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この部屋に、気まずさが溶けていく音がした。

あの頃の午後は、もっと静かだった
テレビから流れるワイドショーの音
玄関のドアが閉まる音
笛吹きケトルが、しゅんしゅんと鳴った


でも、この部屋は――まだ、どこか気まずかった




喧嘩もして泣いて、それでも一緒にいて―――
落ち着いたはずなのに、どこか気まずい

どうすればいいのか分からないまま、
なんとなく過ごしていく
僕たちは、もとに戻れるのだろうか


冷めかけた紅茶を温めなおすこともなく―――


もとに戻らない、なんて選択肢は
最初から考えていないんだけど、

もとに戻らない、戻れない
落ち着いたはずなのに―――


録画されたドラマも再生されないまま、ただテレビの光が部屋を照らしていた




まだ「言葉にしにくいもの」が漂っている
なんだろう、わからないや




昨夜のこと
ひさしぶりに、ふたりで触れた

でも、どうだった?――ぎこちなかった?
それとも、どこかで笑えてた?

並んだだけで、少しほっとした午後。


ずっと触れてなかったワケじゃない
だからまた、触れない日が続くんじゃないかって

けど今は、信じたかった

もうダメなんじゃないかって思って
わざと帰るの遅くしたり、

喧嘩もして気まずくもなって、
けどがんばって泣いて話して、

でも安心もして

いつもと違う、触りかた
それがぎこちなさや気まずさの理由でもある

けど僕は、信じたかった
もとに戻れることを、信じたくなった―――

影に語らせた夜も、あった。




何度か触れたときのことだった

「……ねえ」
「うん?」
「あのさ、昨日――なんか変じゃなかった?」

少しの笑いがこぼれる

特別なはなしをしたワケでもない
触れかただって―――

だけど、僕は気まずさに、ヒビが入ったことを感じた

「よかった」
「なにが?」
「ううん、なんでもないよ」

本当に、よかった
もとに戻ったんだ、戻れたんだ

いや、もっといい方向にいけるんだ
気持ちがちゃんと伝えられているから
安心感が前と決定的に違う

まえのふたりより、よくなれるんだ
そんな気がした、僕はそれを信じた




ケトルの音が止まり、
紅茶がふたり分、注がれる
かかっていたCDに耳をやる

懐かしい思い出の曲だ
あぁ、なんだっけ

…でも、もう思い出の曲じゃなかった
今は、“ふたり”の生活の中に、ちゃんと音がある




カップが重なる音がした
この部屋に、気まずさが溶けていく音がした


うまく触れ合えなくて、
でもうまく言葉で伝えることができなくて、

遠回りしたかもしれない
けど「遠回りしてよかったね」って、
いつか言えるように―――

僕はこの思いを、
角砂糖と一緒にとかしたんだ




平成が終わっても、
僕たちは――まだ“ふたり”の途中にいる

これからもいろんなことが、ふたりにあると思う
けどいつだってふたりだし、そのたびにふたり


「やっぱりふたりがいいね、いつも―――」


それでも、あの日ふたりで聴いた曲のワンフレーズが、ふいに浮かんできた

思い出した、この歌詞
GLAYの、HOWEVERだ


このときのことを思い出したくなるときが
いつかきっと来る

辛いとき、寂しいとき、喧嘩したとき
どんなときかは分からないけど、きっと来る


そう思って、
僕はこの曲をMDに録音した―――


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