公邸料理人・在外公館料理人として求められる資質 7選
公邸(在外公館)料理人に求められること、働く前に知っておきたいこと。
今回は、そんなことについて少し軽くお伝えしてみようと思います。
少し偉そうに聞こえてしまったら、すみません🙇♀️
あくまで「私が4年半働いてみて感じていること」です。
居酒屋で経験談を聞くくらいの、軽い気持ちで読んでいただけたら嬉しいです。
料理の技術は、もちろん必要です。
しかし、実際に料理人として働いてみると、
それだけでは務まらない仕事だなぁ💦
ということを、4年半経った今、自分の身をもってひしひしと感じています。
※2026年1月から、新たに「在外公館料理人制度」が始まりました。外務省の公式サイトでは現在も「公邸料理人」という呼称が使われていますので、この記事では、馴染みのある「公邸料理人」と「在外公館料理人」の両方を使わせていただきます。
外務省の募集要項には、
“寿司や天ぷらなどの日本料理の技術、コース料理を組み立てる力、さらには買い出しや在庫管理、会計処理まで、一人で担うこと“
などが求められています。
その上で、私自身が現場で
「これは本当に必要だ」
と感じている資質を、7つご紹介します。
① 寿司・天ぷらなど、日本料理の基本技術があること
公邸(在外公館)料理人は、海外で日本料理を提供する「食の外交官」としての役割も担います。
そのため、寿司や天ぷら、出汁、刺身など、日本料理の基本技術は欠かせません。
海外の方々が、日本料理で特に楽しみにしてくださっているもの。
やはり、
「寿司・天ぷら」
です。
中でも寿司は、本当に喜ばれます。
ですので実際に求められる場面が多い以上、
寿司の握り方、
巻き寿司の基本、
そして天ぷら。
このあたりは、やはり必須科目。
しっかり技術を身につけていないと、
リアルに務まらないなぁ……
と感じます。
特に、
年に一度開催される天皇誕生日祝賀レセプション。
多くの在外公館にとって、年間でも最大規模となる公式行事の一つです。
お招きする人数も数百名単位。
大型公館ですと、1,000〜2,000名(⁉︎)という話を聞くこともあります。
そういった場でも、
日本食として寿司を期待されること
は少なくありません。
その場で寿司を握るパフォーマンスをされる料理人さんもいます。
私はそのスタイルを経験したことはありませんが、それでもやはり、式典の際には相当数の寿司を用意してきました。
だからこそ、寿司や天ぷらといった日本料理の基本技術は、公邸料理人として働く上で、大きな土台になると思います。
② コース料理を組み立てる力があること
公邸(在外公館)料理人は、前菜からデザートまで、一人でコース料理を組み立てる力が求められます。
基本的に一人で任されるため、
当然ながら分業はできません。
そして、
一皿のおいしい料理を作ることと、通しのコースを構成することは、まったく別の技術です。
味の流れ、温度、ボリューム、彩り。
それらを考えながら、お客様が最後まで楽しく、心地よく食事を楽しめるように組み立てていくことが大切だと思います。
もちろん、大使のご要望や会食の方向性にもよるので一概には言えませんが、すべてを和食にする必要はないように感じています。
※そもそも国によっては、日本の調味料や食材を十分に手に入れることが難しく、物理的に純和食だけで構成するのが難しい場合もあります。
ちなみに、デザートについては、必ずしも高度なパティスリー技術が必要というわけではないように思います。
むしろ、たっぷりの生クリームを使った濃厚なものや、凝りに凝ったデザートよりも、
喉越しがよく、軽く、爽やかなもの
の方が、会食の最後には喜ばれることも多いです。
果物とアイス。
それだけの組み合わせでも、重たいコース料理の締めくくりとして、お客様の胃に優しく、十分に成立します。
大切なのは、技術を見せつけることではなく、
最後の一皿まで、お客様に気持ちよく召し上がっていただくこと。
そこにホスピタリティを込めて、一皿をご提供することが大切なのだと思います。
③ −1 日本と同じ食材がなくても工夫できる探究心と好奇心があること
先ほども少し触れましたが、海外では、日本と同じ食材がすべて揃うという環境は、なかなかありません。
だからこそ、
「この魚なら代用できるかもしれない」
