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下町音楽夜話 Reloaded 583「夫婦善哉」

■■■本稿は下町音楽夜話583「夫婦善哉」(2013年8月24日)に加筆修正したものです■■■

夫婦善哉などと言っても、今の若い方にはピンとこない言葉かもしれない。自分でもかろうじて記憶の片隅に存在していたようなものだ。今年、生誕100年を迎える織田作之助の同名小説を原作とするテレビドラマがNHKで放映されるというので、随分懐かしい名前だなと記憶の糸を手繰ることになった。もっと源流をたどれば、大阪の法善寺横丁にある店の名前で、せんざい一人前をお椀2つで出すことに由来するという。しかし自分が憶えているのは、ミヤコ蝶々と南都雄二が司会を務めたトーク番組のほうである。別に好きだったわけではないが、妙に記憶に残っている言葉なのである。蛇足ながら、石川さゆりのヒット曲もあったが、こちらも別に好きなわけではない。

何故こんなことを書いているかというと、テデスキ・トラックス・バンドの新盤「メイド・アップ・マインド」がリリースされたからである。ご存じスーザン・テデスキとデレク・トラックスの夫婦による双頭バンドである。現代を代表する凄腕ギタリストであるデレク・トラックスの音源は、すべてが必聴なのだが、自分の場合、残念ながらスーザン・テデスキ絡みの音源はさほど好きになれず、毎度残念な思いをしている。

デレク・トラックスはオールマン・ブラザーズ・バンドのギタリストでもあるわけで、いろいろな音源に接する機会が多いことが嬉しいが、そのどれもがハイ・クオリティであることから、この男の実力が並大抵のものではないことが知れる。ただし、夫婦の音源だけは遠慮があるのか、イマイチに思えてしまうのは自分だけだろうか。スーザン・テデスキのヴォーカルが好きではないというだけなのかもしれないが、どうもいけない。そんなわけで、今回もさほど期待せずに、それでもアナログ盤とCDは予約して、発売日を待つこととなった。

ジョン・メイヤーの新盤「パラダイス・ヴァレー」もリリースされた。こちらも当然ながら予約しておいたので、同日届くことになった。必然的に聴き比べることになってしまう。2度目の咽喉の手術を経て、奇跡のカムバックと言われた今回のジョン・メイヤーの新盤は、初期の雰囲気を狙ったのか、原点回帰的な印象が強いもので、非常に好みのものである。若いわりに渋い声と艶のある素晴らしいギターを聴かせる男として、思い切り注目してきた。また、結構な頻度でリリースされるアルバムは、どれも素晴らしいものだった。それでも、自分は初期の感動が忘れられず、100%の満足が得られていたわけではなかった。それが、今回は、これまでの中でもベストの一枚と思えるものだったのである。「ペーパー・ドール」など、名曲と言ってよいのではなかろうか。

その一方で、テデスキ・トラックス・バンドの「メイド・アップ・マインド」のほうは、どうにも満足できる出来ではない。まず、どういうわけか、音が悪い。とても現代のスタジオ録音とは思えない籠った音質に呆れてしまう。ついでに、いつものことながら、スーザン・テデスキのヴォーカルは歌っていない。音程が外れたりするわけではないのだが、どうにも歌わないヴォーカルはデレク・トラックス・バンドのマイク・マティソンあたりに任せてしまったほうがいいと思うのは自分だけではあるまい。

曲はいずれも悪くない。デレク・トラックスの特徴あるスライドもいい塩梅に聴けて嬉しいのだが、物足りないと言えば言えなくもない。スティーヴ・ヴァイのようにギター・テクが売りのミュージシャンの、明らかにバランスを崩した弾き過ぎアルバムを期待しているわけではないのだが、もう少し弾いてもいいのではと思う。遠慮し過ぎではないか。

夫婦円満の秘訣はこの辺にあるのかもしれないが、人間、仕事の現場では遠慮なんかしてはいられない。ブルース・スプリングスティーンのところのように、一緒にやっていても問題ない場合もあるが、こちらは二人ともギタリストだし、どうも相乗効果以上にマイナス面ばかりが目についていけない。持ちつ持たれつの夫婦関係よりも、火花散る真剣勝負を繰り返しているようなギター・バトルを期待することは、この際あり得ないのだろう。一緒に音楽をやるということは、殊の外難しいことらしい。

小説やドラマの夫婦善哉も夫婦円満というものではないが、やはり丸く治まるものよりも、少し荒れているくらいのほうが、音楽は面白い。結局このアルバムでも、8曲目「オール・ザット・アイ・ニード」の後半の、気まぐれのようにデレク・トラックスが弾きまくるところがハイライトのように思えてしまうのだ。


■2026年の独り言■
この段階でもう「遠慮があるのでは…」といったことを書いておりますが、今もって同じ印象です。スーザン・テデスキと一緒にやらない方がかなり良い演奏になっているという自覚はないんですかね…?


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