【格闘漫画あるある】陰陽絶命最大トーナメント予選編【それ戦いに使う!?ってキャラが現れる雰囲気】(前編)
それはあのトーナメントが行われる一週間前に遡る。
どこから噂を聞きつけたのか、腕に覚えのある猛者達が想像以上に集まってしまったことにプロモーターの豊臣は頭を抱える。
ーーその数、リザーバーを除き32名!!ーー
「ふむ…ちと人数が多すぎるな…」
「御老公、どうされますか?」
「…こうなったら予選会じゃ!!!!」
ーー日本、日山スタジアムーー
『Rainbow Tears』と横断幕に書かれたコンサート会場は、女性の熱気と歓声で破裂しそうなほどに盛り上がる。
「キャー!!!!ジュライ様〜!!!」
「ジュライ様〜!!」
「こっち向いて〜」
ひときわ黄色い声援を多く浴びるセンターの見目麗しい銀髪の男は、会場の悲鳴が恐怖のものに変わったのをいち早く察知すると、空を飛ぶワイヤーを利用し、牛刀を持った暴漢の近くに降り立つ。
「なんだよ?アイドルの兄ちゃん。正義の味方気取り…っ!?」
ダンスのようなステップを踏んだと暴漢が認識するより早く男は距離を詰め、フィギアスケートのような流麗な回転蹴りで相手の意識を奪った。
「みなさん、こういう演出どうですかね?気に入ってくれました?では、最初の曲、『SUNSHINE』」
会場のボルテージはさらに上がっていく。
パーフェクトアイドル
七咲 聖月
ーーアメリカ、フロリダ州、エヴァーバレンタインスタジアムーー
桁外れの身体能力を誇るアメリカンフットボールの最高峰、NFLの中で一際異彩を放つ男がそこにいた。
2メートルの上背に同じくらいはあろうかという体重…デブではない、その全てが筋肉であるかのような体。
巨体からは想像もつかぬそのスピードとタックルのパワーで他の選手を吹き飛ばし、決勝のタッチダウンを決めると、応援席からクラッカーが飛び散る。
装甲車のような男はトロフィーを片手に豪快に笑いながら、インタビュー席に置かれた水を投げ捨てる。
「俺ァ成人してから酒とコーラ以外飲まねえんだよ!」
スタッフは慌ててコーラを持ち出すと、豪快にそれを飲み干し、インタビューに答える。
「なんでアメフトやってるか?くだらねぇ質問をするな。俺様がいるチームが必ず優勝する単純なスポーツだからだ!!」
モンスターフットボーラー
ラリー・ローディー
ーー日本、名古屋、戸村ボートスクールーー
ラリーのインタビューを中継していたテレビを消した老人は、シミだらけの顔に笑顔を作り、記者の女性に話し出す。
「わかるだろう?今のように何も考えないバカが金や力を得るからダメなんだ。」
「いや、ですが、彼はただのアメフト選手で「だから駄目だと言っとるんだ、本質を分かっていない。」
老人は新聞記事と、顔が腫れ上がった体格のいい男を連れ出し、まるで自分の成果のように誇らしげに言う。
「柔道日本一の彼はね、素行が悪すぎたんだ…私のところへ来るまではね。見ろ。ちゃんとやるんだ、ああいった大人になったらいかんと、暴力で分からせなければならんのだ」
記者はまるで話にならないと宿舎をあとにする。
鬼の暴力教師
戸村宏樹
ーースペイン、ラス・ヴァンタス闘牛場ーー
武器を使う闘牛場が廃れて数年、減り続ける客足に待ったをかける男がそこにいた。
貴族のように蓄えた凛々しい髭ときっちり分けられた頭髪
彼は伝統的な服に身を包み、カポーテを携えると闘牛場へ入っていく。
「イニエスタッッ!今回の闘牛は今までとは違う!剣を持て!闘牛界の至宝の君を殺したくない!!」
聞けば今回の牛は凄まじい暴れ牛らしく、マタドール達が次々と殺されているらしい。
彼はそれを笑って聞き流すと、闘牛場へ入っていく。
確かにこの牛はスピードも強さも桁違いだと感じる。
しかし、勝負はすぐについてしまった。
男はひらりと華麗に牛を躱すとまるでロデオでもするかのように牛に乗り、勢いを利用して転倒させた。
大きな歓声とともに闘牛場に薔薇の花が舞う。
「だから大丈夫だと言っただろう?至宝は輝きを失わない。スペインが私を望むのだからね。」
現代マタドールの至宝
フランシスコ・イニエスタ
ーー韓国、某所ーー
大雨が降るその場所に立っているのは白衣を着た長髪に眼鏡の医者と殺し屋らしき人物。
「奴の居場所を言え。整形をしたのはお前だろう?」
「知らないな…いや、医者としての守秘義務があるからね」
「わからねえか?これは問診じゃなく命令だ。言…」
殺し屋の首から血が吹き出す。
『何か』で切り刻まれた男たちの血の雨を避けるように傘をさして男はどこかへ去っていく。
死を呼ぶ邪悪な闇医者
リュウ・グンソク
ーーアメリカ、ロサンゼルスーー
「9999、10000!!」
これは習慣だろう。何度も何度も投球練習や素振りをしてしまう。
どれほど頑張っても自分を再び勧誘するチームなどないというのに。
スポーツマンらしい短髪から流れる乱暴に拭き取り、左腕に念入りに包帯を巻く。
男が眺めるのはとある新聞記事の切り抜き。
『報復死球を受けたマルク・ダウロン選手、死亡。乱闘に参加したダウロン選手の古くからの友人、ランディー・ボンズ選手が相手投手を殴打。死亡に至る。MLB史上最悪の乱闘。』
その日からか、自分の家には色々なイタズラがされるようになった。
ある日入っていたのはぐしゃぐしゃにされた格闘大会のチラシ。
理由は分からないが、男はそのチラシに『僅かな期待』を感じ、狭苦しい取り壊し予定の練習場を出た。
悲劇と慙悔の剛腕
ランディー・ボンズ
ーーインド、秘境ーー
木々のざわめきが止む。
痩せ細ったという言葉では到底追いつかないほどの体格をした老人が自然と一体になるかのようにヨガのポーズをとり、呼吸を整える。
修行者達、いや、ヨガがブームなのだろうか、見たことのない人々が同じようにポーズを取るが、再び吹き出した突風によりバランスを崩して倒れてしまった。
「老師、なぜあなたはその体制で立っていられるのですか?」
「心が自然と一体になっているからじゃ。」
インドに眠る仙人
ガネーシュ・ガンディー
これは、描かれることのなかった予選に現れた猛者たちの激闘の記録…
天空闘技場
続々と予選を勝ち抜いていく猛者達、そしていよいよ勝ち抜けは七人に絞られた。
「さあ!予選通過は誰の手に渡るのでしょうか!!残るは7人!!対戦カードをご紹介します!」
フランシスコ・イニエスタvsアレクセイ・クラウス
エドガー・ドラグノフvsリュウ・グンソク
戸村宏樹vsマルコス・ジョーンズJr.
