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中年男のゲロと絶望を箱に詰めてボッタクる――ザ・フー『The Who By Numbers』50周年の残酷なリアリズム

英雄の仮面を剥ぎ、己の無様を晒せ。酒と絶望に溺れた男たちの真実。


中年男のゲロと絶望を箱に詰めてボッタクる――ザ・フー『The Who By Numbers』50周年の残酷なリアリズム


巨大ロック神話の死骸から甦る、ピート・タウンゼントの自虐と酒浸りの告白録



また始まったか、と吐き気を催すような既視感を覚える。

「50周年記念」「未発表音源92トラック」「5CD+ブルーレイ」「豪華100ページ本」。プレスリリースに踊るこれ見よがしの煽り文句を見ているだけで、高齢化したかつてのロック小僧どもから最後の小遣いを毟り取ろうとするレコード会社の、浅ましく乾いた電卓の音が聞こえてくるようだ。


ザ・フー『The Who By Numbers (Super Deluxe Edition)』 2026年10月30日発売 試聴・予約 5CD+Blu-ray:輸入国内盤仕様/完全生産限定盤/日本盤のみSHM-CD仕様 CD DISC 1: The Who By Numbers(オリジナル・アルバム・リマスター) DISC 2: ピート・タウンゼント・デモ DISC 3: トラッキング・セッションズ(ランポート&シェパートン・スタジオ) DISC 4: アーリー・ミックス&ガイド・ヴォーカル DISC 5: ライヴ・アット・ヴェッチ・フィールド、スウォンジー 1976/6/12 ブルーレイ オーディオ:ピート・タウンゼント・ミックス(DOLBY ATMOS/DTS-HD MASTER AUDIO 5.1/PCM STEREO) ビデオ:ライヴ・アット・メトロポリタン・スタジアム、ポンティアック、ミシガン 1975/12/6 <曲目> DISC ONE:The Who By Numbers(オリジナル・アルバム・リマスター) Slip Kid However Much I Booze Squeeze Box Dreaming From The Waist Imagine A Man Success Story They Are All In Love Blue Red And Grey How Many Friends In A Hand Or A Face DISC TWO:ピート・タウンゼント・デモ Keep Me Turning(ヴァージョン1)* Slip Kid(ヴァージョン1) Squeeze Box Blue Red And Grey* Dreaming From The Waist* How Many Friends * Keep Me Turning(ヴァージョン2)* Imagine A Man* Slip Kid(ヴァージョン2)* Round And Round(「In A Hand Or A Face」仮題)* There Ain’t No Way Out(「However Much I Booze」仮題) *未発表音源 DISC THREE:トラッキング・セッションズ(ランポート&シェパートン・スタジオ) *すべて未発表 Ramport Jam(エクサープト) She Loves Everyone(トラッキング・セッション) Control Myself(「Dreaming From The Waist」トラッキング・セッション) There Ain’t No Way Out(「However Much I Booze」トラッキング・セッション) Goin’ To Frisco / Round And Round(「In A Hand Or A Face」トラッキング・セッション) Hi-Heel Sneakers(ジャム with ニッキー・ホプキンス)(スタジオ・アウトテイク) ピート&キース「The Artiste」(スタジオ・ダイアローグ) Success Story(トラッキング・セッション) How Many Friends(トラッキング・セッション) Imagine A Man(トラッキング・セッション) They Are All In Love(トラッキング・セッション) She Loves Everyone(リテイク with ニッキー・ホプキンス) Squeeze Box(トラッキング・セッション) Instrumental 1(トラッキング・セッション) I’m Dreaming(「Dreaming From The Waist」リテイク) Every Minute(「Blue Red And Grey」トラッキング・セッション) Instrumental 2(ラフ・ミックス)(トラッキング・セッション) 『The Who By Numbers』USラジオ・スポット#1(ラジオCM) DISC FOUR:アーリー・ミックス&ガイド・ヴォーカル *18(初ディスク化)を除きすべて未発表 