【小説】『おかんという生き物』第7話 熾烈を極めた夫婦喧嘩

第7話 熾烈を極めた夫婦喧嘩

 おかんという生き物は、人ではないかもしれない。人の顔した違う別の種族。
矛盾、理不尽、屁理屈などの全てを引き受けた種族。その慣れの果てがおかんという生き物だ。

 小学校の4年か5年のときから私は鍵っ子になった。鍵を持たなくても、帰ったら当たり前のように
「お帰りー」が聞こえる。
そんな日常だった。

 でも、あるときから、「お帰りー」が消えた。
そして、母が勤めに出ることになった。
6歳離れた妹と私が待つ家に帰る生活。
父は仕事に出るのはずっと反対していた。
けれど、ずっと家にいられる人でもない。
エネルギーを持て余しているから。
そんな母は内職をやったり、いろんなことにチャレンジしていた。もちろん、家の足しにするため。

 そうして、家から徐々に外に出始めた母は毎日、あくせく働き、私たちの三食をきっちりつくり、不自由ない暮らしを築こうと頑張りだした。
片付けるのは正直得意ではない。

 よく父から
「家も片付いてないのに、外に出るな」と、
怒られていた。
この頃から、夫婦喧嘩が激化していた。
おそらく、働き出したことで、自分も稼いでる。だから、少しえらい気になった。
すぐに調子にのる性格なので……。
そこからの喧嘩である。

 喧嘩されると辛いのは、子どもの私たちである。母は絶対に引かない。父も絶対に引かない。結論として、どちらかが家を出る。大体は母が出て行った。母がいなくなった家は悲惨であった。
誰がご飯作る? 父?
だから、私は大体は母について行った。

 一度父が出て行ったことがあった。
「亭主に向かって、なんやその言い方は!」
些細な言葉遣い一つが、喧嘩の種になる。
「出ていけ!」
と言うと、その日は母に分があったようで、
「何で私がいかなあかんの! あんたが行きーや!」と、父を押した。当時母はデカくて、強かった。父がよろめいてガラスの引き戸に倒れてしまった。

 パリーンという音とともに、ガラスが割れた。
父の気持ちと私の何かの糸も切れてしまった。

 父は何も言わずに扉を開けて出て行った。
残された私は涙が止まらなくなった。
「何でこんなことになるねん」と、言いながら割れたガラスを拾ってバケツに入れた。
ガラスを触った手から血が出たが、
気にもならず、大きいガラスを拳で粉々にした。なんだがスッキリした。けど、拾い終わったら父が心配になって家を出ようとしたら、母が私を止めた。
「マコト待ち、これをお父さんに持って行ってやり」
見ると、おにぎりだった。
「どこにおるか分からんのに、渡せるか」と、言うと、外を指さして
「駐車場にいてるから」
と、私が団地から駐車場を見下ろすと、車の中に確かにいた。私は走って階段を駆け下り、父の元へ行き、扉の外から大きな声で、
「これ、お母さんから。おにぎり」
と言うと、父はバツの悪そうな顔をして、
「要らん」の口をして目を閉じた。
父が何だか小さく見えた日だった。

それくらいからか、母は自立した考えで、自分で何かをする人になっていった気がする。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集