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稼働率90%でも赤字になる——地方の宿で、私が本当に見ている3つの数字

「稼働率、どれくらいですか?」

宿の話になると、ほぼ必ずこの質問をされます。投資家の方からも、金融機関の方からも。気持ちはよく分かります。分かりやすい数字ですから。

ただ、私は稼働率をいちばんに見ていません。稼働率90%で赤字の宿もあれば、稼働率55%でしっかり残る宿もあるからです。

■ 稼働率が高い宿ほど危ないことがある

極端な例から始めます。

1泊5,000円の部屋を、20室、稼働率90%で回したとします。月の売上はおよそ270万円。数字だけ見れば立派に見えます。

ところが、20室×0.9=18室分の清掃が毎日発生します。清掃を1室3,500円で外注していれば、月の清掃費だけで約189万円。これにリネン代、アメニティ、水道光熱費、OTA(予約サイト)の手数料が10〜15%乗ってきます。フロントに人を置いていれば人件費も。

計算するまでもなく、これは残りません。稼働率90%という数字は、この状況では「変動費を90%分きっちり発生させている」という意味でしかないのです。

稼働率は、単価とセットでなければ意味を持ちません。

■ 私が見ている3つの数字

①ADR(平均客室単価)

その宿が、1泊あたり実際にいくらで売れているか。定価ではなく、割引もキャンセルも織り込んだ実績値です。

宿の収益構造で最も効くのはここです。単価を1,000円上げることは、稼働率を10ポイント上げることより、たいていの場合ずっと簡単で、しかも利益への効き方が違います。稼働率を10ポイント上げれば清掃もリネンも増えますが、単価1,000円アップにはコストがほぼ乗りません。まるまる利益になります。

②RevPAR(客室あたり売上)

ADR×稼働率。全客室が1室あたりいくら稼いだかを示す数字です。

稼働率とADRはたいてい逆に動きます。値下げすれば埋まる、値上げすれば空く。だから片方だけを見ていると必ず判断を誤ります。RevPARを見れば、「値下げして埋めた」結果が本当に前より良かったのかが一発で分かります。

私は、値付けを変えたときは必ず前月・前年同月とRevPARで比べます。稼働率が下がっていてもRevPARが上がっているなら、その値上げは成功です。

③変動費率——1泊売れるごとに、いくら出ていくか

清掃費、リネン、アメニティ、OTA手数料、決済手数料。1泊売るたびに確実に出ていくお金の合計です。

これがADRの何%を占めるか。ここが50%を超えていると、正直かなり苦しい。稼働を上げても利益がついてこない構造になります。

さきほどの5,000円の例だと、清掃3,500円+リネン等+OTA手数料で、変動費率は軽く80%を超えます。この宿は「働けば働くほど苦しい」状態です。

■ どこを直すか

この三つを並べると、打ち手が見えてきます。

まず単価を上げられないか。地方の宿は、驚くほど安く売っていることがあります。相場だから、前からこの値段だから、という理由で。周辺の競合を実際に予約サイトで調べてみると、自分だけが安いというケースは珍しくありません。

次に、客室あたりの人数を増やせないか。同じ1室を2名で売れれば、清掃費は1回のままで売上が上がります。和室やコンドミニアムタイプ、一棟貸しが強いのはこの構造があるからです。

そして変動費を下げられないか。清掃を内製化する、清掃の頻度設計を見直す、連泊割を作って清掃回数を減らす、自社サイト経由の予約を増やしてOTA手数料を圧縮する。地味ですが、ここは確実に効きます。

連泊割は特に分かりやすい打ち手です。2泊目を1,000円引きにしても、中日の清掃を簡易対応にできれば、割引額より削減額のほうが大きくなることがあります。

■ 買う前に、この三つを聞く

宿を買おうと検討されている方に一つだけお伝えしたいのは、売主から出てくる資料の「稼働率」だけで判断しないでほしい、ということです。

聞くべきは三つ。実績のADRはいくらか。RevPARは年間を通してどう推移しているか。1泊あたりの変動費はいくらか。

この三つが答えられない資料は、正直、まだ検討の入口にも立てていません。逆に言えば、ここをきちんと聞ける人は、それだけで他の買い手より一歩前にいます。

もちろん、これは「この指標を見れば儲かる」という話ではありません。エリアの需要そのものがなければ、どんなに構造を整えても埋まりません。ただ、需要のある場所で数字の見方を間違えて沈む、というのは本当にもったいない。避けられる失敗です。

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