金と傲慢さに呑まれたペン:フリー記者の没落
持ち込みのルポが一発で通り、夕刊の小さな連載枠を勝ち取ったとき、フリー記者の城戸(きど)は真新しい名刺を何度も眺めていた。
「いい切り口だ。まずは月一回でいこう」
ベテランデスクの神谷(かみや)は頼もしくそう言ってくれた。城戸の現場を這い回る取材力と、泥くさい文体を買ったのだ。連載が始まると読者アンケートの数字は跳ね上がり、記事は隔週、そして毎週へと昇格した。
異変が起きたのは半年の経った頃だった。城戸が原稿と一緒に差し出す領収書の束が、日に日にぶ厚くなっていったのだ。
「城戸くん、この『高級割烹 8万円』ってのは何だ? うちの規定じゃ、一回の接待費上限はもっと低いぞ」
神谷が眉をひそめると、城戸はポケットに手を突っ込んだまま不敵に笑った。
「デスク、その店じゃないと話してくれない重要証言者がいたんですよ。俺の足と人脈で取ってきたネタです。削るなら、あのリアルな描写も全部落とすことになりますけど?」
かつての貪欲な謙虚さは消え、目には選ばれた人間特有の傲慢さが宿っていた。原稿の締め切り前になると「他紙からも声がかかっている」と匂わせ、原稿料の値上げや無茶な取材費の精算を強引に通すようになった。城戸は自分が新聞社の紙面を支えているのだと疑わなかった。
ある日、城戸はいつものように高額なタクシー代と高級ホテルのラウンジ利用費を請求書に添え、ドカッとデスクの前に座った。
「今週の連載ネタ、また特大のやつです。経費、通しておいてくださいね」
神谷は請求書に目もくれず、静かに城戸を見つめた。
「城戸くん。来月からの連載だが、今号で終了とさせてくれ」
「……は? 何言ってるんですか。俺の連載、アンケートでもトップクラスでしょう? 今打ち切ったら困るのはそっちだ」
城戸が身を乗り出すと、神谷はデスクの端に置かれた新人記者の原稿ファイルをトントンと叩いた。
「君の原稿は確かに面白い。だがね、うちは君の豪遊に金を払っているんじゃない。現場の熱に払っていたんだ。最近の君の記事、言葉は綺麗だが全部『金で買った話』になっている。泥くささが消えた」
「な……」
「それに」と、神谷は寂しそうに微笑んだ。「うちの紙面は、誰か一人に依存するほど軽くないよ」
城戸は反論しようと口を開けたが、声が出なかった。神谷の視線の先には、かつての自分のように目を輝かせ、企画書を握りしめてデスクを待つ若手記者の姿があった。
夕刊の印刷が始まる地響きが、編集部に静かに響いていた。
(Gemini3との合作です)
