【エッセイ】 甘えん坊の熱帯夜
熱帯夜は好きじゃない。
クーラーをつけて寝ると
喉を乾燥させてしまうし、
お腹を冷やして体調を崩してしまう。
かといって消せば、
じわじわと湿った熱気が押し寄せてくる。
眠たいのに、どうしても寝られない。
快適さと体調のあいだで
立ち往生するのにも嫌気がさして、
私はそっと部屋を抜け出し、
外へ散歩に行くことにした。
外の風は好きだ。
熱帯夜の外の風は、
どこか暖かくも涼しい。
昼間の私を
焼き尽くそうとせんばかりの強い陽の光はなく、
ただ月が、
私を監視するように
頭上で静かに照らしている。
暗闇の中をあてもなく歩いているうちに、
ふと思った。
もしかしたら、
私は熱帯夜が好きなのかもしれない。
昼の暑さは嫌いだ。
私の意欲や「今日も頑張ろう」という気持ちを、
容赦なくじわじわと削いでいくから。
けれど、
夜の暑さは昼よりもどこか優しい気がする。
私をいつまでも寝かせようとしない
このぬるい風は、
どこか「もう少し一緒にいようよ」と
引き留めてくる、
甘えん坊のようにも思えてくるのだ。
月が見守る静かな夜の中、
私はもう少しだけ、
このまとわりつく熱と
夜風のあいだを歩いていくことにした。