是空翔vsガネーシュ・ガンディー
ランディー・ボンズvsゴルドー・アルバレス
七咲聖月vs柴田千冬
マリーガ・グラトドスvsラリー・ローディー
若い実況者の男の声を聞きながら楽しそうに笑う豊臣のスマホが鳴る。
本戦の実況者を名乗る男は、電話越しでも分かるほど焦った口調で話し始めた。
「ご、御老公、勘弁してくださいよ。いきなり予選会なんて…」
「ぶわっはっは!すまんのう。じゃが、おぬしの後輩も頑張ってくれておるぞ!」
「はぁ…」
「良いのじゃ、良いのじゃ。むしろ猛者達を先に見てしまっては楽しみが半減するじゃろう?勝った者達を楽しみにしておくのじゃ。」
豊臣は通話を切ると、次の対戦相手を楽しそうに眺める。
「大変長らくお待たせ致しました!!予選会最後の七試合です!!最初の対戦はまさに猛獣vs猛獣使い!!リングで暴れる黒豹を現代最高のマタドールは狩ることができるのかッッ!選手入場ですッ!」
「まずは青龍の方角ッッ!!吹き荒れる熱気の渦を薔薇の花束に変えるかのようなオーラを放つのはこの男!スペイン史上最高との呼び声が高いマタドール参上!!お聞きくださいこの歓声!闘いこそが人生!闘牛こそ最高峰と言わんばかりの声援だ〜!!身長:167cm、体重57kgフランシスコ・イニエスタ選手!!」
「続いて、白虎の方角ッッ!!キックボクシング世界王者!!その戦績、驚異の120勝0敗!!この男に黒星をつけることができる格闘家など存在するのか〜!?今宵、黒豹はこの地に解き放たれる!!身長195cm、体重102kgアレクセイ・クラウス選手!!」
対峙する二人の間に審判が入り、ボディチェックを行う。
「武器以外の使用を、一切認めます」
「始めッッッ!!」
二人は一瞬距離をとる。
「?」
アレクセイはイニエスタの動きに奇妙な違和感を感じ、ジリジリと近づいていく。
いかなる格闘家、いや、いかなるスポーツにも必ず構えというものが存在する。
しかし、この男はまるで気をつけでもするように棒立ちのまま攻撃を仕掛けてすらこないのだ。
「埒が明かん」
アレクセイはしびれを切らしたかのように走り出し、蹴りを連続で繰り出す。
ロー、ミドル、そしてコンパクトなパンチを織り交ぜた華麗な連打。
並大抵のキックボクサーであればすでに意識など消え失せてしまっているだろう。
それほどキレのある連打がイニエスタにはまるで当たらないのだ。
ふわふわと風に煽られた布のようにアレクセイの打撃は流され、軽々と避けられていく。
「な、何が起きているのでしょう!?あのアレクセイ選手の攻撃がまるで当たりません!まさに闘牛士!!暴れる黒豹を手玉に取っているぞ〜!!!」
「構えがねぇ?あれほどの脱力をするのにどれほどの鍛錬を積んでいるか聞きたいくらいだぜ…」
試合の様子を観戦していたマルコスは、柔らかく脱力し、足技を全てかわしていくイニエスタの動きを関心しながら呟く。
ーー闘牛士という職業柄、常に360°からの攻撃を躱せるように動かなければならない。さらに、布を構えることにより発生するのは『無明の世界』!すなわち、構えがない脱力した状態こそ闘牛士の『構え』!!ーー
「くっ!!」
『蹴りでは捉えきれないか…ならば!』
「凄まじいパンチのラッシュだ〜!!イニエスタ選手は躱し切れるのか〜!?」
『激しい攻撃だ…数多の闘牛よりもオランダの黒豹の方が遥かに手懐けるのが難しいな…』
イニエスタは最低限のジャブだけガードし、他の大技を全てひらひらと躱していく。
そして、アレクセイが振りかぶる瞬間を見計らい、足を一歩前に出す。
『そう来ると思ったぞ、闘牛士』
アレクセイはイニエスタの頭を掴み、とうとうその姿を捉える。
「なにっ!?」
「ついに!ついに黒豹の牙がマタドールを捕らえた〜!!さぁ、ここからどうするイニエスタ選手!!」
アレクセイは間髪入れずに顔面に膝蹴りを見舞う。
「グワッ!!」
イニエスタの鼻からは派手に血が噴き出し、体をひねって飛び退こうとするが、その膝の連打は止まらない。
「これはとんでもない男だな…」
「ああ、顔面つっーのは鍛えられねぇからよ。あんなの食らったら俺でも痛え」
「いや、そっちじゃない。ヤツはほとんどの蹴りを躱している」
「!?」
ラリーの言葉を否定したゴルドーは『ボクサー以上のスウェーだ…』と息を呑む。
『どういう動体視力だ!?野球選手でもあんなやつは居ないぞ!?』
ランディーはイニエスタの目の動きがアレクセイの蹴りを『追っている』事に戦慄し、思わず前のめりになり試合を観戦する。
ーーそれは20年前に遡るーー
フランシスコ・イニエスタ、当時10歳の彼が抱いていたのは『壮大な孤独』。
裕福な家庭に育った彼が強制されたのは『王』になるための勉学。
しかし、その才能は全て兄に奪われ、親はいつしかイニエスタを邪険に扱うようになった。
唯一の心の拠り所であった学校でも同じように彼は孤立した…
