【活動記録】新しい七沢――畑と花まつりと、亀石の向こうの日向薬師
4月18日、七沢に行ってきた。
前回の記事(vol.3)はこちら。
https://note.com/gilles1974/n/ne29e030d84ba
あの記事で書いた通り、厚木市の七沢里山マルチライブプランは令和8年3月で制度上の区切りを迎えた。ジャガイモの種芋を植えて、「最後の活動日だった。けれど終わりの感じはしなかった」と書いた。
あれから1ヶ月。制度は終わった。だが畑はそんなものには関係なく続いている。
私はもともとフリーランスで、この活動を外側から支えている立場だ。制度の枠組みが変わろうが、ジャガイモは芽を出している。菜花はトウ立ちしてしまった。オッチャンは相変わらず人使いが荒い。何も変わっていない。

神奈中バスで広沢寺温泉入口。ここから七沢の谷地へ入っていく。

青いトタン屋根の小屋に「七沢里山づくりの会」の看板。vol.3でも同じカットを撮った。ペンキの色はとうに褪せていて、看板そのものが里山の時間を刻んでいる。制度が変わっても、この看板はここにある。そしてこの看板の下に集まる人たちも。
午前:最初の畑仕事

めっちゃトウ立ちまつり。
ブロッコリー、ダイコン、のらぼう菜——冬を越した野菜たちが一斉にトウ立ちして、畑が白と黄色の花で埋まっている。収穫は望めないが、食べられないことはない。トウ立ちした菜花もまた、春の七沢の味だ。

参加者全員で菜花を摘む。摘んでも摘んでも終わらない。大収穫祭の様相を呈している。

ブロッコリー畑にも一斉に手が入る。白いスチロール箱に摘んだ菜花を放り込みながら、畝の間を縫って進む。人使いが荒い七沢のオッチャンが、あっちを指さし、こっちに声をかけ、支持している。いい感じだと思う。

トラクターで耕したあとの区画に、紐を張って畝を立てる。横一列に10人近くが並んで鍬を振り下ろす。年齢も肩書きもバラバラ。でも畝を立てる手つきは、何度もここに来ている人と、初めての人とで明らかに違う。上手い下手ではなく、土との距離感が違う。オッチャンはそれを見ている。何も言わない。言わなくても、隣の人の手を見て覚える。里山の教え方はそういう感じだ。

トラクターが畑を耕していく。前回植えたジャガイモの隣の区画を、次の作付けのために起こす。オッチャンがトラクターに乗ると、畑の空気が変わる


鹿が柵を飛び越えてこないように、乾燥した竹を柵の周りに囲っていく。竹は以前伐採したものを利用している。捨てるものがない。切った竹が、時間を置いて防獣資材になる。こういう循環を、声を上げずにやる人たちがいる。

そして、あのジャガイモ。

芽を摘んで間引く作業
vol.3で種芋を植えた「キタアカリ」が、ちゃんと芽を出していた。丸い葉が地面すれすれに広がり、茎はまだ短いが、しっかりとした緑色をしている。
「最後の活動日」に植えた芋が、制度の区切りなど知らない顔で育っている。畑の時間は、人間の制度とは別の速度で動いている。

作業後のミーティング。パイプ椅子を円形に並べて、里山の中で打ち合わせ。今後の活動体制について話し合う。制度が変わっても、ここに集まる人たちの顔ぶれは同じだ。顔ぶれが同じだということは、この場所が人を繋ぎ止めているということだ。制度ではなく、土地と人が。
畑の住人たち

はいコンニチワ🦀
畑の脇の水路で沢蟹を発見。手袋の上に乗せると、ちょこんと構えている。こいつも七沢の住人だ。
はいコンニチワ🐸

カエルもいた。
ジャガイモはまだですよ。
ヒルもいた。ヒルちゃんの写真は自主規制。4月の七沢、もういるよねー。
七沢温泉郷を歩く


畑を離れて七沢温泉郷を歩く。七沢荘の近くに無人の野菜直売所がある。「価格の付いて無い物全て100円です」の貼り紙。タケノコの袋詰めが700円、500円。料金箱にお金を入れて、持って帰る。誰も見ていなくても成り立つ商売。これが成り立つのは、ここに暮らす人たちの間に信頼があるからだ。

