見出し画像

【夕暮れの歩道橋で出会った救い】

今でもふと、思い出す景色がある。
10年前、私が少しだけ家出をした日の夕暮れのこと。

私は共働きフルタイム勤務。上の子小学6年生、下の子小学2年生。
夫はいつも残業で帰りが遅かった。

買い物袋を片手にトボトボと家に帰る。疲れて体が重い。
「宿題ちゃんとやってるかなあ」と思いながら「ただいまー」と家のドアを開けた。

目の前に広がるのは、グチャグチャの部屋。
テレビを見ながらソファーでゴロゴロする子供たち。イライラがマックスになる。

「なんでこんなに汚いの!宿題やったの!?」
私の怒鳴り声は響いても、子供たちは聞こえないふり。

――あぁ、もう無理。
自分の中のバケツが溢れた瞬間だった。

私は黙って家を出た。何も思い通りに行かない。
全部嫌になってただ夕暮れの道を歩いた。
行くあてもなく、近所の道をただ歩く。
頭を冷やす。

本当は夕飯を作らなきゃ、部屋を片付けなきゃ、お風呂を沸かさなきゃ、子供たちの宿題を見なきゃ......。
毎日同じことの繰り返しで、自分の時間なんてない。

しばらく歩いて立ち止まる。

やっぱり、家に帰らなきゃ。
振り返って来た道を歩く。
ビルやマンションを抜けて、歩道橋に差し掛かった時だった。
目の前にオレンジ色の大きな夕日が現れた。
空一面が鮮やかなオレンジに染まっていく。

なんて綺麗なんだろう。

神々しくて、全身が優しい光に包まれる。
目からスーッと涙がこぼれた。
急に肩の力が抜けた。
私は何をしてるんだろう。

こんな時間に一人で自由に歩いたのは、いったいいつぶりだろう。
こんな近くに、こんな綺麗な景色があったなんて。何年も見逃していたなんて勿体なかったな。
これからは、時々ここに来よう。
そう思いながら、家に帰った。

あの頃は、子供たちを「ちゃんと育てなきゃ」と不安でいっぱいだった。勉強させて良い学校に行かせなきゃと焦っていた。

「みんなちゃんとやっている」
――いや、「ちゃんとやっている側にいなきゃ」と、一人でがんじがらめになっていた。

でも、あの夕日を見た時、思ったのだ。
もう細かいことはいいんじゃないか?
毎日眉間に皺を寄せて怒ってばかりでは、誰も幸せになれない。
それでもやっぱり、やらなきゃいけないことは沢山ある。
けれど、少し肩の力を抜こう。

――そう思わせてくれたあの夕日に、今も感謝している。



いいなと思ったら応援しよう!