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【映画レビュー】実写版『ルックバック』|藤野と京本に与えられた40分のアディショナルタイム

自分は年間30〜50本くらい映画館で映画を見る程度には映画が好きです。

……と言いつつ、今年は引っ越しなどもあって全然映画館に行けておらず、今回の『ルックバック』でまだ10本目。

さすがにこれは少ない(笑)。

ここから年末に向けて頑張って、なんとか年間20本までは伸ばしたいと思っています。

これからは不定期に映画レビューも書いていきたいと思います。

そんな今年10本目の映画として観てきたのが、

是枝裕和監督による実写映画『ルックバック』

藤本タツキ先生の原作漫画は読了済みで単行本も所有。

2024年公開のアニメ版も劇場で観ています。

そんな自分が今回の実写版を観終わって最初に思ったことは、

「みんな違って、みんな良い」

でした。

約60分のアニメ版と、約100分の実写版

原作『ルックバック』はコミック1冊に収められた作品。

アニメ版は上映時間58分。

原作をほぼ余すところなく映像に落とし込みながら、それでも冗長さをまったく感じさせない。

無駄を極限まで省き、研ぎ澄まされた約60分。

自分はアニメ版『ルックバック』を、かなり完成度の高い映像化だと思っています。

だからこそ、実写映画化の話を聞いた時には、

「あれを、さらに実写でどう映画化するんだろう?」

という疑問がありました。
しかも監督は是枝裕和。
実写版は約100分。

単純に考えれば、アニメ版より約40分長い。

では、その約40分で何を描くのか?

実際に観てみて、自分なりの答えが見えました。

アニメ版が削ぎ落としたものを、実写版はあえて拾っていく

アニメ版は本当に研ぎ澄まされています。

一方の実写版は、物語の大筋では原作やアニメ版を非常に大切にしていて、「この構図、原作そのままだ」「アニメでも見たな」と感じるカットもたくさんあります。

しかし、その間にある時間が明らかに違う。

藤野と京本が話す
歩く
漫画を描く
同じ場所にいる
季節が変わる

そうした、物語を前に進めるためだけなら削ってしまうこともできる時間を、実写版は丁寧に拾っていきます。

つまり実写版が加えた約40分は、

説明のために加えた40分ではなく、藤野と京本という二人の人間を存在させるための40分

だったように感じました。

「自分が実写化するなら、何を描くのか?」

これは是枝監督にとって、かなり勇気のいる実写化だったのではないでしょうか?

すでに原作がある。

さらに、その原作を約60分で見事に映像化したアニメ版まで存在する。

普通に同じことを実写でやったら、

「アニメ版でいいじゃん」

と言われてしまう。

実際、是枝監督自身も原作ファンを裏切らないようプレッシャーを感じていたこと、そして実写化するなら藤野と京本を「肉体を持った形で二人の人間として描きたい」と考えたことを語っています。

だからこそ、

「では、自分がこの作品を実写化する意味は何なのか?」

という葛藤は当然あったと思います。

そして、その答えとして是枝監督が選んだのが、

人物をじっくり見つめること

そこに自分は映画監督・是枝裕和の矜持を感じました。


秋田県にかほ市に、本当に二人がいたような感覚


今回の実写版で強く印象に残ったのが、秋田県にかほ市の風景です。

春、夏、秋、冬

田んぼ




季節ごとに表情を変えるにかほの風景が、スクリーンいっぱいに広がります。

これは単に「綺麗なロケーションで撮影しました」という映像美ではありませんでした。

是枝監督は当初から、にかほ市で四季それぞれの光を撮り、その中で二人の成長を捉えたいと企画していたそうです。実際、春夏秋冬を追って撮影し、さらに冬と春の追加撮影まで行っています。

だからでしょうか?
観ているうちに、

「秋田のどこかに、本当にこの二人がいたんじゃないか」

という感覚になってきます。

漫画のキャラクターだった藤野と京本が、実際ににかほで生活していた二人の少女になっていく。

これは実写だからこそできる表現だったと思います。

出演した出口夏希自身も、にかほでの撮影について「本当に住んでいるような、生活しているような感じだった」と振り返っています。

その感覚が、スクリーン越しにもちゃんと伝わってきました。

にかほの空気感まで映画の中に閉じ込めた

そんな作品です。


実写ならではのカメラワーク

もちろん「実写だからできること」は風景だけではありません。

今回かなり印象的だったのがカメラワーク。

例えば、あえてブレ補正を効かせないような手持ちカメラ。

人物を完璧に整ったフレームの中に収めるのではなく、カメラそのものが藤野や京本と一緒にその場にいるような感覚があります。

実写では、カメラも人物と同じ空間に存在できます。

微妙な揺れ
距離



人間の呼吸


完全には制御できないものまで画面に映り込む。

そこに、原作漫画ともアニメとも違う「実写映画としてのルックバック」がありました。

原作やアニメ版と同じ構図を大切にしながら、

「ここから先は実写映画として撮る」

という意思も感じます。

原作へのリスペクトがあり、アニメ版へのリスペクトもある。
それでも単なるコピーにはしない。
そこが良かった。


ちび藤野&ちび京本が素晴らしい

キャスティングも良かったです。

藤野役の出口夏希
京本役の蒔田彩珠
そして子ども時代を演じる七瀬ふうりと岡田六花

特に「ちび藤野&ちび京本」が素晴らしかった。

七瀬ふうりは本作が俳優デビューとのことですが、非常に自然でした。公式でも七瀬が子ども時代の藤野、岡田六花が子ども時代の京本としてクレジットされています。

だからこそ一つだけ言わせてもらうと……

さすがに出口夏希と蒔田彩珠の中学生は無理がある(笑)。

二人とも芝居はもちろん良いんです。

ですが、リアリズムを追求する是枝演出の中で、そこだけがファンタジーになっていた(笑)

