【企画SS#片想い文芸部】思い出を曲にのせて(やさしさに包まれたなら)
(約2,000字)
大事にするから、俺を選んで。
「……選べない……」
思わず呟くと、メニューの向こうから同期のきょとんとした顔が覗いた。
「めずらし。いつもジェノベーゼなのに」
「そう、なんだけど……」
「あんま冒険しないのにね。気になるのあった?新メニュー?」
どれどれ?と楽しそうに訊かれて、わたしはメニューを指さす。
「え、カルボナーラ?」
「うん」
「定番だね……」
「うん……」
黙り込むわたしに、同期はふふ、と笑う。そういうこともあるよね、と。
「え?」
「あるじゃん。なんか急に、いつもと違うものが欲しくなること。いつもなら物足りない気がする、やさしい味が欲しいとき、とかさ」
その言葉に、なぜだか胸がぎゅっと痛む。
いつもとは違う味。
いつもよりもやさしい味。
そういうものが、欲しいとき。
「決められない……」
「あ、ジェノベーゼもワンチャンあり?」
「うん」
「そっかぁ、わたしはエビとブロッコリーにしよう」
急かさない優しさに甘えて、わたしはメニューを睨む。
選べない理由は、わかっている。
「迷うときってどうやって決める?」
「うーん。いつものじゃないな、って自分で思ってたら、むしろ悩まず『じゃないほう』にするけど」
いつものもいいんだもんね?と訊かれて、素直にうんと頷く。
「難しいね。これまでの自分を考えたら、結局いつものがいいような気もするし。でももしかしたら、今日から『いつもの』が変わるってことかもしれないし」
今日の自分が食べたいものは、昨日の自分が食べたいものとは違う。でも、明日の自分が食べたいものと同じなのかはわからない。
選べない。
「とうしても選ばなきゃだめ?」
「え?」
驚くわたしに、同期は笑ってメニューの隅を指す。
「ハーフも、あるよ」
選ばないって選択肢もあるよ。
その言葉に、喉がぐっと詰まる。
選べないなら、選ばない。
もしかして、それが一番なんだろうか。
差し出された手を取れないのは、追いかけてきた背中があるから。
追いかけてきた背中に走れないのは、差し出された手があるから。
それならいっそ、どちらも選ばず、このままでいるほうがいいんだろうか。
そう考えて、また胸がぎゅっと痛む。
違う、言い訳だ。
あの背中を追いかけられないのは、あの手があるからじゃない。
それはただ、わたしの……
「……どうしても選ばなきゃいけないんならさ、」
同期は眉を下げて微笑む。困ったねぇ、と言うような、やさしい微笑。
「一回、自分をめちゃくちゃ甘やかしてからにしたら?」
「……自分を、甘やかす?」
どういうことだ。
お冷を一口飲んで、彼女はにっこりと笑った。
「好きなもの食べて、好きなもの見て、好きなだけ寝て。やりたいことだけやって、気が進まないことは全部後回しにしてさ。思いっきり自分を甘やかして、充電満タンにしてみなよ」
「……充電、満タン」
「うん。最近仕事大変そうだったし。……疲れてるときって、やさしいものが食べたくなるじゃん。もしくは、元気出そうとして刺激の強いものにしてみたり。で、違ったわ……ってなったりするじゃん」
「それはそう、かも」
「でしょ。衝動買いもしがちだし、しかも絶対失敗するじゃん?合わせるトップスないとかさー」
「あるある」
でしょ、と笑う顔は明るくて、つられて口元が緩む気がする。
「選んで」と言われて答えを出さずに、違う人のことを考えてしまうわたしは、もう充分、自分に甘い気がする、けれど。
それでも、もしかしたら。
「ごちゃごちゃしたもの全部取っ払って、軽ーい気持ちになれたらさ。大抵は、ふっとわかる気がするんだよね。『あ、これだ』って」
「……うん」
想像してみる。
目覚ましをかけずに眠って、自然と目が覚めた朝。
朝だな、と思った次の瞬間、ふとわかる。
ああ、そうだ。
わたしは、……
「だから、焦らなくていいよ。……そう、自分に言ってあげなよ」
「自分、に」
「うん。やさしくしてあげなよ、自分に。そしたらちゃんと選べるよ。むしろそうやってしか、自分のためになんて選べないよ」
同期の白い手が、するりとテーブルを滑って呼び出しボタンを押す。ぽーん、と遠くで音が鳴る。
「大人ってさ、勝手にいろいろ考えちゃうじゃん。あれがどうとか、これをこうしたらこっちが……とかさ」
そういうの、全部忘れちゃいなよ。
そしたら、きっと。
「だから今日はとりあえず、ハーフでいい?」
ご注文は、とオーダー票を出す店員の声に重ねて、同期はイタズラげに笑った。
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こちらの企画に参加させていただきます↓
よろしくお願いいたします。
#片想い文芸
#思い出を曲にのせて
小休止回です。
進展を待って下さっている方、申し訳ありませんでした。
まさかの男子ズ登場せず!!
そして今回、お題はイメージソングとして使わせていただきました。
個人的には、魔女宅は新入社員の課題映画にしたほうがいいと思うくらい、社会人のスタート期にお世話になりました。
そういう意味では思い出の曲(のひとつ)。
『おちこんだりもしたけれど、私、この町が好きです』ってキキのセリフ、町を仕事に変えたら、まんま社会人の理想やん……
この映画を観て、泣きながら「私もいつかこう言えるようになるかな」と思っていたあの頃の私。
………かわいいな???(おい)
前回のこの人たち↓
男子ズは仲良くしてるかな……
これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)
いつも楽しく参加させていただいてます、
ありがとうございます!