Slip Kid(オルタネイト・ロジャー・ヴォーカル)(アーリー・ミックス・ウィズアウト・オーヴァーダブ) However Much I Booze(オルタネイト・ピート・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) Squeeze Box(オルタネイト・ロジャー・ヴォーカル) Dreaming From The Waist(ピート・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) Imagine A Man(ピート・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) Success Story(ジョン・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) They Are All In Love-(オルタネイト・ピート・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) Blue Red And Grey(アンエディテッド・ヴァージョン) How Many Friends(ピート・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) In A Hand Or A Face(アーリー・ミックス) They Are All In Love(オルタネイト・ロジャー・ヴォーカル)(アーリー・ミックス) Squeeze Box(アコースティック・ストリップト・ミックス、2026) Imagine A Man(アコースティック・ストリップト・ミックス、2026) They Are All In Love(アコースティック・ストリップト・ミックス、2026) How Many Friends(アコースティック・ストリップト・ミックス、2026) 『The Who By Numbers』USラジオ・スポット#2(ラジオCM) キース・ムーン&ジョン・エントウィッスル・プレビュー『The Who By Numbers』(with ジョン・ピール、BBC 1975) However Much I Booze(ライヴ・アット・ザ・サミット、ヒューストン、USA 1975/11/20) Slip Kid(ライヴ・アット・マディソン・スクエア・ガーデン、ニューヨーク、USA 1976/3/11) DISC FIVE:ライヴ・アット・ヴェッチ・フィールド、スウォンジー、ウェールズ1976/6/12 My Wife Baba O’Riley* Squeeze Box Behind Blue Eyes Dreaming From The Waist Amazing Journey* Sparks* The Acid Queen* Fiddle About Pinball Wizard I’m Free Tommy’s Holiday Camp We’re Not Gonna Take It / See Me, Feel Me Summertime Blues* My Generation / Join Together / My Generation Blues* Won’t Get Fooled Again* *未発表音源 ブルーレイ *すべて未発表 オーディオ:『The Who By Numbers』ピート・タウンゼント・ミックス(DOLBY ATMOS/DTS-HD MASTER AUDIO 5.1/PCM STEREO) Slip Kid However Much I Booze Squeeze Box Dreaming From The Waist Imagine A Man Success Story They Are All In Love Blue Red And Grey How Many Friends In A Hand Or A Face ビデオ:ライヴ・アット・メトロポリタン・スタジアム、ポンティアック、ミシガン 1975/12/6 (MONO) I Can’t Explain Substitute My Wife Baba O’Riley Squeeze Box Behind Blue Eyes Dreaming From The Waist Boris The Spider Magic Bus Amazing Journey / Sparks The Acid Queen Fiddle About Pinball Wizard I’m Free Tommy’s Holiday Camp We’re Not Gonna Take It / See Me, Feel Me Summertime Blues My Generation / Join Together / Road Runner / My Generation Blues Won’t Get Fooled Again