「この野菜なら応用できそうだ」
「この調味料がなくても、別のもので作れるかもしれない」
そんなふうに、試行錯誤そのものを楽しめる探究心や好奇心が、とても大切になります。
現地の市場やスーパーで見たことのない食材に出会った時、
「これは何だろう?」
「どうやって使えるだろう?」
と興味を持てること。
そんな、食材に対する飽くなき探究心こそが、異国の食材を味方につけるコツなのだと思います。
日本で使っていたレシピを、そのまま再現することだけに固執するのではなく、
今、この国にある食材で、どうすれば一番おいしくできるのか。
その最適解を探し続ける柔軟性。
それもまた、海外で料理人としてやっていくための大切な力だと思います。
③−2 アレルギーや食事制限に柔軟に対応できること
これは、③−1にもつながる話です。
ゲストのお客様からは、さまざまな食事に関するリクエストをいただきます。
アレルギーはもちろん、宗教上の理由、健康上の理由、個人的な嗜好など、その内容は本当にさまざま。
海外の方は、日本人以上に、ご自身の食の好みや制限を明確に伝えてくださる方が多いように感じます。
そのため、会食前にはかなり細かな嗜好情報をいただくこともあります。
そうなると、メニューを組み立てる側としては、
「さて、どうする?」
となるわけです(笑)。
でも、裏を返せば、料理人として腕が鳴る場面でもあります。
先日は、お客様7名様の中で、
「牛肉はダメ」
「豚肉はダメ」
「寿司はダメ」
「刺身などの生魚はダメ」
「アルコールを含む料理はダメ」
という条件が、それぞれ別々のお客様から出てきたことがありました。
ここまで見事に条件がバラバラだと、「これはなかなかのお題だな」と、思わず笑ってしまいます。
では、その間を縫って、お肉のコースでは、ラムのグリルをお出ししよう、と考えたのですが……
今度は、ラムのカット面がほんのり赤いという理由で召し上がれない方がいて、そのまま手つかずで戻ってきたこともありました…
「そこまで火の入り方に好みがあるとは、事前情報にはなかったよ!」と、面食らってしまったことも😭
ちなみに、低温調理と仕上げの高温オーブンで、合計2時間以上しっかり火を入れていたんですけどね💦
……と、長話はさておき。
こういった複雑なお題をいただく会食もあります。
だからこそ、
「では、この条件の中で何ができる?」
と、攻略魂を発揮できること。
そんなふうに、条件をストレスにせず、ある意味ゲームのように考えて、乗り越えていける柔軟さが、この仕事を上手に波乗りしていくコツなのだと思います。
④ 会食を逆算し、仕入れ・仕込み・在庫を管理できること
公館によって、開催の頻度が大きく違うので、一概には言えませんが、昼食会、夕食会、アフタヌーンティー、外部接遇によるケータリング、各省庁とのコラボレーションによる催しなど、さまざまな仕事が舞い込んできます。
そこで必要になるのが、先々の予定を見ながら逆算して準備する力です。
料理人の仕事は「料理を作る」だけではありません。
その都度メニューを考え、冷蔵庫や冷凍庫の中身と相談しながら買い出しに行き、次の会食までも見通しつつ食材をストックし、適切に保管していく必要があります。
公的な会食に使用する食材には公費が使われていますから、無駄を出さず、計画的に購入・使用することも大切な仕事です。
私は時々、
難解なジグソーパズルをやっているようだなぁ……
と思うことがあります。
でも、複雑になればなるほど、パズルと一緒で、クリアできた時の達成感は爽快ですよ🤭
飲食業界で働いていた方なら、発注や在庫管理の経験が、まさに生きる場面でもあります。
どれだけ必要量を予測できるか。
いかにロスを減らせるか。
何を今買い、何を後回しにするか。
その判断力が試されます。
そして、海外で暮らしてみると分かるのですが、日本の八百屋さんのように、毎日いつでも新鮮な野菜や果物が並んでいるとは限りません。
「これは今日買っておいた方がいい」
というタイミングがあります。
同時に、
「この食材なら、あと何日くらい良い状態で保てるだろう」
という感覚も養わなくてはいけません。
予測と経験と勘を総動員して食材を買い、在庫を管理し、その中からお客様にお出ししたい料理を組み立てる。
これ、結構、
脳のカロリーを消費します(笑)。
