原宿から世界へ 〜KAWAII文化、世界を席巻す〜
ごきげんよう。
愛と性の伝道師、御開帳ぽんちょです。
いやぁ。びっくりした。
とんでもないパワーを感じた。
先日、仕事の用事があり、数年ぶりに原宿の竹下通りを歩いた。
「数年ぶり」と書いたが、正確に言えば、私の中の竹下通りは「クレープ」「ファッション」というキーワードで完全に時が止まっていた。マリオンクレープの甘い匂いと、個性派ファッションの洪水。それが私にとっての竹下通りであり、おそらく同世代の多くの人間にとってもそうであろう。
だが、あの日目にした光景は、私の記憶にある竹下通りとはまったくの別物だった。
そのパワーアップぶりに、率直に驚いた。
少しだけ、竹下通りの文化的な背景に触れておきたい。
原宿という街は、その成り立ちからして異質である。戦後、代々木練兵場跡地に米軍の居住区「ワシントンハイツ」が建設され、表参道沿いにはアメリカ兵やその家族向けの店舗が並んだ。この異文化との接触が、原宿に「外の風」を吹き込んだ最初の瞬間だった。1970年代にはファッション誌『an・an』や『non-no』が原宿を取り上げたことで「アンノン族」が闊歩し、80年代には竹の子族の出現とともに竹下通りが爆発的に発展する。90年代の裏原宿ブーム、2000年代のきゃりーぱみゅぱみゅに代表されるKAWAII文化の世界発信——。この街は常に、時代ごとの若者カルチャーの震源地であり続けてきた。
つまり、竹下通りとは「変わり続けること」そのものがアイデンティティの場所なのである。
変わっていなかったのは、私の方だった。
今の竹下通りは、とにかく小学生にとっての聖地と化している。
まず目に飛び込んでくるのが、インフルエンサー・しなこが手がける「ベビタピトーキョー」の店舗前に伸びる長蛇の列である。しなこは、TikTokのフォロワー180万人超を誇る原宿系クリエイターで、ベビタピトーキョー原宿店の店長を務めている。スタッフは全員がTikTokerやインフルエンサーで構成され、カラフルなタピオカドリンクを提供するだけでなく、カウンター越しに推しのクリエイターと直接交流できるという、もはや飲食店の概念を超えた空間を作り上げている。ファストパスが導入されるほどの混雑ぶりで、ちゃお(小学館の少女漫画誌)で公式コミカライズの連載が始まるほどの人気だというのだから、その影響力は本物である。

そしてもう一つ、通りのあちこちで目撃する行列の正体が「ボンボンドロップシール」である。つやつやでぷっくりとした立体感にキラキラのデザインが施されたこのシールは、今や空前の大ブームを巻き起こしている。コレクションして、シール帳に貼って、友達と交換する。私たちの世代でいうところの「ビックリマンシール」的ポジションだが、それをはるかに凌ぐスケールで社会現象化している。竹下通りにある雑貨店「Picnic」は「シール界の聖地」と呼ばれ、入荷日には開店前から行列ができる。この目で見てきたが、とんでもない大盛況であった。

クレープ屋に並んでいた時代が、シール屋に並ぶ時代に変わった。そう考えると、なんだか不思議な感慨が湧いてくる。
さらに驚くのは、外国人観光客の姿が圧倒的に多いことである。
竹下通りを歩いていると、英語、中国語、韓国語、フランス語——あらゆる言語が飛び交っている。彼らのお目当ては、まさに「KAWAII」文化そのものだ。カラフルなスイーツ、ファンシー雑貨、動物カフェ、そして原宿でしか味わえない「世界観」。渋谷区の産業・観光ビジョンにおいても原宿エリアは重要な訪日観光拠点として位置づけられており、インバウンド需要と原宿KAWAII文化は今や切っても切り離せない関係にある。
興味深いのは、アソビシステムの中川悠介社長がかつて語った哲学である。彼は「海外やインバウンドを意識しすぎると失敗する」「自分たちにしかできない良いものをつくることを大事にしている」と述べている。日本らしさとは意図して表現するものではなく、自然とにじみ出るものだ、と。まさにこの原宿の風景こそが、その哲学の体現に他ならない。内側から湧き出る「好き」を貫いた結果として、世界が勝手に惹きつけられてくる。マーケティングの教科書には載らない、しかし最も強力な引力がそこにある。
そしてこの街からは、アイドルたちの歌声も響いている。
アソビシステムが2022年に立ち上げたアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.(カワイイラボ)」。ここから生まれたFRUITS ZIPPERは、デビュー曲がTikTokで数十億回再生を記録し、NHK紅白歌合戦への出場も果たした。その後に続くCANDY TUNE、SWEET STEADY、CUTIE STREET、MORE STARといったグループも次々と話題を呼んでいる。彼女たちが声高に歌い上げるコンセプトは「原宿から世界へ」。
そう、まさに世界が誇るKAWAIIの街に、竹下通りは変貌していたのである。
