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一人で創業する男が、AIを「参謀」に選んだ理由 ―― 定款・料金・SOP・営業トーク・診断システム、五つの下ごしらえ

一人で始める会社ほど、相談相手は多く要る。




1. 机の上に積まれた、五つの宿題

前回、証明書の話を書いてから、また数日が過ぎた。

退職の日は、もうそう遠くない。行き先は決まっている。地域の中小企業に、セキュリティとITの安心を届ける会社を、自分の手でつくる。開業は来年一月。

けれど、会社というのは「やります」と決めた瞬間に立ち上がるものではない。定款という骨格がいる。値付けという血肉がいる。手順という筋肉がいる。人に伝える言葉という表情がいる。そして、事業の屋台骨になる仕組みがいる。

一人で全部を並べるのは、正直、気が遠くなる作業だった。

そこで今回は、少し毛色を変えて、退職までの日々に私が実際に手を動かしている「五つの宿題」――定款、料金プラン、SOP(標準作業手順)、営業トーク、そして屋台骨になるであろうシステム――を、AIとどう向き合いながら進めているか、という話を書いてみたい。

2. 一人称の経営会議 ―― なぜAIを「使う」のではなく「相談する」のか

一人で起業するというのは、机を挟んで反対側に誰も座っていない、ということだ。

長年勤めてきた組織には、上司がいて、同僚がいて、決裁の仕組みがあった。判断に迷えば、誰かに聞けた。これからは、その全部が自分一人の肩にかかる。

だから私は、AIを「便利な道具」としてではなく、「反対側の椅子に座らせる相手」として使うことに決めた。ChatGPTに何でも聞く、というやり方はしない。長い文章の下書きや、辛口の第二意見が欲しいときはClaudeに。実際にシステムを組み立てる作業はCursorに。資料が大量にあるときはGeminiに。役割を分けて、それぞれに「その日の議題」を持ち込む。

これは、単に効率がいいからではない。一人の経営者が、一つのAIの意見だけを鵜呑みにしてしまう危うさを、自分でも分かっているからだ。同じ問いを違う相手にぶつけて、答えが割れたら、そこに本当の論点がある。そう考えるようにしている。

もちろん、最終的にハンコを押すのは私だ。AIは壁打ち相手であって、意思決定者ではない。この一線だけは、最初から自分に課している。

3. 宿題①定款 ―― 会社の骨格を、条文の形にする

定款は、会社の憲法のようなものだと聞いた。

一人で条文の言い回しを一から考えるのは、率直に言って苦手な作業だった。だから、AIに「叩き台」を作ってもらうところから始めた。役員の任期は何年にするか。公告はどの方法にするか。本店の所在地は、番地まで書くのか、市区町村までに留めるのか。決算期はいつにするのか。

一つひとつ、AIと問答をしながら方針を固めていった。任期は10年で長めに取る。公告方法は電子公告を基本にしつつ、万一の際は官報に切り替えられるようにしておく。本店所在地は、あえて市区町村までの記載に留めた。将来、事務所を移すことがあっても、そのたびに定款を変更しなくて済むようにするためだ。決算期は年末を軸に、年度末の忙しさとの兼ね合いも含めて、もう一つの候補と並べて検討している段階で、ここは最終的に税理士に確認してから確定させるつもりでいる。

ここで大事にしているのは、「AIが作った文章を、そのまま正本にしない」という一線だ。条文のたたき台としては優秀でも、数字や言葉の最終確定は、必ず専門家の目を通す。これは手間を惜しんでいい場所ではないと思っている。

慎重に定款を作っていく

4. 宿題②料金プラン ―― 「安売りしない」を数字で守る

一人で会社を回すというのは、自分の時間そのものが在庫だということだ。

値付けを決めるとき、私が最初にAIに頼んだのは「安くする方法」ではなく、「安売りしないための根拠」だった。訪問する時間だけでなく、準備、移動、記録、問い合わせ、手戻りまで含めて、一件あたりにどれだけの時間がかかるのかをシミュレーションしてもらう。そのうえで、粗利率が一定の水準を割り込まない、という下限線(ガードレール)を先に決めた。

そこから、段階制のサブスクリプション型の料金プランを組み立てている。基本の三段階に加えて、時間外や緊急対応、追加拠点への訪問、教育メニューなどは別軸で切り出し、「基本料金の中でどこまで見るか」「そこから外れたら、いくらの世界になるか」の境界線を、できるだけ曖昧にしないようにした。

具体的な金額や名称は、開業前の現段階ではまだ社外に出す時期ではないと考えている。値決めは、一度外に出した数字を軽々しく覆せないものだからだ。ただ、考え方だけは先に共有しておきたい。値付けは「気持ちよく仕事をするため」ではなく、「一人で倒れずに、長く顧客と付き合うため」の防波堤なのだ、ということを、AIとの壁打ちを通じて、あらためて言葉にできた。

