雨の日の預金と、人生の選び方
小学生だった父は、ある日、担任の先生から特別な仕事を任された。学級費を銀行に預けに行くという、ちょっとした「信頼の証」のような役割だった。他にも「やりたい」と手を挙げた子はいたらしいが、先生は父を選んだ。理由は「信用があるから」。その言葉に、父は誇らしさを感じたという。
しかし、現実は甘くなかった。雨が降る中、銀行までの道のりは遠く、濡れながら歩くのも一苦労。ようやく着いた銀行では、長い待ち時間が父を待っていた。窓口の人に事情を説明するのも、子どもには難しかっただろう。帰り道、濡れた靴の中で、父は静かに決意したという。
「他にやりたい人がいることは、絶対に自分からはしない」
それは、単なるわがままではない。父にとっては、自分の時間とエネルギーをどう使うかという、人生の指針だった。誰かがやりたがっていることは、その人に任せればいい。自分は、自分にしかできないことに集中する。そうすることで、無理なく、自然に、自分の人生を歩むことができる。
この話を聞いたとき、私は驚いた。子どもの頃の一度の経験が、父の生き方を形づくったのだ。雨の日の預金は、父にとって「責任の重さ」と「選択の意味」を教えてくれたのだろう。
そして今、私もまた、選択の岐路に立っている。誰かの期待に応えることと、自分の人生に集中すること。その間で揺れるとき、父のこの話が、静かに背中を押してくれる。
「やりたい人がいるなら、任せればいい。自分は、自分の道を歩けばいい」
父の言葉は、雨に濡れた靴の中で生まれた、人生の知恵だった。
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