否、彼が学校で孤立したのはあまりに『遊び』に強かったのだ。
誰もが一度はやったであろう鬼ごっこ。イニエスタはその驚異的な反射神経と動体視力により、走って逃げることもせず一度たりとも捕まらなかった。
それが上位グループの者達の怒りを買い、再び彼は孤立した。
ある日、一人の男がイニエスタを訪ねてやってきた。
上位グループによる攻撃は暴力行為にまで発展していたが、その男は躱し続けるイニエスタをただただ眺めていた。
「噂通りだな。」
「見ているなら助けてくれ、状況わかるだろ?」
「なぜだ?君を助ける必要などないはずだ。その動体視力、反射神経、いつでもこんな奴らなら殺せるじゃないか。」
「殴ったらダメだと家族に言われている」
「ハハハハハ!それもそうだな。『殴ったらダメ』か。すまないすまない!」
男は高笑いをすると、レイピアのようなものを取り出し、上位グループのリーダー格に振り上げる、上位グループが恐れをなして逃げ去ると、男は名刺をイニエスタに手渡した。
「スペイン…マタドール協会会長…ニコラス・カシージャス…」
「君のその才能、闘牛士に向いていると思うがね、まぁ今回は挨拶だけだ。気が向いたら来てみてくれ。」
退屈と孤独を持て余していたイニエスタはニコラスの誘いに乗り、闘牛を観戦に行った。
全身の毛穴が逆立つ。
熱狂、歓声、そして称賛。全て自分がなくしたものがここにあったのだ。
イニエスタはすぐにニコラスに声をかけ、闘牛士になった。
連戦連勝。彼はいつしか『現代マタドールの至宝』と呼ばれるようになっていた。
ーーそしてイニエスタは感じる、今この瞬間こそが、自身と対等に戦える強者との『遅すぎた青春』であると!!ーー
『この距離で膝が当たらないのは初めての経験だ…』
「ぼちぼち反撃させてもらうぞ、黒豹よ。」
『反撃!?この状況で?いや、』
アレクセイは攻撃手段を変え、組みながらの打撃に移行する。
しかし、その拳が届くより先に、その喉に深々とイニエスタの肘が刺さった。
その一撃は闘牛士が牛を仕留めんばかりの威力が込められ、アレクセイは思わず腕の拘束を解く。
「かはっ…」
「な、なんと肘打ちです!!闘牛士が肘打ちだー!!」
「そう来たか…」
ガネーシュはまるでわかっていたかのようにしみじみと頷く。
「私は剣を使う事が生業の仕事でね。悪いがこのまま終わらせてもらうよ」
「れ、レイピアだ!まるでレイピアのような肘打ちのラッシュ!アレクセイ選手たまらずダウーン」
「悪いがここからは私に付き合ってもらう。君のダウンを待っていた。」
イニエスタはアレクセイの体を掴み、服を利用し、起き上がろうとする彼を乗りこなす。
「まるでロデオです!闘牛士は黒豹をも乗りこなしてしまうのか〜?」
イニエスタは服でアレクセイの首を絞めながら執拗に肘打ちをしかける。
「ぐっ!くっ…!!」
『このままではマズイな…何か方法は…』
アレクセイは咄嗟にクリンチを解くように動き、その状態を回避すると同時に、驚異的な速さのカーフキックを連打し、イニエスタに膝をつかせた。
「こういう脚技は牛には無いだろう。」
「やるね、だが…片脚だけでも躱せることは躱…っ」
ーーこんな試合を観たことはないだろうか、それはとあるK-1の試合に遡る。その男はゴングとともに飛び出し、相手を『秒殺』したッッ!!その技こそが…『飛び膝蹴り』である!!ーー
『な、なんだその速さ…は…』
カーフキックによる激痛で躱すことができなかったイニエスタの顎に飛び膝蹴りが直撃し、白目を剥いて倒れる。
砕けた歯がアレクセイに飛び散るが、お構い無しに走り込み、拳を振りかぶる。
『もう一発…!』
アレクセイの追撃を審判が静止し、声を上げる。
「勝負ありッッ!!」
「な、なんと大逆転です!闘牛士に捕まったと思っていたアレクセイ選手がクリンチを解くような動きで解縛し、そこからのカーフ、そして流れるような飛び膝蹴りが決まりました!!アレクセイ選手、予選突破!!」
フランシスコ・イニエスタvsアレクセイ・クラウス
勝者
アレクセイ・クラウス
決まり手:飛び膝蹴り
フランシスコ・イニエスタは控室で目を覚ます。
砕けた歯、立ち昇る激痛。
初めて経験する『敗北』とそれを倒した好敵手。
「大したものだ。キックボクシングであの攻撃が避けられたことは一度もなかった」
「はは…敗者にも優しいんだな君は。」
「敗者?あれほど蹴りを避けられてしまったんだ…我ながらとんでもない塩試合さ。再戦はいつでも受け入れるよ」
「ああ、またいつかやろうじゃないか」
「それに、闘牛というのにも興味が湧いた。ぜひ一度観に行きたい」
「ああ、大歓迎だ。」
二人は固く握手を交わす。
ーーフランシスコ・イニエスタ、その遅すぎる青春、ここに完結ッッ!!ーー
「さぁ!!残るは6人となりました!!続いての対戦カードをくじ引きで決めていきましょう!!」
「決まりました!!続いての対戦はこの二人ッッ!!」
