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面談を増やしても、部下が相談に来ない本当の理由

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■ 話しかけやすいはずの上司の話

中部で設備工事を手がける、社員およそ60名の会社の話です。

現場を任されている管理職の一人は、部下思いで知られていました。
声のかけ方はやわらかく、頭ごなしに叱ることもない。
困ったらいつでも言ってくれ。
口ぐせのように、そう伝えていました。

それでも、部下は相談に来ません。

来るのは、いつも手遅れになってからです。
段取りが崩れ、納期があやしくなり、もう隠しきれなくなってから、ようやく報告が上がってくる。

「なぜ、もっと早く言ってくれないんでしょう」。
その管理職は、そうこぼしました。

■ 世間が言う「相談しやすい空気をつくれ」

こういうとき、まず語られるのは「相談しやすい空気が足りない」ということです。上司が怖い。忙しそうで、話しかけるタイミングがない。だから部下は口をつぐむのだ、と。

ならば、と手を打ちます。
声をかける回数を増やす。
席の配置を変えて、近くに座る。
月に一度だった一対一の面談を、二週に一度にする。
研修で、話を聴く技術を学ぶ。
どれも、まっとうな打ち手です。実際、この会社もそうしました。

聞く側が、聞く姿勢を整える。世の中でも、そう語られています。

■ ちゃんとやっているのに、届かない

ところが——空気は、思ったほど変わりませんでした。

面談の回数は増えた。
時間も確保した。
けれど、席についた部下の口から出てくるのは、報告書に書けば済むような話ばかり。「特に問題ありません」で、十五分が終わっていく。

ここで立ち止まりたいのは、この管理職を責めるためではありません。
むしろ逆です。この人は、ちゃんと聴こうとしていた。
忙しい現場のなかで、時間も割いていた。
部下のことを、本気で気にかけていた。
なのに、届かない。

似た思いをされた方は、きっと少なくないと思います。
こちらは開いているつもりなのに、向こうから来ない。
場は用意した。準備もした。
なのに、何も返ってこない。

部下との信頼関係ができていないからだ、と言われそうですが。
いえ、そうではないのです。

■ 同じ机をはさんで、違うものを見ている

ここに、見えにくいズレがあります。

聞きたい上司と、話さない部下は、同じ机をはさんで、向かい合って座っています。けれど、二人が見ているものは、別々なのです。

上司が見ているのは、「どう聞き出すか」。
どんな問いを立てれば、どんな間をとれば、本音が出てくるか。
主語は、聞く側の自分です。

部下が見ているのは、「話して、損をしないか」。
この話をしたら、力量を疑われないか。評価に響かないか。あとで、面倒なことにならないか。
主語は、話す側の自分です。

同じ机をはさみながら、見ているものが、違う。

片方は本音を引き出す手立てを探し、もう片方は、口を開いたあとに自分の身へ何が起きるかを、静かに見積もっている。

だから、聞き方をどれだけ磨いても、このズレは埋まりません。部下が黙っていたのは、上司が怖かったからではなく、弱みを見せたあとの安全を、まだ一度も確かめられていなかったからです。

実際この管理職が次に変えたのは、問いの立て方でも、面談の頻度でも、ありませんでした。自分の失敗を、先に話すようにしたのです。

昔、見積もりを読み違えて、大きな手戻りを出したこと。いまも判断に迷って、その日のうちに決めきれない夜があること。そういう、格好のつかない話を、雑談のなかにぽつりと置いた。

特別なことは、していません。ただ、弱いところを見せても、この人の前では安全だという証拠を、先に自分の側から差し出した。それだけで、部下の口は、少しずつ開きはじめました。

気づけば、いちばん寡黙だった若手が、まだ形にもならない段階の困りごとを、自分から持ち込むようになっていったのです。

■ 信頼の正体

ここに、信頼という言葉の本当の姿が見えてきます。

信頼とは、こちらから築くものではありません。

信頼とは、先に開いた側に、返ってくるものである。

それは、やまびこに似ています。山に向かって黙って立っていても、声は返ってきません。返ってくるのは、こちらが先に声を出したときだけ。しかも返ってくるのは、こちらが出したのと同じ声です。小さくつぶやけば、小さく返る。本当のことを言えば、本当のことが返ってくる。

■ うまくいかない理由は、ひとつ手前にある

部下が相談に来ない。その理由の多くは、聞き方の未熟さより、ひとつ手前にあります。

話しても損をしないという確信。弱いところを見せても、立場が揺らがないという安心。その土台があって初めて、どんな問いかけも、どれだけ確保した時間も、意味を持ちはじめます。

私たちグロウスブレインがしているのは、この「ひとつ手前」に立つことです。

経営者の想いと、現場で働く一人ひとりの実感。そのあいだに立って、すれ違ったままの両者の言葉を、翻訳していく。

聞き出そうとする前に、先に開く。

その順番こそが、閉じたままだった口を、いちばん自然にひらいていく道だと、私たちは考えています。


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