「学校うさぎ」が消える時代に考える~向山こども園が動物飼育を続ける意味~
今日は、先日行われた羊の毛刈りと「学校うさぎ」が減っているという記事を読んだことから、今の時代だからこそ考えたい、園で動物を飼うということについて書いてみたいと思います。

羊の毛刈りを通して感じること
先日、向山こども園では羊の毛刈りを行いました。
子どもたちは、普段ふわふわしている羊の毛が大きな一枚のように刈り取られていく様子に驚きながら、「こんなに毛があったの?」「あつ~い」「いたそう!」「がんばれ~!」と興味津々で見つめていました。
毛を刈った後の羊は、まるで別の生き物のように細く見えます。
子どもたちは、「寒くないのかな?」「やぎになった!!」など、それぞれ感じたことを口にしていました。
こうした光景を見ていると、動物が園の中にいるということは、単に“飼っている”ということではなく、子どもたちの日常の中に、生き物の営みそのものが存在しているのだと感じます。
羊は毎日草を食べ、暑ければ息を荒くし、冬には毛が伸び、夏前には毛を刈る必要があります。
そうした「生きている存在」と共に生活する経験は、図鑑や動画だけではなかなか得ることができません。
「学校うさぎ」が消えていく時代
そんな中、最近読んだ記事がとても印象に残りました。
千葉市で、最後の「学校うさぎ」の譲渡が完了したという記事です。
かつて千葉市では500羽以上の学校うさぎが飼育されていましたが、猛暑による死亡リスク、休日管理の負担、教職員の働き方改革などを背景に、段階的に廃止が進められてきたそうです。
記事の中では、長く世話をしていた子どもたちが、「幸せになってほしい」「寂しい」と涙を流しながら見送る様子も紹介されていました。
つまりこれは、単に“学校から動物がいなくなった”という話ではなく、子どもたちが確かに動物と深く関わっていたことも示しているのだと思います。
一方で、学校飼育を続ける難しさも非常に現実的です。
近年の猛暑では、屋外飼育そのものが難しくなっています。また、休日の餌やりや清掃を誰が担うのかという問題もあります。
「エサをあげて、ちょっと掃除をするだけじゃん」「先生が連れて帰ればよくない?」と言う声が聞こえてきそうですが、実際はそんな甘いものではありません。
学校や園に行くまでに時間も取られますし、何より、丸一日自分の時間が取れないというのは、地味にストレスです。
実際、全国的にも鳥類や哺乳類を学校で飼育する割合は大きく減少しているようです。
調べてみると、2000年代以降、高病原性鳥インフルエンザへの対応、完全週休2日制、働き方改革などを背景に、管理負担の大きい動物飼育は急速に減少し、現在では魚類や昆虫類へと飼育対象が移行していると言われています。
屋外での飼育が『ネグレクト』と批判され、教員が責任を問われる現代の社会風潮において、『動物を飼育しない』という結論は、主体的な選択というよりも、それ以外の選択肢が排除された結果であると言えます。
「命を大切にする教育」は重要だと考えられている一方で、“本当に責任を持って飼育できるのか”という問いが、今あらためて突きつけられているのだと思います。

なぜ向山こども園では羊を飼うのか
さてそんな社会の流れから逆行する形で、向山こども園ではいろいろな動物を飼っているわけですが、毛刈りを取材しに来てくださった報道関係の方から、「なぜ動物を飼っているのですか?」と聞かれることがあります。
私はいつも、「子どもたちに、人間だけが地球上で生きているわけではないという感覚を持ってほしいからです」とお答えしています。
園の中に、当たり前に人間以外の生き物がいる。その存在を日常として感じることが、とても大切だと思っているからです。
いろいろな動物と触れることを大切にする中で、少し大きな中型の哺乳類を飼うことを考えた時、羊が最も適しています。特にメスの羊は比較的穏やかで攻撃性が低く、子どもたちと一緒に散歩をしても危険性が少ない動物です。また、食欲旺盛で、子どもたちが草を持っていったり、お家から野菜くずを持ってきたりすると、本当に嬉しそうに食べてくれます。
子どもたちから見ると、自分と同じくらいの大きさの生き物です。
大きくて、力も強くて、ちょっと怖い時もあるけれど、たくさん食べて、お散歩もできて、毎日一緒に生活できる。
そうした存在と日常的に関わる経験は、子どもたちにとって非常に大きな意味があるように感じています。

「命を大切に」は言葉だけでは育たない
向山こども園では、羊以外にも、ウサギ、モルモット、フェレット、魚類、ニワトリなど、さまざまな生き物を飼っています。
それは、「生き物を大切にしましょう」という言葉だけでは、命の感覚は育ちにくいと思っているからです。
毎日ご飯をあげること。
水を替えること。
体調を心配すること。
時には亡くなることもあること。
そうした経験を通して、命は「知識」ではなく、「実感」として子どもの中に残っていくのだと思います。
園で動物を飼っていると、生まれる命もあれば、天国へ帰っていく命もあります。そのたびに子どもたちは驚き、悲しみ、時には受け止めきれずにいます。しかし私は、その経験自体が幼児期にとても大切なのではないかと思っています。
自分たちの力ではどうにもならないことがある。
一度失われた命は戻らない。
そうした現実を、子どもたちは動物との関わりの中で少しずつ感じていきます。

動物を飼うには理想だけでは続かない
もちろん、動物を飼うことは簡単ではありません。
向山こども園でも、園舎建て替えの際には羊小屋をどうするかを真剣に考えました。
近年の暑さを考えると、熱中症のリスクは無視できません。
そのため、専用の小屋を設置し、エアコンによる温度管理を行っています。また、以前は休日管理のために営繕担当職員に対応してもらってきましたが、退職後は基本的に私が日曜日の世話をするようにしています。
これは、保育者の負担をできるだけ増やさずに、子どもたちが動物と関われる環境を維持したいと思っているからです。
しかし、こうした体制を整えるには、土地も必要ですし、設備も必要です。
動物に関する知識も必要です。
そして何より大切なのは、「誰が責任を持って世話をするのか」という問題があります。
だからこそ、すべての園や学校で簡単に実現できるものではないと思っています。
それでも、動物と共に育つ環境を残したい
学校うさぎが減っていく流れには、現実的な理由があります。
それは決して、「命を大切にしなくなった」という単純な話ではありません。むしろ、動物福祉や安全性、働き方などを真剣に考えた結果でもあると思います。
それでも私は、幼児期に生き物と共に暮らす経験には、大きな価値があると感じています。
動物の温かさを知ること。
怖さを知ること。
思い通りにならない存在と関わること。
命が生まれ、失われることを体験すること。
それらはすべて、子どもたちが「生きる」ということを身体で感じる経験につながっているように思います。
だからこそ向山こども園では、これからも、命と関われる実体験のある環境を大切にしながら、子どもたちが生き物と共に育つ場を守っていきたいと思っています。