七沢川沿いに八重桜が川にかかっていた。ソメイヨシノはとうに散り、葉桜に変わっている。だが八重桜はまだ盛りで、重たいピンクの花房が枝をしならせている。

八重桜を近くで見ると、花弁が幾重にも重なって、一輪が小さな牡丹のようだ。

青空に映える

クラシックなVWバスが2台と、アメリカンスクールバス(JOHNNY B'S INC.)が1台。その向こうに鐘ヶ嶽。新緑の山に飛行機雲が一本、斜めに走っている。七沢にこんな風景があることを、知っている人はあまりいない。ここにこのバスを停めて商いをしている人がいる、ということ自体が七沢の物語だ。

足元にはシャガ(射干)。薄紫の花弁に橙色の斑点が入った、林縁の花。七沢の道端には、こういう花が季節ごとに入れ替わりで現れる。
午後:七沢観音寺・花まつり

午後は七沢観音寺の花まつりへ。
4月18日・19日の二日間、11時から16時。七沢観音(正式には天台宗福聚院七沢観音寺)の本堂前で開催される春のお花見イベント。テーマは「癒」。甘茶かけ、風呂敷護摩(¥1,000)、本尊拝観(御開帳)、キッチンカー、ライブ演奏。

灌仏会——お釈迦様の誕生を祝う仏教行事。本来は4月8日だが、七沢観音寺では八重桜の見頃に合わせて、この時期に開催している。この自然に「合わせる」感覚が、この寺らしい。教義に厳密であるよりも、花と人が集まるタイミングを優先する。

花御堂の前に、日本盛の超盛300が2本。
小さな誕生仏に甘茶をかける灌仏会の作法と、カップ酒が同じテーブルに並んでいる。これが七沢だ。フォーマルとカジュアルが、何の矛盾もなく共存している。赤い壺に活けられた百合と菜花の華やかさと、超盛300のざっくり感。天台宗の格式と、地元の緩さ。どちらかが欠けたら、この祭りにはならない。
天上天下唯我独尊。

八重桜の下で、ラブズワークバンドが演奏している。若い3人組。ギター、ドラム、ボーカル。散った花びらが地面をピンクに染める中で、寺の境内にバンドの音が響く。来場者がベンチに座って聴いている。花まつりの幟と五色幕と八重桜とバンド。このミスマッチが、ミスマッチに見えないのが七沢の空気だ。

厚木のエンターテイナー、ゆかりんが場を盛り上げる
ここの八重桜は唯一無二だと、コッコが教えてくれた。
七沢観音寺には鶏がいる。ホロホロチョウもいる。花まつりの最中に堂々と石段を歩いている。八重桜の花びらが散る石段の向こうに、五色幕の本堂が見える。この一枚で七沢観音寺の空気がわかる。

桜は確かにきれいだけど、ポイントはソコじゃないんだぜ、とコッコその2が教えてくれた。
堂々たる佇まい。この寺の本当の主は、住職ではなくこの鶏なのかもしれない。コケコッコー。

蛇もいた。
花まつり幟の前で、参拝客が白蛇を首にかけている。おそるおそる手を伸ばす人、笑いながら受け取る人。蛇を渡しているのは住職のお母様で、慣れた手つきで首に巻いてあげている。七沢観音寺は蛇の寺でもある。弁財天の使い。鶏と蛇と八重桜と灌仏会と人が同じ境内にいる。この多層構造が、七沢という場所の厚みだ。

住職が声をかける
八重桜の下にキッチンカーが出ている。その脇を、黒衣の住職が歩いている。
この住職がいい。散り花びらのピンクの絨毯の上を、キッチンカーのお客さんと同じ空間で自然に歩いている。仕切るでもなく、挨拶回りをするでもなく、ただそこにいる。花まつりという行事を「開催」しているのではなく、この場を「開いて」いる感じがする。フォーマルな法要と、キッチンカーと、バンドと、鶏と、蛇が同じ境内で共存できるのは、この住職の人柄によるところが大きいのだろうと思う。

