとき、アレハンドロが気づいたように振り返った。

「この空気の違和感が見えるのか?」

隼人が答えた。

「ああ。病じゃない、“闇”の一種だ。俺たちはそれを止めに来た」

アレハンドロは目を細めた。
その目は、疲れと焦燥、そしてわずかな希望を含んでいた。

「手を貸してくれ。
 もう、ひとりでは追いつかないんだ。
 この“呪いのような病”は、焼いても焼いても、次々と形を変えて現れる」

莉子「それは、浄化の炎だけじゃ届かない」
「私は、光を降ろす者。
 地の奥にある“根源の記憶”とつながって、祈りを流せる。
 闇のエネルギーそのものを、変容させることができるかもしれない」

アレハンドロは目を見開いた。

「祈り?」

「そして、俺が“闇”を受け止める。
 痛みを変換する通路になる」
隼人が静かに言った。

「三人でなら、届くかもしれない。
 この病の“核”まで」


アレハンドロと出会って数日後
3人は病の正体を追う中で、“ただのウイルスではない”ことを確信していた。

隼人は言った。

「これは、大地の奥深くから湧き出てる。
 自然の摂理を越えた、“何か”が封じられていた気配がある」

「じゃあ、源を絶たなきゃ」
莉子は、地図を広げながらそう言った。
だが、病の発生源は特定できず、あてもないまま時間が過ぎていく。



そんなある夜
莉子は深い夢の中に引き込まれた。

そこは、霧に包まれた神殿のような空間だった。
石で造られた高い階段。
中央に、聖なる泉のような丸い泉。
そして、その向こうに、白い羽織をまとった女が立っていた。

水の女神オケアナ

肌は褐色で、額に青い石をつけ、
静かに目を閉じたその姿は、まるで時の彼方から来たようだった。

     あなたの光を、そこへ。
   地の記憶が、目覚めを求めている。

声は、言葉というより“意識”で届いた。

「どこ……?」

莉子がそう思った瞬間、女の足元にあった泉が、
一瞬だけ波紋を広げ、その水面に映し出されたのは

石でできた階段型のピラミッド。
 その名は、“チチェン・イッツァ”




莉子は、はっとして目覚めた。

まだ夜明け前だったが、すぐにスケッチブックを取り出し、
夢に出てきたピラミッドの輪郭を描いた。

その絵を見たアレハンドロが、思わず声を上げる。

「ここは、チチェン・イッツァ。
 古代マヤの神殿だ。
 そこに、こんな泉があるなんて」

彼の声は、震えていた。

「ある伝承があるんだ。
 “地底の泉に、時を超えて巫女が現れる”って」

莉子はゆっくりと頷いた。

「夢の中で、彼女が私に言ったの。
 “地の記憶が、目覚めを求めている”って
  行こう。きっとそこに、“根”がある」


こうして、3人はチチェン・イッツァを目指すことになる
古代の巫女の記憶に導かれながら。

水面に浮かぶ石のピラミッド。
その中心に、黒い渦のようなものが蠢いていた。

空気は重く、地面には微かに赤黒い瘴気が立ち込めていた。
誰も立ち入らない森の奥、朽ちかけた祠の入口が、三人を待っていた。

地下へと続く洞窟を進むたびに、耳鳴りと幻覚のような声がこだまする。
まるで、長年封印されていた“闇”が、存在を訴えかけてくるかのように。

「ここが、核だ」
アレハンドロが、唇を噛みしめながら言った。

「やっと 見つけた」
莉子の声は静かだった。

隼人はゆっくりと目を閉じ、
「行こう」
とだけ言った。

そして、3人は“闇の源”へと足を踏み入れた。

炎の輪が現れた。
アレハンドロが炎の浄化を行い、隼人が闇の痛みを抱え込むように引き受け、莉子が天から“祈りの光”を降ろす。
三つの力が交わった瞬間、大地が震え、空間が軋んだ。

黒い瘴気が、一瞬、暴れようとする。
が、それは火に焼かれ、闇に抱かれ、光に溶かされ──やがて、完全に“無”へと変わった。
静けさが戻る。

しかし、
その静寂は長くは続かなかった。
病の源となっていた闇そのものが、突如として姿をあらわし、三人へと襲いかかる。

アレハンドロが、鋭く叫ぶように火の浄化の呪文を唱える。
「Lux flammae, absorbe obscurum!
     光の炎よ、闇を呑み込め」

轟音とともに紅蓮の炎が渦を巻き、闇を焼き尽くすように広がっていく。


アレハンドロの炎にのまれた闇が、苦しげに声をあげた。

『……おまえたち人間が撒き散らした毒……
それが姿を変え、ウイルスとなったのだ……!』

その訴えは怒りではなく、深い悲しみを帯びていた。

莉子の胸に痛みが走る。
彼女は両手を合わせ、天から光を降ろしながら静かに答えた。

「そう、わたし達、人間が悪い」

その言葉は責めではなく、受け入れの響きだった。

だが、闇の悲しみはあまりに重い。
飲み込まれそうになった莉子の背後から、隼人が強く抱きしめる。

「お前を、闇には渡さない」

彼の腕は盾となり、その胸の鼓動は、莉子を現実へとつなぎ止める。

隼人の腕に守られながら、莉子は胸の奥から光を呼び起こした。
その光は強さではなく、やさしさの波だった。

「あなたの悲しみを、私が抱きしめる」

彼女の言葉に応えるように、天から降り注ぐ光がふわりと広がり、闇の怪物を包み込んでいく。
炎のように焼くのでもなく、剣のように斬るのでもなく──ただ、その嘆きをやさしく受け止める光。

黒い影は一瞬、暴れた。
だがやがて、その形は小さく震え、子どものように泣きながら溶けていった。

「‥人間に‥まだ‥‥希望が‥‥」

最後の声は、涙のように震えて空へと消えていく。

光が闇の悲しみを抱きしめると同時に、大地の空気は静まり返り、重苦しい気配が跡形もなく消えていた。


残されたのは、炎と光と闇を受け止めた心が重なり合って生まれた「浄化の和」。
その調和の波動は、地に染み込み、空へ広がり、大地全体をやさしく抱くように満ちていった。

大気は澄み、風はやわらぎ、静けさが戻る。
それはただの終わりではなく、新しい始まりの気配だった。








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