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♦︎恋のヒント♦︎『びっくりした』だけなのに、夫には言えなかった

先日、短編小説『眠る夫の隣で』を書きました。

今回は、その物語の続きを書くのではなく、作中にあった小さな迷いを、現実の恋愛として少し掘り下げてみたいと思います。

元恋人に、

「びっくりした」

と送る。

たったそれだけなら、浮気ではないのでしょうか。

「会いたい」と言ったわけでもない。
「好き」と伝えたわけでもない。
二人きりで会ったわけでもない。

それでも、そのやり取りを今のパートナーには見られたくないと思ったとしたら。

気になるのは、送った言葉なのでしょうか。

それとも、隠したくなった自分の気持ちなのでしょうか。

今回の物語では、新婚旅行中の女性が、旅先で元彼と偶然再会します。

声をかけようとした元彼に、彼女は夫に気づかれないよう、口元に人差し指を立てて「シッ」と合図しました。

その場では、二人は言葉を交わしていません。

けれどその夜、夫が隣で眠ったあと、彼女は何年も使っていなかった元彼とのトーク画面を開きます。

そして送ったのが、

「びっくりした」

という五文字でした。

元彼から返ってきたのは、

「俺も。声かけそうになった」

という言葉。

そこからほんの少しだけ、やり取りが続きます。

「会いたい」もない。
「好き」もない。
昔に戻りたいという言葉もない。

元彼は彼女の結婚を知り、「おめでとう」と言って、やり取りは終わります。

けれど翌朝、夫に、

「昨日、俺が寝たあと起きてた?」

と聞かれた彼女は、

「ううん。すぐ寝たよ」

と答えました。

彼女が重く感じたのは、元彼に送った「びっくりした」という五文字よりも、夫に言った「すぐ寝たよ」という一言でした。

今回は、この場面から、

元恋人への連絡は、どこから気になるものに変わるのか。

そして、

なぜ、隠したくなることがあるのか。

そんなことを考えてみたいと思います。

元恋人に連絡すること自体が、悪いわけではない


元恋人と連絡を取ることが、すべて悪いわけではありません。

仕事で関わることもあるでしょう。共通の友人がいたり、何か必要な連絡があったりすることもあります。

偶然再会して、

「久しぶり」
「元気そうでよかった」

と近況を交わすことだってあるでしょう。

だから、

「元恋人に連絡したら浮気」

と、一つの基準で決めることはできないと思います。

連絡だけなら気にならない人もいる。
短いやり取りでも嫌だと感じる人もいる。

恋愛の境界線は、人によって違います。

だからこそ気になるのは、何を送ったかだけではなく、なぜ送りたかったのかです。

ただ、驚きを伝えたかったのか。

懐かしい気持ちを共有したかったのか。

相手が今どうしているのか、少し知りたくなったのか。

返事が来ることを、どこかで期待していたのか。

どんな気持ちがあったとしても、それだけで「まだ未練がある」と決めつける必要はありません。

ただ、

「なぜ送りたかったのか」

その理由を、自分にだけは正直に聞いてみてもいいのかもしれません。

「びっくりした」より、「すぐ寝たよ」が重かった理由


今回の物語で、私が気になったのはここでした。

元彼に送ったのは、「びっくりした」という一言です。

それだけを見れば、ただ驚きを伝えただけとも受け取れます。

でも翌朝、夫には「すぐ寝たよ」と言いました。

もし本当に何も気にしていなかったなら、

「昨日、偶然元彼に会ってびっくりして、少しLINEした」

と話すこともできたかもしれません。

話さなかった理由は、さまざまです。

「夫を余計に不安にさせたくない」「誤解を生みたくない」という、相手への気遣いだったのかもしれません。

あるいは、自分の中にある微かな心の揺れを悟られたくなかったのかもしれません。

だから、

「隠したこと=悪いこと」
「隠した=心にやましさがある」

と、すぐに決めつけて自分を責める必要はないと思います。

ただ、夫を気遣う優しさだったとしても、自分の揺れを守るためだったとしても、言葉を飲み込んだ瞬間、そこには何かしらの理由があったはずです。

「どうして私は、言いたくなかったんだろう」

秘密にしたことそのものを悔やむより、なぜそれを隠したくなったのかを考えてみる。

そこに、自分でもまだ言葉にできていない気持ちが隠れていることがあります。

「懐かしい」と思うことと、戻りたいと思うことは違う


元恋人に偶然会えば、昔を思い出すことがあります。

一緒に行った場所。
よく聞いていた曲。
当時の自分。

今のパートナーを大切に思っていても、昔の恋を懐かしく感じる瞬間はあるでしょう。

それだけで、今の愛情が嘘になるわけではありません。

そして、懐かしく思うことと、もう一度その人と関係を持ちたいと思うことは、同じではありません。

ただ、返事が来ると嬉しい。

もう一通送りたくなる。

相手が今、誰かと付き合っているのか気になる。

そんなふうに、気持ちが少しずつ動いていくこともあります。

だから、元恋人を懐かしく思った自分を責める必要はありません。

ただ、

「私は、懐かしんでいるだけなのかな。それとも、もう一度つながりたいのかな」

そこだけは、自分に聞いてみてもいいのかもしれません。

迷ったときに、考えてみたい三つのこと