『トミー』に『四重人格』。ロック・オペラという名の壮大なコンセプチュアル・アートをでっち上げ、「ロック界の預言者」「時代の代弁者」などと祭り上げられたザ・フーが、1975年10月にポロリと産み落とした7枚目のスタジオ・アルバム『The Who By Numbers』。半世紀というキリのいい数字にかこつけて、墓場から骨まで掘り返すようにスタジオの端切れテープを繋ぎ合わせ、高価な箱に詰めて売りつける。この際限のないスーパー・デラックス商法には心底ウンザリさせられる。



Imagine A Man (Pete Vocal / Early Mix)


だが――鼻で笑って切り捨てられない毒が、このアルバムには確かに宿っている。


あのジョン・エントウィッスルが描いた、間の抜けた「点つなぎ」のイラストジャケットを覚えているだろうか。子供騙しの塗り絵みたいな表紙をペラリとめくれば、そこに広がっていたのは爽快なロックンロールでも、社会変革を叫ぶ青臭いアジテーションでもない。ただただ惨めに肥大化したエゴと、アルコールに溺れて足元から崩壊していく30歳そこそこの男の、生々しい「ゲロと溜息」だった。


ピート・タウンゼントという男は、とことん面倒で業の深い男だ。

世界中を熱狂の渦に巻き込み、スタジアムを札束と歓声で埋め尽くしながら、その裏で「こんなはずじゃなかった」「自分は空っぽのペテン師だ」と頭を抱えて酒瓶を煽っていたのだから世話はない。

『However Much I Booze(いくら酒を飲んでも)』という、身も蓋もないタイトルの曲がある。「どれだけ酒をかっくらっても、俺の孤独は埋まりゃしない」――ロジャー・ダルトリーがあまりの情けなさに歌うのを拒否し、結局ピート自身が濁った声で歌う羽目になったこの曲こそ、本作の病根そのものだ。


ヒット曲『Squeeze Box』の能天気なアコーディオンの調べに騙されてはいけない。あの曲の下品なダブル・ミーニングの裏側に張り付いているのは、「こんな安っぽい下ネタを歌っていればお前ら満足なんだろ」という、聴き手に対する冷え切った軽蔑と自暴自棄だ。『Dreaming From The Waist』で歌われる老いと性的衰退への恐怖、『Blue Red And Grey』でウクレレをポロンと爪弾きながら「世界中が嫌いでも、生きていかなきゃならない」と呟く虚無感。


70年代半ば、レッド・ツェッペリンやピンク・フロイドをはじめとする恐竜バンドどもが、自ら作り上げた巨大な神話の玉座にあぐらをかき、肥大化した自己満足のクソを垂れ流していた時代。ピートだけは、その欺瞞に耐えられなかった。

「音楽業界に反動が押し寄せるのを感じていた。大物たちは自己満足に陥っていた。数年後にパンクが登場したときも驚かなかった」

本人が回想するように、彼は己の無様をさらけ出すことで、ロックが「ただの退屈な巨大ビジネス」へと成り下がるのを拒絶しようとしたのだ。自分自身の腹を掻っ捌き、腐敗した内臓を聴き手の前にぶちまけてみせる。それこそが、彼にとって唯一残された誠実さだった。


今回のボックスには、ミシガン州ポンティアックで7万6千人余りを集めたという伝説のライヴ映像が収められているらしい。全米の屋内コンサート動員記録を塗り替えたその巨大スタジアムの真ん中で、彼らが鳴らしていたのは、救いようのない中年男の断末魔だったというわけだ。7万人もの群衆が熱狂する足元で、当の演奏者は虚無とプレッシャーに押し潰され、アルコール中毒の淵を彷徨っていた。これほど痛烈でグロテスクな皮肉が、他にあるだろうか。


現代の音楽シーンを見渡してみろ。タイパだのコスパだのを気にして、耳触りのいい無菌室のメロディをスマホ越しにつまみ食いし、知ったような口を利いている小利口な若者たち。あるいは、過去の思い出を綺麗なガラスケースに閉じ込めて「昔のロックは本物だった」と酒の肴にする、すっかり牙の抜けた同世代のジジイども。


そんな連中の脳天に、この『The Who By Numbers』のドロドロとした自虐の塊を叩き込んでやりたい。

ロックとは、カッコつけるためのアクセサリーではない。みっともなく足掻き、酒をあおり、己の無力さに打ちひしがれながら、それでも泥水をすすって生きる男の「業」そのものだ。


高い金を払ってこのボックスを買う覚悟があるなら、覚悟して聴くがいい。綺麗にお化粧されたリマスターの奥から立ち込めるのは、半世紀前のピート・タウンゼントが吐き散らかした、生臭い血反吐の匂いだ。その痛みに耐えられない軟弱者なら、最初から手を出さずに、ぬるま湯のプレイリストでも聴いて眠っているがいい。


〈了〉



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