短編小説:冬の駅
舞台は未来の山形市。
私の名前は隆久(たかひさ)。山形駅の職員だ。
冬の朝はまだ暗い。吐く息は白く、駅前に積もった雪が街灯の明かりを静かに照り返している。
山形駅は、かつて山形市の中心として多くの人で賑わっていた。
しかし、大都市で起きた不動産バブルと貨幣経済の崩壊は、人や物の流れを大きく変えてしまった。
貨幣経済の崩壊直後は、東京から故郷へ戻る人々で駅があふれていた。改札の前には家族が並び、再会を喜ぶ声が響いていたのを今でも覚えている。
あれから4年。
お金の価値を失った社会では、鉄道を維持すること自体が簡単ではなくなった。
南は米沢、北は新庄までの地域輸送が中心だ。
幸い、新幹線だけは全国を結ぶ重要な路線として維持され、東京とのつながりも残っている。
それでも1日に走る本数は8本ほどだ。
私は駅舎の鍵を開け、暖房用の薪ストーブに火を入れる。ホームを歩き、安全を確認しながら積もった雪を片付ける。
やがて、遠くからモーター音が聞こえてきた。
米沢から来る普通電車だ。
数人の通勤客と市場へ向かう人が降り、数人が乗り込んでいく。
以前ほどの混雑はない。
それでも毎日顔を合わせる人たちは、この鉄道が生活に欠かせないことを知っている。
続いて、新庄からの普通電車が到着する。
乗客の中には、大きな籠を抱えた農家の人や、学校へ向かう学生の姿もある。
「おはようございます。」
自然とそんな挨拶が交わされる。
午前中になると、小さな山場がやってくる。
東京から朝一番に出発した新幹線の到着だ。
白い雪煙を巻き上げながら、新幹線はゆっくりとホームへ滑り込んでくる。
静かにドアが開く。
降りる乗客は多くない。
その代わり、私たち駅員の仕事が始まる。
車内から運び出すのは、大切な荷物だ。
貨幣経済の崩壊以降、新幹線による貨客混載は日常のことになっている。
服、砂糖、塩、乾麺、保存の利く食料、工具や日用品。
一つひとつを受け取り、帳簿と照らし合わせながら確認する。
「砂糖二箱、確認。」
「保存食五箱、確認。」
声を掛け合いながら、ホームの一角へ丁寧に積み上げていく。
今度は山形から送り出す番だ。
洋梨ジャム、干しブドウ、干しサクランボ、瓶詰め、野菜、乾物、味噌。
地域で作られた品々を、再び一つずつ手渡しで確認しながら積み込んでいく。
大量ではない。
だからこそ、一つひとつが大切だ。
積み込みが終わる頃には、乗客も乗車を終えている。
発車時刻。
ベルが静かに鳴る。
ドアが閉まり、新幹線はゆっくりと動き始めた。
白い雪景色の中へ吸い込まれるように、小さくなっていく。
私はホームに立ち、その姿が見えなくなるまで見送る。
しばらくして、また普通電車がやって来る。
駅の時計は止まることなく時を刻み、人々の暮らしも静かに続いていく。
派手さはない。
それでも、この駅は今日も人と人、町と町を結び続けている。
雪が降り積もる冬の山形駅で、私は明日もまた、この日常を守っていく。
