見出し画像

「プログラミング知識ゼロ」でもここまで作れる。AIと協働して「展示会で80社が使うアプリ」を内製化した話

「自社オリジナルのアプリやツールを作って、業務を効率化したい」
「でも、社内にプログラマーなんていないし、外注する予算もない…」

そんな風に諦めてしまっている方、実はとても多いのではないでしょうか? 「AIを使えばプログラムが書ける」とは聞くけれど、本当に素人が実用的なものを作れるのか、半信半疑な方もいるはずです。

しかし、実は私たちの会社では、今年の4月に入社したばかりの新卒社員が、ほぼ独力で「採用力診断アプリ」を開発しました。
先日行われた採用戦略支援サービスの展示会で実際に稼働させ、約80社もの商談リードを獲得するという成果を上げています。

特別なプログラミングスキルを持っていたわけではありません。
彼が持っていたのは、「AIを“優秀なパートナー”として扱うスキル」だけでした。

今回は、専門家がいない組織でも真似できる、「AIと協働して成果を出すための開発ストーリー」をご紹介します。


開発のきっかけと、完成した「シンプル」なアプリ

◆きっかけは「展示会で、お客様の足を止めたい」

開発のスタートは、上司からの何気ない一言でした。

「今度の採用戦略支援サービスが集まる展示会で、来場した採用担当者の方に興味を持ってもらえるような、目を引くツールがないかな?」

私たちの会社は、企業の採用活動を支援するコンサルティング事業を主軸としています。今回出展したのは、多くの人事・採用担当者が来場する大規模な展示会(EXPO)。
数えきれないほどの企業ブースが並ぶ中で、ただパンフレットを配るだけでは、なかなかお客様に足を止めてもらえず、具体的な商談につなげるのは至難の業です。

そこで、
その場で企業名を入れるだけで、自社の採用課題がわかる診断アプリ
があれば、お客様の足を止め、自然な流れで「診断結果について詳しくお話ししませんか?」と商談に入れるのではないか。

そんな狙いからプロジェクトは始まりました。

◆どんなアプリができたのか?

目指したのは、展示会の立ち話でも使える「究極にシンプルな使い勝手」です。 実際に完成したアプリの画面をご覧ください。

▼ 入力画面
企業名などを入力してスタートボタンを押すだけ。
余計な操作は一切必要ありません。

▼ 診断結果画面
数分後、AIが分析したスコアと改善ポイントが表示されます。

ユーザー(お客様)から見ると、裏側で複雑なAIが動いていることは全くわかりません。 ただ「入力して待つだけ」のシンプルなツールです。

①入力
 
画面に「企業名」を入力してスタートボタンを押す。
②収集
 
システムが自動でWeb上(HP、採用サイト、SNSなど)から最新情報を集める。
③診断
 
集めた情報を元に、AIが採用力を採点・分析する。
④結果
 
数分後、スコアと改善ポイントが表示される。

しかし、この「シンプルで高精度な診断」を実現するために、裏側では新卒エンジニアによるAIとの泥臭い協働作業が行われていました。


「AIに全部お任せ」ではうまくいかない?
AIにも「役割分担」を


先ほどのアプリの流れを見ると、今の進化したAIなら「〇〇社について診断して」と1回頼めば終わりそうに見えます。

しかし、2025年上旬の開発当時は、そう簡単にはいきませんでした。
当時のAIモデルでは、1回ですべてを任せようとすると精度が落ちてしまい、「器用貧乏」になりがちだったのです。

◆どんな問題が起きたのか?

  • ネット検索は得意だけど、分析が浅い

  • 分析は鋭いけれど、検索機能がないため情報が古い

◆解決策:2つのAIによる「完全分業」

そこで、このフローの中に2つのAIを連携させる「完全分業制」を採用しました。

  • ① 検索担当のAI(調べる係)
    Web上の最新情報を集めることに専念する。
    ここでは検索能力に長けた「GPT-4o(Search Preview)」を採用しました。

  • ② 分析担当のAI(考える係)
    集まった情報を元に、人事のプロ視点で採点することに専念する。
    ここではじっくりと推論することに特化した「o3」というモデルを採用しました。

「調べる係」が集めた資料を、「考える係」に渡して分析させる。

このように人間と同じようにAIにも役割を与えることで、「情報は最新なのに、分析も深い」というプロ顔負けの診断結果を実現しました。


待ち時間を「ワクワク」に変える! AIならではの見せ方

AIが企業の情報を調べて分析するには、どうしても2〜3分の時間がかかります。

開発当初はシンプルな「処理中」という表示だけでしたが、テスト段階で現場メンバーから「これでは無言の時間が長く、お客様が帰ってしまう」というフィードバックもありました。