「まずは青龍の方角ッッ!!その巨体、まさに不沈艦!その出で立ち、まさに怪物!!全ての祖はスパルタにあり!!今大会最大の戦士が雄叫びを上げて登場だ〜!!身長215cm、 体重230kgマリーガ・グラトドス選手!!」
「続いて、白虎の方角ッッ!!俺のしているのはくだらない球技などではない!ボクシング?空手?いや、この世界で最も危険なのは俺達が暴れまわる100ヤードのフィールドだ!!!その男はNFLの数多の有力選手を後遺症により引退に追い込んだ!!今宵も相手を再起不能という棺桶に送り込むのか!?身長200cm、体重200kg、40ヤード走4秒2!ベンチプレス300kg!史上最強のフットボーラー!!ラリー・ローディー!!!」
「武器以外の使用を一切認めます」
巨体同士のボディチェックをこなし、審判はいつも通りの言葉を言う。
それを聞き返したのはラリー。
「武器の使用ができねえなら俺は棄権するぜ」
「な、なんということでしょう!!ラリー選手からまさかの棄権宣言だ〜!!」
審判の男は困惑した様子で冷や汗を拭い、ラリーに視線を移す。
「俺の体は全身凶器。武器を使っちゃダメなら俺は棄権するしかねぇなぁ?後日新聞にでも書いとけよ。全身凶器の男以外で大会をしたってな!!ガハハハ!」
「おい、スポーツマン。棄権する必要はねぇぜ!なぜならお前ごときの武器なんざ、スパルタの前ではガキが習得してるからな!」
「おもしれぇ…」
二人は再び睨み合い、審判がその間に入る。
改めてボディチェックをし、二人にアイコンタクトを送る。
「始めッッ!!」
「ウオオオオオ!!」
「Set Hut…」
先に突っ込んだのはマリーガ。振り上げた拳を力任せに思い切り振り下ろすが、アメフトの基本姿勢をしているラリーは、その体勢が低い状態でタックルのためのスタートダッシュを切る。
「Hut!!」
「ぐぅ!」
マリーガの拳が止まるほどのタックルをかまし、ずるずると引きずっていく。
『なんてタックルだこの野郎…速えし痛え…だが!』
「くっ!!」
『この状態で俺と拮抗するだと!?』
「体勢を立て直したマリーガ選手がタックルを止めた〜!!がっぷり四つ!!がっぷり四つです!!見事なまでの硬直状態だ〜!!」
「ガハハハ!!サイズもパワーも俺様に近いじゃねぇか!だがな、お前は『地面』の力を使えてねぇ!」
マリーガが更に力を込めると、ラリーの体は膝から折れていき、遂に仰向けに転倒してしまった。
「な、なんということでしょう!!史上最強のアメフト選手、ラリー・ローディーがまさかの青天だ〜!!!」
ーー青天。完全に力負けしたアメフト選手が仰向けに倒されること!!それはアメフトのラインマンにとって、いや、アメフト選手にとって最大の屈辱!!ラリー・ローディーとって、一生ないだろうと思っていた非常事態!!ーー
「このまま追撃するぜ!」
マリーガの巨大な脚が、ラリーの顔面を思い切り踏み潰す。
「うぶっ!!」
『青天もされて顔面もへし折られちまった。このままやられるわけにはいかねえ』
鼻の折れた鈍い音が鳴り響く中、決着をつけようとラリーを押し潰すため、両足を揃えて飛び上がった。
「?」
マリーガが感じたのはまるで手応えのない謎の感覚。
「おいおい…」
足払いのようなものをされたのは分かった。しかし、飛び上がった体はもう止まらない。
マリーガはすぐに足払いに対応し、エルボードロップに変えたはずだったのだ。
自身の身体をベンチプレスのように持ち上げられていなければ。
「ラリー選手!マリーガ選手を持ち上げています!まるでバーベルのように上げている〜!!」
ーーラリー・ローディーの記録は全て『誤表記』である。
いや、誤表記になってしまったと言うべきだろうか。
酒と不健康な食べ物による痛風。その日のラリーは絶不調だった。触れるだけで飛び上がるほどの痛みをこらえながら出した記録。それこそがラリーの公式記録となっている。そして、チームの監督が興味本位で録った記録こそ、ラリーの本当の記録!そのどれもがNFLの最高記録を更新!そのベンチプレス、驚異の600kg!!ーー
「持ち上げられたなら…」
「BOMBER!!!!」
「がっ…は」
「出ました!ラリー選手の代名詞!!『BOMBERバンプ』が炸裂〜!!」
振りほどくために足を振りかぶったマリーガの巨体を力任せに振り落とし、立ち上がった瞬間のがら空きになった心臓部に思い切り突きを放つ。
マリーガは一瞬息が止まったかのように錯覚し、激しく咳き込んだ。
「休ませねえぞ!!クォーターバックサックって知ってるか?」
「ぐおおおおお!!」
『俺の体を吹っ飛ばしやがった!?なんなんだこの怪物は?』
ラリーの弾丸のようなタックルがマリーガの巨体を交通事故にでも遭ったかのように吹き飛ばした。
「な、なんて速さ!なんて強さだ〜!!これこそがNFL最強の男!ラリー・ローディー!!」
「あんなの食らったらひとたまりもないな…」
