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【小説】『最終停留所と、人生の乗り換え案内』#2

​第2話:結婚を拒んだ「プライド」

​ 深夜。ケンタとは違う停留所――かつて豪華な結婚式場があった跡地――に、アヤという名の女性が立っていた。

 三十代半ば。彼女は、三ヶ月前に長年付き合った恋人からのプロポーズを、理由もなく拒否したことを深く後悔していた。理由は、**「彼が自分の期待通りのエリートではない」**という、彼女自身の高すぎるプライドだった。

​ 彼はすでに別の女性と結婚したと聞く。彼女が最も後悔しているのは、**「あの時、彼の優しさに素直になれなかった」**自分の態度だ。

​ 古い路面電車が滑り込み、アヤは乗り込んだ。案内人は優しく微笑む。

​「運賃は?」

「彼に、『あなたのことなんて愛していない』と言い放った、あの時のプライドです」

​ アヤの心から鋭い痛みが抜け落ち、代わりに強烈な**「寂しさ」**が残った。その寂しさが運賃となり、電車は出発した。

​ 電車が止まった先は、五年後の景色だ。

 アヤが想像していた「選ばなかった道」は、愛する彼と、広々とした一戸建てに住む、幸福な未来だった。

​ しかし、窓の外に見えたのは、予想外の光景だった。

 彼と、**当時の自分(アヤ2)**が住んでいるのは、狭く古い賃貸アパートだ。部屋の中には、寝たきりの祖母の介護用品が所狭しと置かれている。

​ アヤは息を飲んだ。彼女の記憶にはなかったが、彼には当時、老いた祖母を一人で支える必要があったのだ。結婚すれば、彼女もその重荷を背負うことになっていた。

​ 窓の外のアヤ2は、疲弊しきっている。夢見たキャリアは諦め、介護と家事に追われている。しかし、彼女が彼を見る眼差しは、静かで穏やかだった。彼が介護で心折れそうなとき、アヤ2はただ隣に座り、**静かに彼の手を握り返していた。**そこには、言葉にできない、深い愛と信頼があった。

​ 案内人が、そっとアヤに語りかける。

​「彼女は夢を諦めたが、**二人で支え合う『真実の愛』**を手に入れた。あなたは、この重荷を背負うことを無意識に恐れ、逃げた」

「……そうよ。私は、楽な道を選んだ」

​ しかし、その時、アヤは気づいた。窓の外のアヤ2と、今の自分を比較しても、**どちらの人生も「逃げていない」**のだ。当時は逃げたが、今の自分は、孤独という重さを引き受け、一人で人生を切り開く強さを手に入れている。

​「あの道も、この道も、どちらも**『私』という名のレール**は続いているのね……」

​ アヤは涙を拭い、彼らに向かって心の中で言った。

​「あなたたちの選んだ道に、プライドなんて要らない。どうか幸せに」

​ 路面電車は再び動き出し、アヤの心の中の「寂しさ」は、**「一人で生きる強さ」**という温かい希望に変わっていった。

​(続く)

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