そこで、単なる待ち時間にするのではなく、ユーザー体験(UX)を向上させるためのUIにこだわりました。

具体的には、「今、AIが何をしているか」をリアルタイムで表示する仕組みを導入したのです。

  • 「企業のホームページを検索しています…」

  • 「採用情報を分析しています…」

このように処理フェーズに合わせてメッセージが切り替わることで、お客様に「今まさに自分のために調べてくれている」という安心感を提供できます。
現場の意見を取り入れて実装したこの機能により、待ち時間は「結果を待つ楽しみな時間」へと変わり、離脱を劇的に減らすことができました。


新卒社員がやっていた、AIへの「指示出し」の極意

なぜ、実務経験の浅い新卒社員が、ここまで複雑なアプリをAIと協力して作れたのでしょうか? その秘密は、使うツールの選び方と、AIとの「対話の手順」にありました。

◆GoogleにはGoogleを。
「Gemini」と「ChatGPT」の使い分け

まず彼が行ったのは、開発に使うAIツールの選定です。
今回はGoogle Apps Script(GAS)というGoogleの言語で開発するため、Google製である「Gemini(ジェミニ)」をメインのコード生成ツールとして選びました。
同じGoogle製なので、GAS特有のライブラリや仕様に詳しく、エラーが起きにくいからです。

一方で、要件定義やアイデアの壁打ちには、対話能力の高い「ChatGPT(チャットジーピーティー)」を活用。

このように、「誰に何を聞くか」を人間が適切にディレクションすることから開発は始まりました。

◆いきなりコードは書かせない。「急がば回れ」の対話術

ChatGPTでの要件定義、アイデアの壁打ちからGeminiで最初のコードを生成した後、実際にアプリを開発中、エラーが出たり行き詰まったりしたとき、多くの人は焦って「エラーが出た部分のコードを修正して」といきなり指示してしまいます。

しかし、ここでまずAIに対してこう投げかけることが重要なのです。

「まずは現状を理解してください」

なぜ、「修正して」だけではダメなのでしょうか?
AIに対して「ここを直して」といきなり指示を出すと、AIは文脈を考慮せず「その部分だけ」を見て修正しようとします。

その結果、全体の設計を無視した継ぎ接ぎのコードになり、別の場所で新たなエラーが発生してしまうことがよくあるからです。

だからこそ、以下の「急がば回れ」の3ステップが非常に重要になります。

Step 1:現状の共有と理解
「今、こういうコードを書いていて、ここを直したいと思っている。
まずは現状のコードを読み込んで、何が起きているか理解してください」と伝えます。
これにより、AIにアプリ全体の地図を再確認させます。

Step 2:認識のすり合わせ
AIからAIが理解している現状のコードの処理の流れの返答をもらいます。
ここで、AIの理解が自分の意図と合っているかを人間がチェックします。
もしズレていれば、この時点で訂正します。

Step 3:エラー内容の説明
AIの理解が正しいことを確認した上で、「実はここで〇〇というエラーが出ている」「この機能をこう変更したい」という具体的な要望やエラーログを伝えます。
AIは全体の構造(Step 1〜2)を理解しているので、このエラーが「なぜ起きているか」を正確に把握できます。

Step 4:実行指示
すべての認識が揃って初めて、「では、修正してください」と指示を出します。

これは、人間相手の仕事と全く同じです。
部下や同僚に仕事を頼むとき、前提条件がズレたまま「これやっておいて」と指示を出しても、望んだ成果物は出てきません。

「AIと目線合わせをする」

この丁寧なコミュニケーションこそが、AIに的確なコードを書かせ、開発を成功させる最大の鍵でした。


難しいプログラムは書かない。「既存の画面を埋め込む」というアナログな正解


こうしてAIによる診断機能は完成しました。
しかし、ここで現場から「さらなる追加要望」が飛び込んできました。
それが、「既存の営業管理ツール(CRM)」との自動連携です。

「診断結果を出すだけでなく、その顧客情報を普段社内で使っている営業管理ツールにも自動で登録してほしい」 展示会でのスムーズな商談管理を考えると、確かに必要な機能です。
しかし、これは開発難易度を一気に上げる要望でした。

◆立ちはだかる連携の壁

通常、ツール同士を連携させるには専用のプログラム(API)を使います。これは、ツール同士を裏側でつなぐ「専用のパイプ」を作るようなものですが、専門的な知識がないと、予期せぬエラーの連続で開発が完全にストップしてしまうリスクがあります。

実際に最初はAPI連携に挑戦しました。
しかし、以下のようなトラブルが続出し、開発は泥沼化しました。

・データの重複登録: 同じ会社名なのに、別会社として登録されてしまう
紐付けのエラー: 担当者名と会社情報が正しくリンクしない
スマホでの不具合: PCでは動くのに、スマホからだとデータが届かない

専門知識がないままAPIをいじり続けると、こうした原因不明のエラーの連続になり、開発はいつまで経っても終わりません。
そこで彼は、AIと相談しながら「あえて難しい連携はしない」という判断を下しました。

◆採用したアナログな解決策

①普段使っている営業管理ツールの「入力フォーム」を、
 そのままアプリ画面に埋め込む。
②お客様が「送信」ボタンを押した瞬間、データは営業管理ツールへ飛ぶ。
③送信と同時に、画面が自動的に切り替わり、AIの診断がスタートする。

これなら、難しいプログラムを書かずに「ボタンひとつで営業リストへの登録完了」という状態が作れます。

「高度な技術」にこだわらず、「確実な方法」を選ぶ。
これもAIと相談したからこそ生まれたアイデアでした。


「泥臭い判断」が80件のリードを生んだ


こうした数々の泥臭い判断は、実際の展示会でどのような成果を生んだのでしょうか?

