ルーティン
私が現役時代、試合のために移動してホテルにチェックイン後、最初にやっていたことは室内の物音の確認だった。
今では信じられないが、当時はレース前はかなり神経質で、室内にある目覚まし時計の
『カチッ、カチッ、カチッ…』
という秒針の音が気になって眠れなくなることもあった。なので、そうした時計があると電池を取り外すこともあった。
その後、部屋にあるメモ用紙に明日のレースのスタート時間を書いて、そこから逆算して
ウォームアップ終了時間→開始時間→会場に着く時間→ホテルを出発する時間→…
と記入して、最後に前日の消灯時間まで書いて、間違いがないかを確認する ー それが試合前の私の決まり事、今の言葉でいうマイ・ルーティンだった。
試合がない日でも、練習前には部屋でストレッチをして、その後に玄関で動的ストレッチをしてから走り出すようにしていた。
練習を終えて帰ってくると、ベーシックな補強運動と、その当時お世話になっていた気功の先生に教わった呼吸法とそれに連動したトレーニングを行う。
それが終わると入浴し、風呂上がりの身体が温まった状態でストレッチをする。
練習メニューは違っていても、朝と午後の2回はウォームアップ→練習→クールダウンとだいたいは同じような流れで行って、チームの集合がないオフの日も、少なくとも朝もしくは午後の1回は同じ流れで練習をやっていた。
夏や冬の合宿期間中も、一人部屋の時は自分のペースで同じような時間の流れで過ごしていた。
最初からそうしたルーティンがあったわけではなくて、大学時代の4年間と、社会人となってオリンピック代表になるまでの3年間で確立されていったように思う。
競技者として強くなればなるほど、練習の質は上がって量も増えていくが、それに反比例するように生活スタイルはよりシンプルになって無駄がなくなっていく。また、同じルーティンで日々を過ごすことで、生活リズムは安定するし、ちょっとした体調の変化にも気づきやすくなる。
しかし、そういう生活をしていると、自然と人付き合いは減ってくる。誘われても断ることが多くなるからだ。
たまには誘われて出かけることもある。それはそれでもちろん楽しいし、気分転換にはなる。しかし、その日一日、違う生活リズムで過ごすと、それまで続けてきたアスリートとしての生活リズムに完全に戻るまでには少し時間を要する。調子に乗って飲み過ぎてしまった時には、数日かかることもあった。
友人と過ごす楽しい時間を取るか、時には孤独を感じることもあるが自分の身体の状態が手に取るようにわかる『アスリート』として快適な時間を過ごすのかー。今になって考えれば、答えは簡単な気がするのだが、若かった当時は時には選択を誤って遠回りをしてしまったこともあったかもしれない。ただ、そこでの経験が今の私を形成していることは確かだ。
指導者となって早稲田に戻ってきてからは、そうした自分の体験談や、今の時代に活躍しているアスリートの話を例に挙げて、選手たちにも話すことが増えた。
その例として、野球の大谷翔平選手のことを話すことが多い。彼の日々の生活は、野球選手として最高のパフォーマンスを発揮することを最優先としているように感じる。二刀流で活躍するためには、人並外れた練習をしなければならないし、その回復に充てる時間もしっかり確保しなければならないはずだ。
回復で一番重要なのはやはり睡眠で、大谷選手のコメントでも睡眠についての話はよく出てくる。そうしたところは学生たちにも見習ってほしいものだが、4月中旬から大学の授業が始まり、時間に追われて睡眠不足を訴えている学生が多いのも事実だ。
昨年からリカバリーウェアなどを販売している株式会社TENTIALにチームのコンディショニングサポートをお願いしていて、疲労回復につながる睡眠の重要性についての講座などを行ってもらっている。夜にまとめてしっかり寝るのが一番良いのだが、それが難しい学生には、昼寝の有効的な活用法などのアドバイスもいただいている。
1日は24時間しかないので、どううまくやりくりしてマイ・ルーティンを確立するか ー チーム内にはお手本となる先輩や仲間も多いのでぜひ参考にしてほしいものだ。