悩ましい値付け作業

5. 宿題③SOP ―― 自分がいなくても回る会社をつくる

これは、五つの宿題の中で、一番地味で、一番時間がかかっている作業かもしれない。

SOP――標準作業手順書――は、「自分が休んでも、新しい人が入っても、同じ品質で仕事が回る」ことがゴールだ。私一人しかいない今つくる意味があるのか、と聞かれることもあるが、答えは逆だと思っている。一人だからこそ、今のうちに言語化しておかないと、あとで振り返る余裕はない。

AIと一緒に手順を書き出すとき、六つの物差しを決めて検証している。再現性はあるか。経験の浅い人でも実行できるか。操作の指示は曖昧さがないか。うまくいったかどうかを判定できる基準があるか。安全に配慮されているか。あとで振り返れる記録(証跡)が残る作りになっているか。

もう一つ、こだわっているのは「確認する作業」と「変更・復旧する作業」を、はっきり分けることだ。うっかり確認のつもりで設定を変えてしまう、といった事故を防ぐための、地味だが大事な線引きだと思っている。そして、AIが下書きしたSOPは、そのままでは「社内の正本」として扱わない。必ず一元管理された場所に登録し直し、そこで初めて正式なものとして扱う、というルールにしている。

6. 宿題④営業トーク ―― 一人稽古の壁打ち相手

営業トークの練習相手が、社内にいない。これも一人会社ならではの悩みだ。

そこで、AIに「ITに詳しくない経営者役」を演じてもらい、実際に説明する練習をしている。専門用語を並べてしまうと、相手はすぐに置いていかれる。だから、話す順番を意識するようにした。まず状態を伝え、次に何を優先すべきかを伝え、そのあとに次の一手を提案し、根拠を示し、最後に詳しく知りたい人向けの詳細を用意する。

面白いのは、これはもともと画面設計のために決めていた原則だったということだ。人が30秒で理解できる情報の並べ方を、システムの画面のためだけでなく、自分の口から話す言葉のためにも使い始めた。道具として作った原則が、思わぬところで自分自身の話し方まで整えてくれた。AIを壁打ち相手にしたことで気づけた、ちょっとした副産物だった。

自分の「癖」に気付かされる毎日

7. 宿題⑤屋台骨になるシステム ―― まだ言えないこと

五つ目の宿題については、今日はあえて詳しく書かない。

事業の中核になるであろう診断・記録の仕組みを、AIの力も借りながら組み立てている最中だ。ただ、これについては仕組みの中身を先に言葉にしてしまうと、あとで権利をきちんと守れなくなる可能性がある。だから、然るべき手続きが済むまでは、詳しい話は控えることにした。

もどかしいけれど、これも「地道な一つひとつが、あとで会社を守ってくれる」という、証明書や商標のときと同じ考え方の延長線上にある判断だと思っている。手続きが一区切りついたら、あらためてここで報告したい。

緊張と高揚が混じる

8. 五つを並べてみて思うこと

五つの宿題を並べてみて、あらためて思う。

AIは、答えを教えてくれるわけではなかった。むしろ、私が何を決めていないかを、はっきりと見せてくれた。定款の言葉ひとつ、料金の一行、手順書の一段落。どれも、突き詰めれば「私自身がどう決めるか」でしかない。

それでも、反対側の椅子に誰かが座っているというのは、想像していた以上に心強かった。一人で悩んでいるときと、誰かに問い返されながら悩むときとでは、悩み方の質が変わる。前者はただの堂々巡りだが、後者は、少しずつでも前に進む堂々巡りだ。

退職の日が来たとき、五つの宿題のすべてが完成しているとは限らない。それでもいい。少なくとも、机の上に積まれた宿題の輪郭は、今よりずっとはっきりしているはずだから。

9. 最後に

今日は、証明書や補助金のような制度の話ではなく、起業準備の「作業そのもの」について書いてみた。

一人で会社をつくるという道を選んだ人に、AIとの向き合い方が何かの参考になれば嬉しい。値付けやSOPの具体的な数字は、また事業が形になったころに、あらためて書いていきたいと思っている。

もしよければ、フォローしておいてもらえると嬉しい。退職までの日々、そしてその先も、こういう地道な進捗を、また同じ調子で書いていくつもりです。よかったら、また読みにきてください。


本記事は2026年9月時点の状況をもとに作成しています。記載している料金・手順・仕組みの詳細は検討中の内容を含み、開業時の正式な内容とは異なる場合があります。

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