「私なら回避に徹するが…おっと、隣いいかね?」
「ああ。その顎のギプス、話しづらくないかい?」
「はは。当分固いものは食べられそうにないな。それより…」
「あのタックル、君ならどう対処する?って聞きに来たんだろう?」
「さすがだ。私ならこうするがね」
アレクセイとの戦いでやってみせたようにイニエスタはその身をひらりと躱してみせる。
「俺ももちろんカーフ…いや、カウンターの顔面前蹴りもありかもしれないな…」
「フッ」
「ははは」
「「ハハハハハハ!!」」
先の戦いを終えたアレクセイの横にイニエスタが現れ、二人の戦いに自身の意見を出し合う。
そして、顔を見合わせて笑うと真顔に戻り、ラリーのタックルに向き直る。
「こんなものは机上の空論だな」
「ああ、あのスピードとパワー。もはや人間じゃない。」
『ふん。気に入らん。粗野な馬鹿者を鍛えたらこうなるといういい例だ。だが…相手はどう対処する?』
二人のやり取りから少し離れたところで戸村もラリーのタックルを毒を吐きながらも評価する。
「もう一ぱ…」
ラリーはマリーガがお返しとばかりに放ってきたタックルを、間一髪で躱しながら袖を引っ張りバランスを崩すと半身の状態から腕を伸ばし、マリーガの体に向けてパンチのように放つ。
「こ、これはスピアタックルです!漫画でしか見たことがない必殺のタックルが…ん?」
実況は肋骨を抑えて悶絶するラリーを見て目を疑う。
明らかにラリーがマリーガを攻撃していたはずだったのだ。
『あの巨体でそんなに飛ぶなんて…怖いなぁ…身が軽いというか…』
聖月はマリーガがバランスを崩すと同時にその体を逆に宙に浮かせ、ラリーの肋骨に飛び蹴りを放ったのをその目で追っていた。
「おいおい、半身で動くなんてのは俺達スパルタじゃ義務教育だぜ?」
「〜ッッ!!」
「さすがにタフだな…立ち上がりやがるか。だがな、スポーツマン!!お前らが使ってこなかった力を見せてやるぜ。」
「あぁ?」
「それはこの大地そのものの力、地球という名の固さだ!!」
振り降ろされた拳に対し、ラリーが選んだのはキャッチ。
ーーラリー・ローディのNFLでのポジションはタイトエンド!!そのポジションは時にすべてを守る壁となり、時にすべてのパスを受け取る攻撃の起点となる!!速いパス、咄嗟に投げられたひどいパス、そして殺す気で投げられるような鋭いパス。その全てをいなし、勢いを殺し、無茶な体勢、無茶な体の状態で受け止めなければならない!!ラリー・ローディのキャッチ成功率、驚異の100%!!ーー
ーー否!!その小さな小さな楕円球では、四十六億年の重みに耐えるにはあまりに矮小!!ーー
「へっ…お前がMVP…だ…ぜ…」
ラリーのキャッチを貫通したマリーガの一撃はついに彼を吹き飛ばし、意識を奪い去った。
「勝負ありッッ!!」
勝者
マリーガ・グラトドス
決まり手:巨神地球拳
控室
「へっ!世界にゃすげー野郎がたくさんいるぜ!!こりゃ俺ももっと強くならねえとな!!おい!マネージャー!スカウトを呼んでこい!!アイツを敵チームに勧誘するぞ!いつでも戦えるぜ!」
「そ、そんな無茶な…」
セコンドだったマネージャーらしき男に強引にスカウトを呼ぶように頼み、激痛をものともせずラリーは嬉しそうに酒を飲み干した。
ーーラリー・ローディー、その生涯のライバルに会合ッッ!!ーー
「さぁ!続いての「「「「「キャーッ!!!!」」」」」
実況の声は観客席にいる女性達の黄色い声援にかき消され聞こえなくなる。
妙に多かった女性客はこのために来たのだろう。
部下は豊臣に何か耳打ちする。
「ふむ…『Rainbow Tears』のファンがチケットを買い占めてしまったと…」
「それだけじゃありません!!女性客の失神者が続出してます!試合を中断しますか?」
「いや、試合は続行する!!観客を運びつつ試合を進めるのじゃ!」
「はっ!!」
「では…気を取り直して「「「「レッツゴー千・冬!!!!千冬〜!千冬〜!ち・ふ・ゆ!!!」」」」
黄色い声援をかき消したのは柴田千冬率いる暴走族、鬼滅羅の怒号に近い応援。
その声再び実況はかき消され、ついに豊臣より選手入場についての巻きの指示が入る。
「まずは青龍の方角ッッ!!いったいなぜ参加してくれたんだ!?大人気男性アイドルグループ『Rainbow Tears』の不動のセンターの登場だ!!しかし、侮るなかれ、一日署長を務めた日に起きた銀行強盗を彼が逮捕したという凄まじい実績の持ち主!まさに『完璧で究極のアイドル』身長190cm、体重57kg、プリンス・オブ・アイドル!七咲聖月選手!!」
「続いて白虎の方角ッッ!!この二人の戦いなど誰が予想したでしょう!!道を開けろとばかりに北関東最大の暴走族鬼滅羅二代目総長のお出ましだ〜ッッ!!身長180cm体重70kg!!柴田千冬選手!!」
千冬は不良らしく早速聖月に詰め寄り、激しく睨みつける。
「お前テレビで見たことあっぞ。墨汁バズーカごときで倒れるようなやつが喧嘩できんのか?」
