【愛縁奇縁/逢魔編】第一話:静寂の中に灯る願い
―玄――
白に拒絶されるとは、思ってもいなかった。
いや、頭のどこかで予感はあったのかもしれない。
だがその言葉を耳にした瞬間。
胸の奥に重い石を押し込まれたような感覚が走った。
それは自分への失望。
何もできなかった悔しさが込み上げてくる。
俺の視線は地面に落ちたまま動かない。
如月と志輝は驚きと困惑を隠せない表情で立ち尽くしている。
如月は眉を寄せ口を噤み、何か言いかけては飲み込む。
志輝は落ち着かない様子で足元の霧を踏みしめる。
……――――この結果は、俺が招いたものだ。
あのとき声を上げずにいれば彼女らは現世で日常を過ごせただろう。
だが白が危ういと知った瞬間。黙って見過ごすことなどできなかった。
守護者としての務めが、自分を駆り立てたのだ。
……だがその結果。
白の背は遠き、俺との間には取り返しのつかない距離ができてしまった。
沈黙を破ったのは幽世を吹き抜ける風だった。
淡く揺れる霧が足元を撫で、ひやりとした空気が頬を掠める。
霧の向こうから、柔らかくも凛とした声が届いた。
「……玄」
顔を上げると、華が立っていた。
幽世の月光を浴びた白髪は霧と溶け合うように揺れ、
漆黒の瞳は星の瞬きを秘めているようだ。
静かな佇まいで、足元からは土を踏む確かな感触が伝わってくる。
その存在感は、まるでこの世界そのものの秩序を具現化したかのよう。
「持ち場に戻ってください。
これ以上、白の傍を離れることは赦されません」
穏やかでありながら拒めない重みを帯びた声音に胸が締め付けられる。
今ここを離れれば、黑たちと共に進む道を閉ざされてしまう。
だが華の言葉は正しい。守護者の役目は何よりも白を護ることだ。
それを放棄すれば俺の存在意義は消える。
迷う俺を見て、黑がゆっくりと歩み寄り、肩を叩いた。
「行じゃ……妹んこと、頼んまっせ」
低く静かな声には、深い信頼と託す覚悟が滲んでいた。
その横で、白哉もまっすぐに俺を見据える。
「……あの子を守れるのは、お前しかおらん。
僕らの分まで、傍にいてやってくれ」
その言葉に、喉の奥が熱くなる。
後ろで如月が小さく息を呑み、志輝は拳を握って俯いたまま動かない。
四人とも言葉はなくとも分かっている。
……この選択が、俺にとってどれだけ重いものかを。
深く頭を垂れ、額が膝につくほど沈めてから静かに息を吐いた。
「……承知しました」
華が小さく頷く。その合図に従い、踵を返す。
だが霧の中に踏み出す前に振り返った。
「こんな結果になり、本当に申し訳ありません。
……西の森へ向かってください。
そこには、白角大神《しろづのおおかみ》様が居ります。
きっと何か、助言を下さると思いますので……」
言葉を終えると、再び前を向き、霧の奥へと足を踏み入れる。
背後で黑、白哉、如月、志輝の息遣いを感じるが、誰も何も言わない。
それが却って胸を締め付ける。
霧が視界を覆い、彼らの姿はやがて消えていく。
心の奥で小さく願う。どうか、白を見捨てないでくれと。
そして俺が選んだこの道が間違いではなかったと証明してほしい。
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