『モモの古道具屋さん』第1話 古びたアコースティックギター 第一走者 kokoro_hashiruが担当します!
エルフィアの森の片隅で深い緑の森の古道具屋さん。
大きな木をくり抜いて中を空洞にしただけの一軒の古道具屋さん。
そこには毎日、多くはないがお客さんが来る。
買いにくる客、売りに来る客、商品を見に来るだけの客。
いろんな客がそこには来た。
溢れ日が差し込む午後、長い影が店の前に伸びていた。
「いらっしゃい。いろいろあるよ。見ていって」
店はエルフィア族のおてんば娘・モモが店番をしていた。そして、ニコッと微笑む天使の営業スマイルに男は一瞬たじろいだ。
それもそのはずだった。エルフィア族は鳥のような白い大きな羽を持ち、人間の五歳児くらいの大きさ。見た目はドキッとするほど美しく、男は目を合わすと、なぜか顔を紅潮させていた。
——天使がいるなら、こんな感じかなぁ。
そんなことを思いながら男は、見惚れていた。
目的を思い出した男は、首を傾げるモモに言った。
「あ、ああ。ありがとう。でも今日は買って欲しいものがあるんだ」
お客は見たところ、四十代半ば。
「おじさん、モモは何を買ったらいいの?」
「うん、この古びたアコースティックギターを売りたいんだ」
「へー、このギター結構いいもんじゃない?」
「ああ、値段はまあまあしたんだが、今はもう弾かないから大切に弾いてくれる人に譲りたいんだ」
「どんなギターだったの?」
男は少し顔を上げて空を見上げた。
「そうだな、私の青春……かな?」
「へー、おじさんの青春?」
「学生時代にバンドをやろうってなってね、ボーカルだったんだ。
でも、楽器ができないのが恥ずかしくて、ギターを買って、コードばかりをジャカジャカかき鳴らしていた」
「そのときのギター?」
「ああ、路上でね、弾いたりしたこともある。
防波堤までバイクでギターを担いで行ったりしてね。友達の前で弾いたり……」
「いいの? 大切な思い出ばかりなのに」
「部屋の隅で埃をかぶるこいつを見ていられなくてね。だったら誰かのために新しい音を奏でて欲しいって思ってね」
男はギターを慈しむような目で見やると目を閉じた。
「いいの? また弾きたくなるんじゃない?」
モモが上目遣いで、男に聞いた。
「今はこれ」
男は大きめのバッグから銀のトランペットを出した。
そして、やおら
ププー
ププププー
プププププー
プピー
と、吹き出した。
「ププーは分かるけど、プピーはダメじゃん!」
とモモは笑った。
「ああ、でもこれでいいんだ。ギターはもう私じゃない。
トランペットで奏でる音が私の音。
カッコばっかりつけたあの日にはもう戻らないし、戻りたくない。
分かるかな……君には、分からないかな」
と、男はトランペットを大切そうに袋にしまった。
「うーん。分かるような分からないような……
でも、このギターを欲しがる人もきっといるから、弦も新しそうだし、
10000エルでどう?」
「ああ、いくらでもいいよ。ありがとう。
大切に使ってもらえよ、相棒」
「……相棒って、カッコつけじゃん。
おじさん。どうせ『あばよ』とかいうんじゃないの?」
「あばよ!」
「やっぱり。ふふふ。
毎度あり。また来てね」
そうして、古道具屋さんの店頭には古びたギターが並ぶことになった。
モモの古道具屋さんの前にはいつも優しい風が吹いている。
森の香り、お日様の香り、ギターの木の香り……
森の向こうから、プピーという甲高い音が鳴り響いていた。
※エル……エルフィアの通貨の単位。ここもこだわりありません。円でもドルでも大丈夫です。
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