「見てくれたのかい?嬉しいな。でもあれは一部台本だったりもするからね」
リーゼントが顔に当たるのをものともせず、爽やかに笑う聖月に更に苛立った千冬は、ついに審判の警告によりその体を離す。
「武器以外の使用を一切認める」
「初めッッ!!」
「ウオラッ!!!」
千冬の素人のような蹴りに聖月は優しく足を乗せ、そこを踏み台のようにし、思い切りバク転しながらその顎に蹴りを見舞う。
「ば、バク転!?なんて華麗な戦い方でしょう!!千冬選手思わず膝をついた〜!!」
「ながながやるな…オメェ…っ!」
振り回すようなパンチを社交ダンスのような形で受け止めると、フィギュアスケートで女性を回転させるように遠心力でぐるりと回し、頭から叩き落とす。
「ちょこまかするんじゃねぇ!!」
「まるで素人だな…教えてあげるよ。ダンスは萬の格闘技に通づるってことをね。」
千冬が立ち上がり反撃するのを見計らい、ロボットダンスのような要領で体を思い切り反らし、本来出せない角度から喉に思い切りアッパーを食らわせる。
「な、なんだ〜!?ロボットダンスのように仰け反った聖月選手の腕がありえない角度から千冬選手の喉を潰した〜!!」
『勝負ありか…喉に当たる攻撃は素人では回復は不可能…それにあれは直撃…』
『あの深さ、角度。呼吸もおぼつかない…ククッ…相当狡猾だな…あの優男…』
アレクセイが格闘家らしく冷静に分析をしている少し離れたところでリュウはカルテのようなものを取り出し、戦いのダメージを書き記していく。
「やるな、優男…」
「な、なんと立ち上がりました!!しかしその声は苦しそうだ!!これはK.O.寸前か〜!?」
「はぁ…すごいよ君…あまり苦しまないように本気で当てたつもりだったんだけど…その根性は認める。でも、君のようにただただ走って遊んでいるだけじゃアイドルなんてできない。」
聖月はその長い足で、千冬の足に絡みつき、足首を折った。
「72時間踊り続けたことはあるかい?」
「オルァッ!!」
同じようなパターンで攻撃を仕掛ける千冬に再び同じ角度からアッパーを放つ。
「喧嘩に必要なもの、な〜んだ?」
「!?」
ーー聖月は思わず驚愕する、柴田千冬が覆いかぶさるように差し出したのは『喉』!!ーー
「ガハハ!そりゃ最適解だ!!見上げた根性だぜあの不良の兄ちゃん!!」
ラリーはマリーガと酒を酌み交わしながらNFLに勧誘しつつ、試合を見て笑う。
「ぐうっ」
拳が出切る前に全体重が乗った『カウンターを食らった』形になった聖月の拳が折れ、庇うように頭を下げてしまう。
「ようやくツラ出しだな、オメェ」
「ぶあっ!!」
不良の代名詞ともいえるサッカーボールキックがアイドルの代名詞ともいえる美しい顔面を思い切り蹴り上げ、鼻血を吹き出させる。
ファン達の絶叫にも近い悲鳴が上がる中、ひん曲がった鼻を指で治し、膝立ちになる。
しかし、まるで不良漫画のように飛んできた蹴りが聖月の肋骨に当たり再び蹲ると、リンチを受けるかのような乱打を浴びる
ーーその様子を見ていた猪苗代康太氏(19)は次のように語っているーー
「彼女に連れられて来てみたら推しのアイドルが格闘大会出てるんですよ!?いや〜時代は変わりましたね〜」
「え?聖月ファンかって?嫌だな。僕は違いますよ〜。むしろ心配でしたね。なんたって相手は…」
「その…僕…中学運動部で、喧嘩もそれなりに強かったから、何を勘違いしたのか高校の時にヤンキーになろうとしたことがあって…恥ずかしいんですけど…」
「あ、でも一日でやめちゃいました。なんでって?そりゃやめますよ。柴田千冬のケンカを見たら。」
聖月は柔術のように足を絡め、千冬のバランスを崩させると、一定の距離を取ろうとするが、すかさず経度の骨折になったであろう足で思い切り顔面に蹴りが飛ぶ。
聖月の耳に骨の折れた音がする。これは自分の顔面からではなく千冬の足から聞こえるのが分かる。
千冬はさらに複雑に折れ、立てなくなりかけた足に『気合』を入れ、にこやかに笑う。
「72時間のダンス?ほいだらオメェ、750ccのバイクに轢かれたことあるか?」
「バイクですよ!?バイク!自転車じゃあるまいし。」
聖月は、千冬から距離を取り、観客席を背にして壁に手を置く。
「追い詰められてしまった〜!!!ダメージは千冬選手が多い気がしますが…これは聖月選手がピン…え?」
ーーその日の戦いをセコンドとして観戦していた『業熱大陸』のスタッフは次のように語っているーー
「特集を組む関係で『Rainbow Tears』のメンバーと共にセコンドにいたんですよ。いや、格闘技なんてやったことないですけど…ン〜…私たちが見たのって現実だったんだなって思いましたね。」
「え?何の話かって?そうですね…あれは…2年前だったかな?」
ーーそれは、とあるバラエティ番組の収録。この番組は総合演出のマッコリ齋藤が毎回無茶苦茶なお題をアイドルや俳優にやらせることで怪我人も多く、お蔵入りも大量だが、人気のバラエティ番組での事ーー