ここで少し、マーケティング的な視点からこの現象を整理してみたい。
KAWAII文化のビジネスにおいて特筆すべきは、その「エコシステム」の巧みさである。
まず、SNSを起点としたファン獲得がある。しなこもFRUITS ZIPPERも、TikTokやYouTubeといったプラットフォームで爆発的な認知を獲得した。ここで重要なのは、コンテンツの「参加性」である。しなこのベビタピでは、来店者がカウンターでの「ベビタッピ」の掛け声を一緒に体験し、その瞬間をSNSに投稿する。FRUITS ZIPPERの楽曲は振り付けが真似しやすく、ユーザーが自ら踊ってみた動画を投稿する。つまり、消費者がそのまま発信者に変換される仕組みがビルトインされているのだ。
次に、リアルな「場」との接続がある。竹下通りのベビタピに行けば推しのクリエイターに会えるかもしれない。KAWAII MONSTER LANDに行けば増田セバスチャンの世界観を体感できる。デジタルで火をつけ、フィジカルで回収する。このO2O(Online to Offline)の導線設計が、極めて自然な形で構築されている。
そして、グッズ・マーチャンダイジングの層の厚さがある。ベビタピのTシャツ、キーホルダー、ブロマイド。ボンボンドロップシールとシール帳。これらは単なる物販ではなく、「推し活」のインフラであり、自己表現のツールである。購入者は商品を通じてコミュニティに参加し、アイデンティティを構築する。この構造は、K-POPのファンダムエコノミーとも共通するが、KAWAII文化はそこに「手触りのある愛らしさ」という独自の付加価値を載せている。
つまりKAWAII文化のマーケティングとは、上から仕掛けるプロモーションではなく、「好き」の連鎖反応を設計することなのだ。
さて、しなこたちが表現しているKAWAII文化で、私が子供たちの教育に非常に良いと感じているポイントがある。
しなこは自身の楽曲「しなこワールド」の中で、こんなメッセージを発信している。「正解がないことが正解」「誰にもならない、自由、自分でOK」。そしてKAWAII LAB.のCUTIE STREETもまた、デビュー曲のタイトルに「かわいいだけじゃだめですか?」を掲げた。
彼女たちが一貫して表現していること。それは——
「『かわいい』とは人に決められるものではない。自分がかわいいと思うものがかわいいのだ。さらに、その人に流されず自分だけの一途なものを追い求めるその姿こそがかわいい。」
ということである。
これは、単なるアイドルのキャッチコピーではない。自己肯定感の本質を、子供たちにも分かる言葉で伝えている、極めて優れたメッセージだと私は思う。
SNSの普及により、子供たちは幼い頃から「他者の評価」にさらされる環境に置かれている。いいねの数、フォロワーの数。数値化された他者の視線の中で、自分の「好き」を見失いそうになる場面は、大人でさえ少なくない。
そんな中で、「自分がかわいいと思うものを、ブレずに好きでいること。その姿こそがかわいい」というメッセージは、子供たちの背骨に一本の芯を通してくれるはずだ。原宿のカラフルな世界の中に、実はこんなにも真っ直ぐで力強い哲学が息づいていることに、私は素直に感動した。
正直に言えば、私は世界のビジネスがAIによって席巻されると考えていた一人である。生成AIが文章を書き、画像を作り、コードを走らせる。効率と合理性の波が、あらゆる産業を飲み込んでいくだろう、と。
もちろん、その流れ自体は間違っていない。
しかし、原宿を歩いた日、私はじんわりと感じたのだ。日本にはまだまだ「コンテンツ」のパワーがある、と。
AIは効率化の道具としては無敵かもしれない。だが、「ベビタッピ!」の掛け声で店内が沸き上がるあの高揚感を、AIは設計できるだろうか。ぷくぷくのシールを友達と交換するあの胸の高鳴りを、アルゴリズムは再現できるだろうか。「自分がかわいいと思うものがかわいい」と歌い上げるアイドルたちの瞳の輝きを、言語モデルは生み出せるだろうか。
答えは、おそらく「No」である。
人の心を動かすコンテンツとは、効率や最適化の対極にあるものだ。非合理で、カラフルで、時に意味不明で。しかしだからこそ、人はそこに吸い寄せられる。日本が長年にわたって蓄積してきたこのコンテンツ力は、AI時代においてむしろ価値を増す希少資源なのではないか。
原宿で活性化されたコンテンツのパワー。あの竹下通りでキラキラと目を輝かせていた小学生たちが、いつかこの国を引っ張ってくれることを、私は願ってやまない。
彼女たち、彼らが大きくなった時、きっとまた竹下通りの風景は変わっているだろう。クレープがシールに変わったように、今あるものがまた別の何かに姿を変えているはずだ。
しかし、変わらないものがある。
「自分の『好き』を貫くこと」——その原宿スピリットだけは、きっと受け継がれていく。
原宿から、世界へ。
子供たちよ、君たちの「かわいい」は、君たちが決めるのだ。
