見出し画像

下町音楽夜話 Reloaded 521「マルコ・ポーロ、プリーズ」

■■■本稿は下町音楽夜話521「マルコ・ポーロ、プリーズ」(2012年6月16日)に加筆修正したものです■■■

30年ほど前のテレビ・コマーシャルを話題にするあたり、もう既に問題行動なのだが、結局自分の感性といったものはその辺で止まっているので仕方がない。何が言いたいかというと、「サントリー・リザーブのボブ・ジェイムスが出ていたCMを覚えていますか?」…ということなのである。大方の読者は「知らんわ」で終わる話題である。せめてお付き合いいただけるなら、YouTubeでも観ていただければと思う。1分ほどの当時としては長めのCMで、それほど長い期間放送していたわけではなかったと思うので、まことに申し訳ないが、知らない方のほうが圧倒的に多い話題であろう。

とにかく、そこで使われていた曲、「マルコ・ポーロ」が大好きで、ボブ・ジェイムスといえばこの曲といった感は否めないのだが、実はこれは日本だけの事情である。海外では日本のテレビ・コマーシャルなど知るわけもなく、そもそもベスト盤にも収録されていない曲なのである。

しかし、申し訳ないが、演奏も含めて、ボブ・ジェイムスの全ての曲のなかで、最高の一曲だと思っている。今聴くと少しリズムが古臭く聴こえなくもないが、やはり佳いメロディである。1983年の「フォクシー」というアルバムのラストを飾る曲で、このアルバムは総体的にポップで聴き易く、日本人向けとも言える親しみやすいメロディがあふれており、日本人に好まれる盤だった。「マルコ・ポーロ」は、ベースがマーカス・ミラー、ギターがスティーヴ・カーンとヒュー・マクラッケンというメンツである。「フォクシー」というアルバムは、とにかく豪華なラインアップで録音されており、とりわけベースは、ウィル・リー、ロン・カーター、ゲイリー・キング、そしてマーカス・ミラーなどといった名手を、曲によって使い分けている。本当に贅沢な話である。

それにしても便利な世の中だ。昔のCMが見たければ、大抵のものがYouTubeで見られる。先日も件のボブ・ジェイムスが出ていたCMが見たくて、「ボブ・ジェイムス・CM・サントリー」で検索したところ、しっかりヒットした。踊りだしてしまうメイドさんも可愛いが、それ以上にやはりよく練られたCMである。サントリーのCMはいずれも印象深いものが多く、YouTubeでも猛烈な数のCMを見ることができる。

自分の場合は、ここ20年ほどロクにテレビを観ていないので、どうしても古いものが気になってしまうが、ウィスキーのCMで大原麗子が出ていた一連のシリーズや、松田聖子のヴォーカルをフィーチャーしたペンギンのものなど、やはり忘れられない。また、名優国村準さんが嫁入り前の娘の父親を演じているサントリー・オールドの名作CMも忘れられない。最近のトミー・リー・ジョーンズが出ているBOSSのCMなども嫌いではないが、昔のサントリーのCMはミニ・ドラマのようで素晴らしかった。

いやはや、話がそれてしまったが、そのボブ・ジェイムス、今年の東京JAZZのトリを勤めるという。メンツはウィル・リーやスティーヴ・ガッドといった豪華さである。ここ数年、知人がチケットをとってくれるので毎年行っているイヴェントではあるが、今年もお願いしてしまった。当日の対バンはカシオペアの現在形やらエスペランザ・スポルディングというから、嬉しいラインナップである。自分の場合、その三者であればお目当てはエスペランザとなってしまうが、決してボブ・ジェイムスを聴かないわけではない。アイコニックなジャケットに惹かれてアナログ・レコードも10枚ほど持っている。すべてを聴き尽くしているかといわれるとそうではないが、それなりに聴いているほうのミュージシャンではある。

ただし、彼が日本で受けるかというと、少々心配でもある。とりわけ理由があるわけではないが、日本でそれほど人気があったかというと、首を傾げてしまう。前述の「マルコ・ポーロ」の他にも「スパークリング・ニュー・ヨーク」もCMで使われていたので、その辺を聴きたくてというお客さんは多いのではなかろうか。さてどれだけ盛り上がるのやら。

フュージョンという音楽をジャズとロックの融合という意味で捉えるなら、ボブ・ジェイムスほどロックの要素が希薄なフュージョンも珍しい。70年代から流行したフュージョンはエレクトリック・ギターがフィーチャーされたものが多かった。一部、デイヴ・グルーシンやボブ・ジェイムスといったミュージシャンが、クラシック寄りのジャズとでもいうべき上品さを持って、一つのグループを形成していたように思う。

また、別の見方をすれば、一方でウェストコーストではスティーヴ・ルカサーやジェイ・グレイドンといった上手いギタリストが奏でる、かなりハードなギター・サウンドをロックそのままのテイストで持ち込んだフュージョンというものも確かに存在したわけで、その対局とでもいうべき、イーストコースト代表と捉えることもできるだろう。その分、ウェストコーストが持っていた健康的なテイストや、埃っぽさ、土臭さといったものは希薄である。そういう意味では都会的で洗練された、などといった形容が実にハマっていたものである。

今聴くと大差ないようにも感じられるが、この30年ほどの社会の変化がそこに作用しているとしたら、また面白いことでもある。ジャズの精神性を省いたお手軽音楽として捉える向きもあったフュージョンだが、現在ではジャズとはまったく別物として居場所を得たようにも思う。そういった意味では、昨今フュージョンの復活、フュージョン・ブームがどれほどのものか、当日分かるのかもしれない。ボブ・ジェイムスで盛り上がれるのであれば、本物だろう。東京JAZZはもともとコアなジャズ・イヴェントとは言えないラインナップできているので、うってつけの場でもあるのだ。


■2026年の独り言■
サントリーのCMは大好物です。もうその一言です。



いいなと思ったら応援しよう!