その日の企画は『売れっ子アイドルなら史上最高と称されるサーカス団体のの演目死ぬ気でやり切る説』という無茶苦茶なものだった。
そして、出されたお題もまた人権を無視したかのような企画だった。
細い綱渡り用の綱の上で自分らの曲を踊ってみせるという『できもしない』もの。
「さすがに…ハイ…いや、当時ADだった俺はマッコリさんに文句なんか言えなかったですけど…これにはドン引きしましたね…」
「え?番組ですか?お蔵入りですよお蔵入り。」
「いや、その何というか…怪我関連のお蔵入りじゃなくてですね…」
ーーさらに、当時の総合演出、マッコリ齋藤は次のように語っているーー
「ああ、ダメダメ!あんなの放送できねえよ。だって放送しちまったら、サーカス団の面目丸潰れだからな。七咲聖月、こいつはバケモンだよ…綱に軽々乗ったらまるで空中歩いてるみてぇにホイホイ踊りやがる。しかも難しいアレンジしてな。」
「そん時思ったね、アイツは『空を歩けるんだ』って」
聖月はまるで翼が生えたかのように客席に飛び上がり、重力がないかのようにふわりと千冬に向かってジャンプする。
「な、なんということでしょう!?聖月選手が、う、浮いた!?」
聖月は空中でくるりと縦に回転し、千冬の頭に踵落としを放つ。
「ぐあっ!」
「ど、胴回し回転蹴りです!!なんて滞空時間でしょう!まるで空を歩いているぞ〜!!」
聖月はそのまま驚異的な体幹で千冬の体を踏み台のようにし、何度も何度も空中で蹴りを見舞う。
『や、やべえ…降りてこねえと反撃がでぎねえ…』
やけくそで放ったパンチは聖月の踏み台にされ、四回転ジャンプのように激しく回転した回し蹴りを思い切り顔面に浴び、骨折も相まって立つのもやっとだった千冬の体がついに地面に倒れ伏す。
「君はとんでもない根性だからね。それごと折らせてもらうよ」
倒れた千冬の頭をステージにするかのように激しくタップダンスのような動きをし、ギブアップをするまで、いや、意識を奪い去るまで激しく踏みつける。
「ステップ!ステップ!ステップ!これは勝負ありか〜!!千冬選手の頭がまるでコンサートのステージのように激しく踏みつけられている〜!!」
「野郎ォ…」
ーー野生の勘。それは不良の喧嘩において必要な一つの要素。そしてその『野生』は千冬の直感をプッシュしたッッ!!ーー
千冬が掴んだのはガラ空きになった体に纏われた『特攻服』。
引きちぎるようにそれを脱ぐと、聖月の足と自身の頭の間にスライドさせ、テーブルクロス引きのように引っ張り、一瞬の間を開け、攻撃から逃れた。
さらに距離を取られる前に特攻服を投げつけ、聖月がそれを払ったのを隙と見て金的を蹴り上げダウンを奪うと泥臭くマウントポジションを取り、滅茶苦茶に殴りつける。
「ま、まずい…」
聖月はダンスのターンの要領で体を翻そうとするが、それすら叶わずひたすらに顔面を殴られ続ける。
『防御…』
「さぜねぇ…」
聖月の腕のガードを払い除け、さらに殴打を続ける。
指の骨が折れたのがわかる。それでも千冬はその拳を止めなかった。
ーー不良は知っている!マウントポジションになれば勝てることを!そしてこの状態を覆せないようにどう動けばいいかを!!その本能で知っている!ーー
「し、勝負あり!」
審判の声は千冬の連打にかき消される。
「勝負ありだッッ!!」
とうとう審判が割って入り、千冬の拳が止まる。
あらぬ形にひん曲がった指から流れる血は、もはや聖月のものか千冬のものかわからない。
ひどく痛む手を力強く握り天に掲げると、ブーイングをかき消すほどの鬼滅羅の大歓声が会場を包んだ。
勝者
柴田千冬
決まり手:マウントポジション
控室
すっかり腫れ上がってしまった顔を冷やしながら、専属の医師に体調を見てもらう聖月は、「ファンに申し訳ないな」と呟く。
「根性あんな、オメェ。」
同じくらい腫れ上がった顔と両腕と片脚にギプスを痛々しく巻き付け、ヨロヨロとした動きで聖月に近づき、笑いかける。
「君には負けたよ…そんなにボロボロになっても勝ちを拾うなんて本当に尊敬する。」
「へっ!オメェこそ、アイドルなんか勿体ねえ、俺のチームに来るか?」
「はは、遠慮しておくよ、僕には待ってるファンもいるからさ」
「そのコンサート、俺達が守っでやろうか?」
「そっちも遠慮しておくよ」
ーー不良とアイドル
交わり難き二人が拳で交わした友情
ここに成立ッッ!ーー
「さぁ続いての試合は異色中の異色!!格闘家VS教師、いや、悪童VS教師と言うべきでしょうか?」
「まずは青龍の方角ッッ!!暴力じゃない、俺がしているのは教育だ!!この男の拳は更生へ導く善行か?はたまた人を恐怖で抑え込む悪行か?その握った拳に何思う?戸村ボートスクール校長が予選に参加してくれた〜!!御年66歳!俺の体罰は衰えていない!身長177cm、体重71kg、戸村宏樹校長だ!!」
