地方創生という名の公金配給所――観光プロポーザルに群がる亡霊たち/佐賀・吉野ヶ里から全国へ広がる「補助金中毒」と、空虚なインバウンド狂騒曲の解剖学
税金を撒いて調査を委託し、紙の報告書で町が潤うとでも本気で思っているのか。
地方創生という名の公金配給所――観光プロポーザルに群がる亡霊たち
佐賀・吉野ヶ里から全国へ広がる「補助金中毒」と、空虚なインバウンド狂騒曲の解剖学
地方自治体のウェブサイトを覗くと、年中行事のように「公募型プロポーザル」という名の奇妙な入札情報が並んでいる。
観光まちづくり戦略、データ分析、高付加価値コンテンツ造成、プロモーション動画制作、海外メディア誘致。
並べられた言葉の耳触りの良さ。いかにも先進的で、知的で、地域に寄り添っているかのような甘やかな横文字の数々。
だが、製造業の現場で図面を睨み、一円単位の原価と機械の歩留まりに胃を削ってきた私のような人間から見れば、これほど滑稽で、虚しく、反吐の出るような公金の無駄遣いは他にない。
断言しよう。全国で垂れ流されている観光プロポーザルの大半は、地方を救うための処方箋ではない。衰退に怯える自治体職員の免罪符であり、そこに群がる広告代理店やコンサルタントという名の「令和のハイエナ」たちに餌を与えるための、壮大な公金配給システムに過ぎない。
弥生人の骨にすがる十年の夢――佐賀県吉野ヶ里町の滑稽
佐賀県神埼郡吉野ヶ里町が、二〇二八年度から二〇三七年度までの十年間を計画期間とする「吉野ヶ里町観光まちづくり戦略策定業務」の公募型プロポーザルを出している。公募金額は五百六十万円。
内容を見れば、溜息を通り越して乾いた笑いが漏れる。
「吉野ヶ里遺跡や国営吉野ヶ里歴史公園を核とし、歴史・文化・自然・食などの地域資源を生かした持続可能な観光まちづくり」「滞在時間延長や観光消費額の向上」「インバウンド対応の強化」「KPIの設定と進捗管理」。
判子で押したような、金太郎飴の行政作文。
人口減少と少子高齢化で町の土台が軋んでいるこの時に、向こう十年の「戦略」を五百六十万円で外部の業者に丸投げして書いてもらう。委託されたコンサルタントは、東京や福岡の小奇麗なオフィスで過去の他自治体の報告書をコピペし、吉野ヶ里の写真を貼り付け、グラフを整えて納品するだけだ。
遺跡から出土した甕棺(かめかん)や人骨を眺めながら、弥生時代の幻影にすがりつく現代の役人たち。
吉野ヶ里遺跡が素晴らしい歴史遺産であることなど、誰もが知っている。問題は、なぜ今まで観光客が素通りし、金を落とさず、滞在時間が伸びなかったのかという泥臭い現実の直視だ。それを自らの頭で汗をかいて考えず、たった五百六十万円の紙切れ一枚に「十年の未来」を託そうとするその精神構造こそが、地方衰退の根本原因であることに、当事者たちだけが気づいていない。
高岡の二百万、長崎のバーホッピング、千葉の三千万円――撒き散らされる税金のモザイク
目を全国に向ければ、さらに救いようのない公金の浪費が乱舞している。
富山県高岡市は「観光データ分析・活用推進事業」として二百万円を提示している。旅行者のニーズや満足度を調査するらしい。今さら二百万円ぽっちでアンケートを取って、一体どんな未知の真理が浮かび上がると信じているのか。「もっと案内板が欲しい」「夜開いている店が少ない」といった、近所の居酒屋で地元民に聞けば五分で分かるような結論を、ご大層なパワポ資料にまとめてもらうために市民の血税が消えていく。
長崎市では、一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会が六百五十万円を投じ、「インバウンド向け高付加価値コンテンツの造成・販売業務」を公募している。目玉は「英語ガイド付きの料亭での食体験」と「夜のバーホッピング(はしご酒)」だという。
長崎の歴史と異国情緒の深さを、なぜわざわざ安易な「夜の飲み歩き」に矮小化するのか。富裕層インバウンドという亡霊に取り憑かれ、料亭に英語ガイドを放り込めば「高付加価値」になると信じ込んでいる浅薄さ。文化の安売りを「最先端の観光戦略」と錯覚する様は、痛々しくて見ていられない。
