三人目の日記
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3月14日
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今日から活動日誌をつけることにした。私にもしもの事があった場合
この日誌を警察に提出してほしい。
不謹慎な日記だと思われるかもしれないが
最近、私の身の回りで妙なことが起こっている気がする。
「気がする」……というのも中途半端だが、まだ確信を得るまでには至っていない。
少しずつ感じる違和感を、ここに正確に記していこうと思う。
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3月15日
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部屋に、見知らぬ会社の名刺が落ちていた。
それだけならまだしも、クローゼットの奥から
「自分の名前」が刷られた大量の別の名刺が出てきた。
見知らぬ会社名。役職は代表取締役。……一体どういうことだ。
以前書いた「小さな違和感」の正体に、やっと気づくことができた。
私は、少しのズレも許せない。椅子は必ず、机の下にきっちりと収納する。
それが、わずかに斜めにズレている。しかも2脚ともだ。
独り身の私が、普段、椅子を2脚使うことはない。
私以外のだれかが、この部屋に入り込んでいる。
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3月17日
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クローゼットの整理をしていたところ、奥から女性用の化粧品が見つかった。
まるで隠すかのように、女物の香水の匂いが染みついたワイシャツとスーツも押し込まれていた。
しかもそのスーツは、20代に好まれる安っぽい若者向けのブランドだ。
私の年齢でこのようなものを着るのは、もはや恥に等しい。
だから奥に隠していたというのか……。
コップも一つ増えてる。
見知らぬコップだ。
ますます理解が追いつかない。私の部屋で、私の知らない「私」が、誰と何を演じているのだ。
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3月20日
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クレジットカードの明細をチェックしていて手が止まった。
Amazonの購入履歴に、全く心当たりのない注文が混ざっている。
3月13日:注文数 1
3月17日:注文数 1
品目はどちらも同じ、高価なブランドの口紅だ。
誰かが私のアカウントを盗用しているのか、それとも……。
私には、こんなものを贈る相手など一人もいないというのに。
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3月23日
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ここ数日の記憶が、断続的に抜け落ちている。
泥のように体が重く、立っているのもやっとの状態だ。
今日、「先生」と呼んでいる数少ない友人に会ったが、ひどく顔色が悪いと心配された。
鏡を見る勇気がない。そこに映っているのは、本当に「私」なのだろうか。
この違和感を彼に相談するべきか……。
いや、これ以上、誰かをこの得体の知れない事態に巻き込むわけにはいかない。
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3月25日
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まただ……。クローゼットを開けるのが怖い。
昨日はなかったはずの見知らぬバッグと、高価な時計がいくつも転がっている。
私はどうしてしまったんだ。自分の金が、自分の知らない「贅沢」に消えていく。
机の上に、私の筆跡ではない殴り書きのメモが落ちていた。
【あの日記は本当にあなたが書いてるの?】
どういうことだ。私はこの活動日誌以外、何も書いていない。
まさか、私の知らないところで、もう一人の私が「何か」を世界に発信しているというのか。
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3月26日
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もう、いい加減にしてくれ……。
今日、街で見知らぬ男に親しげに声をかけられた。
私は彼のことを露ほども知らないのに、彼は私のことを
「社長」と呼び、何かを熱心に感謝していた。
やめてくれ。私は社長などではない。
私を、私以外の何かとして扱わないでくれ。
どうして私を、こんなに困らせるんだ。
お願いだ、もうやめてくれ。
誰か、私をここから出してくれ。
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3月27日
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友人である先生から信じられない連絡を受けた。
「ついさっきもここに来て『もう二度と通わない』と告げていって
それでおしまいだと思っていた」と。
私は先生に会っていない。ここに来たのも、ついさっきが初めてだ。
受付の女性も、私の顔を見てひどく怪訝な顔をしていた。
まるで、私という存在がこの世に二つあるかのように。
どうしてあなたたちまで私を困らせるんだ。
私の気持ちを唯一理解してくれるのは、先生だけだと信じていたのに。
もう一人の私……? それは何だ、誰なんだ。
……私は、たった一人なんだ。
誰が、私の人生を食い荒らしているんだ。
どうか、どうか本当の私に戻ってくれ・・・
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