結果として、このアプリは展示会の3日間で約80社のお客様にご利用いただき、そのまますべてを商談リードとして獲得することに成功しました。

◆診断をきっかけに「深い商談」へ

このアプリの最大の効果は、「お客様が自ら足を止めるきっかけ」を作れたことにありました。
通り一遍の呼び込みでは反応がないお客様も、「自社の採用力がその場でわかる」というコンテンツには興味を示してくれます。

そして、AIが出した客観的な診断結果と改善ポイントが表示されることで、その場にいる現場スタッフは自然な流れで「解決策の提案」に入ることができます。

「AIの結果ではここが課題と出ていますが、弊社ならこういった手法で解決できます」 このように、アプリが話題の入り口となり、現場の人間が具体的なソリューションを提案することで、単なる展示会の立ち話から「課題解決のための具体的な商談」へと発展し、結果として自社のビジネスに深く引き込むことができたのです。

◆確実性が生んだ「余裕」

もしAPI連携にこだわっていたら、当日の通信環境によってはデータが届かなかったり、エラーが出てお客様を待たせてしまったりしていたかもしれません。
しかし、選んだのは「入力フォームの埋め込み」という最も確実な方法でした。そのおかげで、データの取りこぼしはゼロ
トラブル対応に追われることなく、現場のメンバーはお客様との対話に集中することができました。

技術的に高度なものを作ることが正解ではありません。 「現場で確実に動き、ビジネスの成果につながるもの」こそが、本当に価値あるツールなのだと証明された瞬間でした。


これからの展望:AIの進化でもっと便利に


今回のアプリは、展示会での成功をゴールとは考えていません。
今後も日進月歩で進化するAI技術に合わせて、さらに使いやすく、価値のあるツールへとアップデートしていく予定です。

現在構想しているのは、大きく分けて2つの進化です。

① 最新モデル(GPT-5など)への統合による「爆速化」

現在は、精度の高い診断を実現するために、「検索担当」と「分析担当」という2つのAIを裏側で連携させています。
しかし、これはあくまで開発時点での最適解に過ぎません。

すでに、「検索も分析も超得意」な次世代AI(GPT-5など)が登場しています。 今後はこれら最新モデルへの統合を検討しています。
もし1つのAIですべての工程を完結できれば、AI同士のバトンタッチ(データの受け渡し)にかかっていた時間がゼロになります。

  • 診断スピードの向上
    待ち時間が大幅に短縮され、Webサイトの表示と同じ感覚で診断結果が見られるようになるかもしれません。

  • 通信コストの削減
    AIへの通信回数が減ることでランニングコストが下がり、より安価にサービスを提供できるようになります。

技術の進化を取り入れることで、「待たせない体験」をさらに磨き上げていきます。

② 「診断」から「レポート」へ。持ち帰れる価値の提供

現在は画面上でスコアと改善ポイントを表示するだけですが、今後は「詳細な分析レポート」をPDFなどで出力する機能の実装を目指しています。

診断結果を見た担当者の方が、「なるほど!」と思って終わりではありません。 その結果を社に持ち帰り、上司やチームメンバーに共有して初めて、具体的な改善アクションが始まります。

  • 自社の強み・弱みを可視化したレーダーチャート

  • 競合他社との比較データ

  • 具体的な改善施策の提案リスト

こうした情報がまとまったレポートがボタン一つで出力できれば、それは単なる「診断アプリ」を超え、「専属のAIコンサルタント」として、組織の意思決定を強力にサポートできるはずです。

AIは「使う」ものではなく、「協働する」もの

今回の事例が示したのは、特別なエンジニアや大きな予算がなくても、AIと協働すればビジネス成果を生み出せるという事実です。

重要だったのは、「AIに全部任せる」ことではなく、
役割を分け、丁寧に対話し、最終判断は人間が行うこと。

そしてもう一つ。
技術的に高度であることよりも、現場で確実に動き、成果につながる設計を選ぶことのほうが重要だということです。

今回生まれたのは、単なるアプリではなく、
商談を生み出す“仕組み”でした。

AIは魔法ではありません。
しかし、正しく向き合えば、組織の可能性を一段引き上げる強力なパートナーになります。

次に一歩を踏み出すのは、あなたの番です。


いいなと思ったら応援しよう!