さらに強烈なのが、千葉県庁の「養老渓谷温泉郷の観光地域づくりに関する調査等業務」だ。公募金額は約二千九百九十六万円。加えて内房地域の観光調査にも約二千九百八十八万円。二つの調査だけで六千万円近い公金が動く。
調査、分析、協議会の運営、マスタープラン策定。
三千万円もの大金を紙と会議に溶かす前に、崩れかけた遊歩道を直し、老朽化した温泉街のインフラを修繕し、現場で孤軍奮闘する宿の経営者に直接手当てをする方が、よほど地域のためになるのではないか。だが、役人はコンクリートや直接支援には責任を取りたがらない。「有識者による調査」というクッションを挟むことで、失敗した際の責任を未来へ先送りしたいだけなのだ。
「関係人口」と「プロモーション動画」という現代の免罪符
和歌山県は二百五十万円で「関係人口創出・拡大プロモーション動画制作」を募り、岩手県盛岡市は二百三十万円で台湾の旅行博へ出展する。福岡市にいたっては、海外メディアとの関係構築に二千八百万円を投じる。
動画を作れば若者が移住してくるのか。台湾のブースでパンフレットを配れば客が押し寄せるのか。
動画が完成した瞬間、役所の会議室で関係者が拍手をして終わりだ。YouTubeにアップロードされても再生回数は数百回、その大半は役所の職員と受託業者のチェックによるもの。そんな悲惨な結末を、私はこれまで嫌というほど見てきた。
「関係人口」などという実体のない霞(かすみ)を追う暇があるなら、今その町で歯を食いしばって生きている定住者の生活基盤を守るべきだ。外から人が来ないことを嘆く前に、なぜ若者がその土地を捨てて東京へ逃げ出すのかを考えろ。下水道の維持、老朽化した橋の補修、路線バスの維持。そうした生々しい生活インフラの崩壊から目を背け、「観光」という麻薬に逃げ込んでいるに過ぎない。
成果指標(KPI)という名の数字遊び
プロポーザルの仕様書には、決まって「KPI(重要業績評価指標)の明確化」が謳われる。
宿泊者数前年比何パーセント増、観光消費額何億円達成、ウェブサイト閲覧数何万件。
民間企業の工場で歩留まりや不良率のKPIを立てる場合、それは達成できなければ責任者の首が飛ぶ絶対的な数値だ。達成のために工程を見直し、治具を改良し、現場の作業員が泥まみれになって汗を流す。
だが、行政の観光KPIなど、ただの数字遊びに過ぎない。
達成できなければ「社会情勢の変化」「天候不順」「為替の変動」と言い訳を並べ、誰も責任を取らない。五年も経てば担当課長は別の部署へ異動し、後任は「新たな時代に対応した新戦略」と称して、また別のコンサルに数百万円を払って新しい計画書を書かせる。
この無限ループ。税金を吸い上げ、計画書という名の古紙を生産し続けるリサイクル工場。
その陰で、本当に汗を流して観光客をもてなしている現場の民宿の親父や、早朝から畑で泥を落としている農家には、一円の恩恵も届かない。届くのは「アンケート調査にご協力ください」という、コンサルからの無神経な質問票だけだ。
地方創生の幻想を捨て、冷徹な現実を直視せよ
観光が地域を救うという幻想を、そろそろ捨てたらどうだ。
人が住めない町に、観光客だけが押し寄せて持続可能な発展などあるはずがない。町を美しく保ち、美味い飯を食わせ、誇りを持って暮らしている住民がいるからこそ、旅人はその「日常の輝き」に惹かれて足を運ぶのだ。
吉野ヶ里町が十年の戦略を立てるのも、高山村で消えたヘルパーを追うのも、根底にある問題は同じだ。この国は、末端の「人間の暮らし」を支えることを放棄し、見栄えのいい「制度」と「計画」という虚飾に金をばら撒き続けている。
五百六十万円の戦略策定で町が蘇る奇跡など、天地がひっくり返っても起きない。
もし本気で町を変えたいのなら、スーツを着た東京のコンサルタントを会議室から叩き出し、町の路地に立つことだ。土の匂いを嗅ぎ、住民の怒号を聞き、何が足りていて何が致命的に欠落しているのかを、自らの五感で突き止めろ。
公金という名の麻酔銃を撃ち合って眠りこける地方自治体と、その生き血を吸うハイエナたちの宴は、もう終わりにしなければならない。荒野に残されるのは、積み上がった報告書の山と、誰もいなくなった美しい日本の抜け殻だけなのだから。
〈了〉
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