⑤ 細やかな連絡や事務作業を厭わないこと
先程もお伝えしましたように、料理人の仕事は、料理だけではありません。
大使との打ち合わせ、会食に向けた各種調整、館員との連絡、食材や酒類の在庫管理、食材の海外発注、業務報告書の作成、健康管理休暇の申請など。
想像していた以上に、たくさんのメール連絡や数字を扱う事務作業があります。
外務省の募集要項にも、調理だけではなく、買い出しや在庫管理、会計処理などを担当することが記載されています。
料理がおいしく作れれば、それだけで仕事が回るわけではありません。
むしろ、
「今どういう状況なのか」
「何が必要なのか」
「何を確認しておくべきなのか」
「数量を報告しておかなくては」
など、
関係する方々とこまめに共有していくことが、とても大切です。
細かな連絡やメール対応を丁寧に積み重ねられる人ほど、周囲からの理解を得やすくなり、連携も円滑になります。
そして結果として、それが良い仕事につながっていくのだと感じています。
⑥ 日本人代表として振る舞う気概があること
海外では、自分一人の行動が、
「日本人とは、こういう人たちなんだ」
と受け取られる場面があります。
もちろん、一人の人間が日本人全体を代表できるわけではありません。
それでも海外で働いている以上、
自分の言動が
「日本」
という国の印象につながることがある。
その意識は持っていたいと思っています。
料理だけではなく、
礼儀、
身だしなみ、
信頼性、
勤勉さ、
時間を守ること、
そして人への接し方。
そういったものすべてを含めて、
「自分の在り方も、日本という国の印象の一部になる」
という気概が必要なのではないかと思います。
外務省は、公邸料理人を「食の外交官」と表現しています。
私は、この言葉には、料理の技術だけではなく、その人の姿勢や人との接し方まで含まれているように感じています。
一皿の料理を通して日本を知っていただく。
そして、その料理を作る人自身からも、日本という国を感じていただく。
それもまた、この仕事の一部なのだと思います。
⑦ 適度に自分を緩め、許す力を持っていること ー 克己と緩和のバランス
これは、誰よりも自分自身に言いたいこと。
そして、常に自分に言い聞かせていることです。
過去の記事でも何度か書いていますが、公邸料理人の仕事には、一般的な会社員のような「勤務時間」という枠がありません。
委託業務という、いわばフリーランスに近い立ち位置です。
ですから、やろうと思えば、どこまでもやれてしまいます。
極端な話、自分が望めば徹夜で準備することだってできてしまう。
逆に言えば、
自分の心ひとつで、仕事を楽にもできるし、過酷にもできる。
己に厳しい人ほど、
「もっと美しく」
「もっとおいしく」
「もっと完成度を上げたい」
と、自分をどこまでも追い込んでしまうことがあります。
勤務時間という枠に細かく管理されない分、自分自身で仕事量をコントロールする力が必要になります。
だからこそ、
自分を律する力と同じくらい、
「今日はここまででよし」
と、自分を緩め、許す力も必要なのだと感じています。
克己だけでもいけない。
緩みすぎてもいけない。
その間で、上手に自分自身の舵を握ること。
このバランスは、公邸料理人を長く続けていく上で、とても大切なのではないかと思っています。
最後に
料理の技術は、もちろん大前提として大切です。
でも、公邸(在外公館)料理人として働いてきて感じるのは、それだけではないということです。
自分たちは、
日本文化の発信者であり、外交を支えるチームの一員でもある。
その心構えが、とても大切なのではないかと思います。
公的な仕事として会食を支え、料理を通して日本という国を伝えていく。
だからこそ、料理を作る技術だけではなく、その仕事に対する誇りと責任を持っていたい。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、私はそこに、一種の騎士道精神のようなものを感じています。
『日本への愛を胸に、日本の文化を広め、日本の外側から支え、護る。』
そんな気持ちを持って働ける人。
そして、それを重荷にするのではなく、誇りとして楽しめる人。
そんな人が、公邸(在外公館)料理人に向いているのではないかと、私は思います。