個人的には、中学生時代の集英社への持ち込みくらいまでは、七瀬ふうり&岡田六花で良かった気がします。

それくらい子ども時代の二人が良かった。

ただ、出口夏希と蒔田彩珠に変わってからは、時間の経過や人生の重みが必要になってくる。

特に蒔田彩珠はこれまでも数多くの是枝作品に出演している俳優。

後半の京本を任せるという意味では、納得のキャスティングでした。


実写版が描いた「普通の時間」

今回の実写版について考えていて、一番しっくりきたのがこれでした。

約100分の実写版が、約60分のアニメ版に対して増やしたもの。

それは、

二人の人生の前後にあったはずの「普通の時間」

漫画を描く
歩く
話す
笑う
同じ場所にいる
季節が変わる

何か大きな事件が起きるわけでもない。
でも、人間の人生って本当はそういう時間の方が圧倒的に長い。

原作ではコマとコマの間に存在していた時間。

アニメ版では余白として存在していた時間。

それを実写版では「実際に流れる時間」として見せてくれる。

だから藤野も京本も、

「物語の登場人物」から「本当に生きていた人」に近づいていく。

ここに是枝監督らしさを強く感じました。


そして「ifの時間」

もう一つ。
『ルックバック』には、

「もし、あの時……」

という時間があります。

ここから先は作品の核心に触れるので詳しくは書きません。

ただ、『ルックバック』という物語にとって、この「if」は非常に大きな意味を持っています。

もし違う選択をしていたら?
もし二人が別々の場所で生き続けていたら?
もしかしたら、こんな未来も存在したのではないか?

実写版では、この「ifの時間」も大切に描かれています。

つまり、実写版で増えた時間は、

実際にあったかもしれない「普通の時間」と、存在したかもしれない「ifの時間」

この二つだったのだと思います。


プラス40分は二人に与えられた「アディショナルタイム」

そう考えた時、実写版の約40分追加を自分はこう受け取りました。

藤野と京本に与えられた「アディショナルタイム」

原作とアニメ版で描かれた二人の人生。

その前後にあったはずの時間を、もう少しだけ見せてもらえる。

藤野と京本がにかほで生きていた時間
二人が一緒に漫画を描いていた時間
それぞれの場所へ進んでいく時間
そして、もしかしたら存在していたかもしれない時間

「この二人を、もう少し見ていたい」

原作やアニメ版を好きだった人がどこかで抱えていたそんな気持ちに、実写版は約40分を使って応えてくれたようにも感じました。

だから、自分にとってこの約40分は蛇足ではありません。

藤野と京本の人生に与えられたアディショナルタイムでした。


アニメ版を超えるのではなく、違う『ルックバック』を作る

今回の実写版で何より良かったのは、原作やアニメ版と勝負しようとしていないことです。

アニメ版より上か下か?
原作に忠実かどうか?

そういう話ではない。

原作は、

漫画だからこそ成立する『ルックバック』

アニメ版は、

藤本タツキの漫画を極限まで研ぎ澄まして映像化した『ルックバック』

そして今回の実写版は、

藤野と京本が本当にこの世界のどこかで生きていたように感じさせる『ルックバック』

それぞれに存在する意味がある。

是枝監督は原作者・藤本タツキと直接会った後、「お礼を形にするなら、自分は映画監督なので映画という形が正しい答えなのではないか?」と考え、実写化への覚悟を決めたと語っています。

その覚悟に対する答えが、この映画だったのでしょう。


結論、「みんな違って、みんな良い」

原作を持っています。
アニメ版も劇場で観ました。
そして実写版も劇場で観ました。

その上での結論は、

みんな違って、みんな良い

です。

実写映画化として、個人的には成功だったと思います。

むしろ今回の実写版を観たことで、

もう一度原作を読みたい。
もう一度アニメ版を観たい。


と思いました。

これって実写化として、とても健全なことなんじゃないでしょうか?

原作を上書きするのではない。
アニメ版を否定するのでもない。

新しい『ルックバック』を見ることで、それまでの『ルックバック』にも、もう一度戻りたくなる。

タイトル通り、

また“Look Back”したくなる。

原作
アニメ
実写

三つの『ルックバック』が、それぞれ違った方向から藤野と京本を描いている。

そして今回の実写版では、

秋田県にかほ市のどこかで、藤野と京本が確かに生きていた。

そんな約100分でした。

さて、
原作をもう一回読み直すか。
その次はアニメ版ももう一度観よう。

そして、この作品に出会えたことで、映画館へ足を運ぶ熱が完全に戻ってきた

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