八重桜の散り花びらが地面を覆い尽くした中から、黄色いモッコウバラが顔を出している。桜が終わった場所から、次の花が始まる。諸行無常、季節は待ってくれない。
七沢観音寺と飯山の長谷寺、棚沢の常昌院の三寺で、切り紙御朱印の企画が動いているらしい。これは厚木の地域仮想通貨「アユモ」のツアーに組み込めるかどうか、検討の余地がある。
亀石から日向薬師へ
花まつりの余韻を引きずりながら、林道薬師線、七沢から伊勢原方面へ歩く。

亀石。杉林の中に突然現れる巨大な岩。苔と地衣類に覆われた表面が、確かに亀の甲羅に見える。七沢と日向の境界にあるこの岩は、古くから名所として知られている。畑の賑わいと花まつりの華やかさのあとに、誰もいない杉林の中でこの岩と向き合うと、静かだな、と思う。

カーブミラーがあれば、とりあえず撮りたくなる。サムズアップ。vol.3でもやったやつ。シリーズの定番になりつつある。やりたいからやっているだけ。


日向薬師。茅葺きの本堂(重要文化財)が、新緑の山を背に静かに建っている。人の姿はまばら。3月、ここには赤いミツマタが咲いていた。あのときもほとんど人がいなかった。七沢の賑わいが嘘のように、尾根ひとつ越えたこの場所は、いつも静かだ。

日向珈琲。日向薬師の直近、バス停脇に構えるカフェ。ORGANIC SOY GELATO、「日向・伊勢原 おみやげ最中」の看板。新旧が混じり合った店構えが、日向の温度感をそのまま映している。市道を少し東に行ったところで毎週末「ひなたマルシェ」が開催されている。

日向薬師の入口のツツジの上をクロアゲハが舞っていた。チョウチョウなのにカラスアゲハ呼ばれとんねん。

日向薬師の石段の上でカナヘビが日向ぼっこ。トカゲなのにカナヘビ呼ばれとんねん。名前と中身が一致しないのは、人間も生き物も同じだ。
本日の報酬

七沢のオッチャン山のタケノコ。七沢のオッチャン畑の甘夏。七沢の畑で摘んだ菜花(のらぼう菜、ダイコン)。トウ立ちして引っこ抜いたダイコン、芽かきしたジャガイモなど(コレどうすんの案件)。
タケノコがでかい。我が家の包丁では太刀打ちできない希ガス。
控えめに言って、優勝。
vol.2では「七沢の湧水2.5L、のらぼうなの苗いっぱい」が報酬だった。vol.3では「のらぼう菜を毎日食べていた」と書いた。そして今回はタケノコと甘夏が加わった。制度が変わっても、報酬のラインナップはアップグレードしている。これは市場の取引ではない。土地と人との関係から生まれる、循環する贈与だ。オッチャンがタケノコを掘り、甘夏をもいで、「持ってけ」と渡す。この「持ってけ」の一言に、実存経済の手触りがある。
ここからが、次の七沢
マルチライブプランの制度は3月で区切りを迎えた。だが、4月の畑にはジャガイモの芽が出て、菜花がトウ立ちし、沢蟹が水路を歩いていた。七沢観音寺では花まつりが開かれ、鶏たちが境内を支配し、住職がキッチンカーの脇を歩いていた。亀石はいつも通りそこにあり、日向薬師は相変わらず静かだった。
枠組みが変わっただけだ。畑に立つ人は同じ。柵を直す人も同じ。タケノコを掘って「持ってけ」と渡すオッチャンも同じ。花まつりの場を開く住職も同じ。
独立一発目。いい感じだと思う。
過去の七沢シリーズはこちら
vol.1【活動記録】"ぐるっとまるごと七沢" vol.1
vol.2【活動記録】"ぐるっとまるごと七沢" vol.2――梅と畑とのらぼうなの春がきた
vol.3【活動記録】春の七沢は人がつくる――最後の活動日に見えた、畑と観光と湧水のつながり
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