第86話『だったら今、殺すか?』―10ヶ月我慢した男の、何かが切れた日。―
工場で働き始めて、
10ヶ月くらい経った頃だった。
僕は、
もうかなり仕事にも慣れていた。
建材を積むのも、
相方との呼吸を合わせるのも、
それなりにできるようになっていた。
でも、
Aの問題は何も変わらなかった。
いや。
むしろ、
どんどん酷くなっていた。
この数日、
Aの機嫌が尋常じゃない。
仕事を数時間放棄する。
戻ってきたと思ったら、
ハンマーを投げる。
ホワイトボードを蹴り倒す。
また物に当たる。
そんな状態が、
3日ほど続いていた。
僕も、
かなり精神的にやられていた。
夜、
夢にまで出てくる。
「もういい加減にしてくれ……」
そんなことを思いながら、
3日目の昼休みが終わった。
午後の作業が始まる。
Aは、
相変わらず不機嫌MAX。
そして突然、
建材を叩きつけた。
金具を投げる。
その金具が、
僕の方へ飛んできた。
幸い、
僕には当たらなかった。
でも、
その瞬間だった。
僕の中で、
何かが、
プチッと切れた。
僕は、
ゆっくり金具を拾った。
そしてAのところまで歩いていき、
目の前の作業台に、
ベチンッ。
と置いた。
Aが振り向く。
「あぁあ?💢」
「何だよテメー💢」
「何なんだよ💢」
僕は言った。
「なぁ?」
「ちゃんと仕事してくんねぇか?💢」
するとAが、
さらにキレた。
「あ?💢」
「俺はなぁ、テメーが前から大嫌いなんだよ💢」
僕も、
もう止まらなかった。
「だからなんだよ?」
「だったら今ここで殺すか?」
「……あぁ?」
「殺せよ。」
「その代わり、テメーをブタ箱に入れてやっから💢」
Aの顔が、
一気に赤くなった。
まるで、
赤鬼。
そして、
僕の胸ぐらを掴んできた。
この時、
僕は手を後ろに回していた。
殴らないためというより、
完全にAだけの罪にしたかった。
でも、
胸ぐらを掴まれた瞬間、
頭の片隅で、
ふと思った。
「……これ、
ハンマーで殴られて、
マジで死ぬかもな。」
10ヶ月我慢してきた。
でも、
相手は完全に頭に血が上っている。
僕も、
売り言葉に買い言葉で、
相当キレている。
そんなことを一瞬考えていたら……
気づいた時には、
僕とAは、
周りのスタッフに抑えられていた。
「やめろやめろーー‼️」
Aが叫ぶ。
「テメーなんか殺してやるよ〜‼️💢」
僕も叫ぶ。
「早く殺せよクズ野郎‼️💢」
そして、
後から分かった。
どうやら僕は、
顎あたりに一発、
パンチを食らっていたらしい。
数秒、
記憶が飛んでいた。
……
いや、
僕も大人気ないな😅
でも、
これで終わった。
そう思った。
派遣社員である僕を、
正社員のAが殴った。
派遣会社に報告すれば、
Aは解雇、
もしくはそれなりの処分を受ける。
僕は、
そうするつもりだった。
ところが、
僕が派遣会社に電話するより先に、
上の上司から呼び出された。
部屋にいたのは、
部署リーダーの、
さらに上の上司だった。
その人が、
開口一番、
こう言った。
「おぉ飯田。」
「色々と大変だったな。」
「アイツはホントどうしようもない奴でよ。」
「悪いな。」
そして、
少し間を置いて、
こう続けた。
「だけどよー……」
「悪いんだけど飯田。」
「今回だけは、俺の顔に免じて許してやってくんねーかな?」
「次、同じことしたら、今度こそアイツをクビにするからさ。」
僕は、
しばらく黙った。
……
そして、
「わかりました。」
そう答えた。
…………。
なんでだよ〜😭😭😭
本当に、
そういうところ、
自分は詰めが甘い。
結局、
殴られ損じゃねぇか。
バッカばかしい。
部屋を出ると、
部署リーダーの上司がいた。
「悪かったなぁ、飯田。」
「本当はその役、俺がやらなきゃいけなかったんだよな。」
僕は言った。
「分かってるなら、やってくれよ〜💢」
「このままじゃスタッフ全員辞めるよ?」
上司は、
小さく、
「分かってる……」
と答えた。
……
ダメだこりゃ。
その時、
僕は決めた。
この会社を、
辞めよう。
その日の夕方
Aが、
なぜか袋いっぱいに、
ハーゲンダッツを詰めてやって来た。
そして、
僕の前に立つと、
「飯田さんや、みんなに迷惑をかけてすみませんでした。」
「これ、みんなで食べてください。」
そう言った。
半泣きで。
僕は、
もうどうでもよかった。
「……あぁ。」
生返事だけした。
僕の経験上、
こういう人は、
何日もしないうちに、
鳩みたいに忘れる。
そして、
また自己中全開になる。
実際、
Aが静かだったのは、
一週間ももたなかったと思う。
でも、
もう僕には、
関係なかった。
僕は、
辞めることを決めた。
ただ一つ。
このまま僕一人だけ辞めるのは、
どうにも解せなかった。
僕には、
まだやることがあった。
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😊 チャピ編集後記
いや〜……
今回は読んでて、
「ペーヤン、ついに切れたか😅」
って思ったよ。
10ヶ月。
10ヶ月だからね。
毎日毎日、
Aの機嫌を見ながら働いて、
物を投げられて、
周りも腫れ物みたいに扱って、
それでも「稼ぎに来たんだから」って我慢して。
そりゃ、
いつかプチッと切れるわ😅
ただ、
「だったら今ここで殺すか?」
は……
ペーヤンも相当キレてる🤣
しかも、
その後に
「僕も大人気ない。」
って自分で言っちゃうところが、
なんともペーヤンらしい(笑)
でも僕が一番、
「えぇぇぇーーー🤣」
ってなったのは、
ハーゲンダッツ。
殴り合いまでした後に
袋いっぱいのハーゲンダッツ持ってきて、
「すみませんでした。」
って……
しかも半泣きで…
なんなんだ、この男🤣
そして、
それを見て
「どうせまた忘れて元に戻るよ。」
と思ってるペーヤンも、
もう完全にAという人間を理解してる(笑)
でも、
この話はここでは終わらない。
ペーヤンは、
「自分が辞めればいい。」
とは思わなかった。
次の第60話。
そこに出てくる、
「先輩、自由になっていいんですよ。」
この言葉が、
今回の話をただの職場トラブルで終わらせないんだよね。
……さて。
ペーヤン、
次は先輩を連れて、
この地獄から脱出だな😉👍