元恋人に連絡したくなったとき。

「これってどうなんだろう」と迷ったら、三つのことを自分に聞いてみてください。

1.そのメッセージは、明日の昼でも送れますか

夜は、昼間なら流せた気持ちを、誰かに伝えたくなることがあります。

だから、急いで送らなくてもいいメッセージなら、一晩置いてみる。

本当に伝えたいことなら、朝になってもきっと伝えたいはずです。

反対に、

「別に送らなくてもいいかな」

と思うこともあります。

一晩待つことは、相手を試すためではありません。

自分の気持ちがどこから来ているのかを見るための、ほんの少しの時間です。

2.返信が来ないと分かっていても、送りたいですか

もし、そのメッセージに絶対に返事が来ないと分かっていたとしても、それでも送りたいでしょうか。

「それでも伝えたい」

と思うなら、本当にただ伝えたかったのかもしれません。

でも、

「返事がないなら送らないかな」

と思ったとしたら。

欲しかったのは、言葉を届けることよりも、相手からの反応だったのかもしれません。

返信が欲しいと思うこと自体が、悪いわけではありません。

ただ、その返事をもらったあと、もっと話したくなるのか。

相手の今を知りたくなるのか。

またつながったことが嬉しいのか。

そこまで想像すると、自分が何を求めていたのかが見えやすくなります。

3.パートナーに知られたら、何が一番気になりますか

「パートナーに見せられますか?」

という問いだけでは、少し乱暴かもしれません。

恋人や夫婦であっても、何もかも見せ合わなければならないわけではありません。

だから考えたいのは、見られることそのものではなく、見られたら何が気になるのか。

相手を不安にさせること。
誤解されること。
喧嘩になること。

それとも、

「どうして連絡したの?」

と聞かれたとき、自分でもうまく説明できない気持ちと向き合うこと。

そこを考えてみると、自分が本当に隠したかったものが見えてくることがあります。

「浮気かどうか」を決める前に


どこからが浮気なのか。

この問いに、すべての人が納得する一つの答えはないと思います。

連絡だけなら問題ないと思う人もいます。

気持ちが動いた時点で嫌だと感じる人もいます。

二人きりで会うことからだと考える人もいるでしょう。

だから、

「これくらい普通」
「何もしていないんだから問題ない」

と、誰かの基準だけで決めるのは難しいのだと思います。

大切なのは、

「私は、ここからは嫌だと感じる」
「あなたは、どこから気になる?」

と、二人の感覚を知っておくこと。

同じ出来事でも、受け取り方は違います。

境界線は、誰かに決めてもらうものではなく、二人の関係の中で少しずつ見つけていくものなのかもしれません。

もし、もう連絡してしまっていたら


すでに元恋人へ連絡して、「送らなければよかったかな」と思っている人もいるかもしれません。

そんなとき、過ぎたことを何度も責め続けるより、

「私は、あのとき何を求めていたんだろう」

と考えてみる方が、次につながるように思います。

ただ、懐かしかった。

驚きを共有したかった。

相手が自分を覚えているのか知りたかった。

昔の自分に少し触れたかった。

あるいは、本当に何の意味もなく、ただ「びっくりした」と言いたかった。

どんな答えが出てきても、すぐに良い悪いを決めなくていいと思います。

まず、自分が何を感じていたのかを、自分だけは知っておく。

そして、

「このあとも連絡を続けたい?」
「もう一度会いたい?」
「今のパートナーに言えない関係にしてまで、つながっていたい?」

そこまで考えたとき、自分がこれからどうしたいのかが、少し見えてくるかもしれません。


最後に

元恋人に送った、「びっくりした」という五文字。

その言葉だけを見て、浮気なのか、未練があるのかを決めることはできません。

大切なのは、そのあと自分の心がどこへ向いたのか。

「私は今、何を求めているんだろう」

と、自分に聞いてみることなのだと思います。

過去の誰かを思い出したからといって、今そばにいる人への気持ちまで嘘になるわけではありません。

ただ、心が動いたその先で、何を選ぶのか。

その小さな選択の積み重ねが、今の関係をつくっていくのだと思います。

その一言を送る前に、ほんの少しだけ立ち止まって、自分の気持ちを見つめてみる。

それだけでも、見えてくるものがあるのかもしれません。



〈小説をまだ読んでいない方へ〉

今回の「恋のヒント」のもとになった短編小説『眠る夫の隣で』では、新婚旅行中に元彼と偶然再会した女性が、その夜、夫の隣で元彼に「びっくりした」とLINEを送ります。

何気ない数往復のやり取り。

けれど翌朝、夫に聞かれた彼女は、

「すぐ寝たよ」

と、小さな嘘をつきました。

「びっくりした」と送ったことよりも、なぜ「すぐ寝たよ」と言ってしまったのか。

その夜の彼女の心の揺れを、物語にしています。

▶︎ 短編小説『眠る夫の隣で』はこちら

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堂安咲和🪞 恋の本音を、物語と言葉に。 読んでくださって、ありがとうございます。 少しでも心に残るものがありましたら、チップでそっと応援していただけると嬉しいです。 これからも物語や言葉を書いていく励みになります🪞