「続いて、白虎の方角ッッ!!更生?そんなものはこの男の辞書には存在しない!UWK史上最悪の悪童は今回も最高のショーを見せつけるのか〜!!身長186cm、体重91kg!マルコス・ジョーンズJr.!!」
マルコスは審判がこちらに来る前に、ずいずいと戸村の前へ近づき、嘲笑うように睨みつけ、言う。
「お前さんがモンキーの教育者か?度が過ぎた芸の仕込みで何匹か屠殺しちまったんだってな?人間相手にも芸は仕込めるのかい?」
「お前のようなやつが、一番ダメな人種だと言っとるんだ」
「へっ、ダメなら黙らしてみろよ。お得意の『体罰』で」
「対戦前に両者の火花が激しく散る〜!!」
「離れて」
今にも殺し合いそうな二人を引き剥がし、審判の男がボディチェックに入る。
「武器以外の使用を一切認めます」
「始めッッ!!」
先に動いたのはマルコスだった。小手調べのジャブの乱打をきっちりガードし、繰り出されるのは大振りのビンタ。
『ビンタだぁ…?それも素人丸出しの大振り…こりゃ殴ってくださいって言ってるようなもんだぜ。』
マルコスは一直線にカウンターのストレートを打ち込み、よろけた戸村の脇腹に蹴りを撃ち込むと、流れるように関節技へ移行する。
「逆らうな!」
「き、効いていないのか戸村選手!?マルコス選手のホールドを軽々解いたぞ〜!!」
「へっ。暴力教師はタフだな。だが、こいつはどうかな。」
「ゔぐッ!!」
戸村は大振りのビンタに合わせられた顔面付近のカウンターに激痛を受けたような声を上げる。
顔を上げるとその目からはおびただしい血が流れていた。
「サミングか…」
「失礼、貴方はボクシングのゴルドー氏。今の技について解説を願いたい。」
アレクセイと座り、観戦していたイニエスタは専門家に話を促す。
「殴る際に親指を突き立てて目に突き刺す技だ。ひどいと失明しかねない」
「確かに、あれ、『反則』じゃなかった?」
そう、サミングはボクシングにおいて最悪の反則技、しかもマルコスがしているのはUWKの指ぬきグローブだ。
つまり、戸村の目を直に突いたということになる。
「いや、そもそもあんな危険な技、使う必要があるか?失礼、気になるんで話に混ざらせてもらうが…あの戸村という男…体型も拳も何もかもが『並』だ。喧嘩慣れしている千冬くんよりも遥かに…」
ーープロ野球選手だった男の言う通り、『経験』は何ものにも変えがたい『ギフト』である!プロの格闘家と素人の喧嘩自慢では、『構え』、『スタンス』、『打撃速度』などあらゆるものに差が出る。作者も、中学の時にバドミントン部に所属していたが、ただの運動自慢には負けないほどの『経験則の差』がそこにはあった。ーー
「いーや…あのオッサンの強さはそんな弱ぐねぇ。」
ランディーの解説に『言われてみれば…』と全員が納得し再び観戦に戻ろうとするが、聖月に肩を借りながら横に座る千冬の声に全員が注目する。
「ここは、『そっちの専門家』に話を聞くべきかな。」
「あのオッサンが強くなるのはここからだ。これから出でぐる、ある『理論』が強さを跳ね上げてんだ。見でみろ。あれでハンパなヤンキーは恐怖すんだ。」
戸村はマルコスの滅多打ちを亀のようにガードし、軽いジャブのようなパンチを当てて距離を取ると、貫かれた片目を自らの指で再び貫いた。
「な、何をしているんだ戸村選手〜!!!自分で自分の目を貫いた〜!!」
「苦行なくして成功なし!痛みなくして成長なし!!」
再びの大振りのビンタ。
しかしその威力とスピードは跳ね上がりマルコスのガードを跳ね上げる。
『なんだ?威力が上がりやがった!?やべぇっ!』
握られた拳を躱そうと動いた体をガッチリとホールドされ、柔道の要領で背負投げを放つ。
とても玄人の投げではないそれに対し、マルコスは受け身を取って反撃に転じるが、脇腹に蹴りを入れられ、思わず悶絶する。
「くっ…野郎」
「さっきも言っただろう。『逆らうな』!」
馬乗りになった戸村はマルコスの首を締め付け、ビンタを放つ。
「お前のその思想が治るまで、叩き続けてやる。」
「調子に乗るんじゃねぇ!」
戸村の攻撃を払い除け自身の得意な形に持っていくと、そのまま関節技を決め、腕を折る体勢に移行する。
「このまま折らせてもらうぜ」
「黙れ。」
戸村は自らの関節を激痛を堪えながら外し、マルコスの技から抜けると、さらに増した力でのど輪をかける。
「これが『脳根論』というやつだ」
「なるほど…仏教に根付いた苦行を踏襲した理論じゃな…それが正しいかはわからんが…」
ーー『脳根論』、それは戸村宏樹が作り上げた仏教の苦行をもとにした理論!それは体罰による痛みを耐えた人間の力は数倍にも数千倍にも跳ね上がり、病気も治してしまうというもの!!!世間はこれをトンデモ理論、トンデモ教育とし、大いに戸村を叩いた。そのバッシングは戸村ボートスクールでの体罰死によりさらに跳ね上がった!!ーー
連日連夜のバッシング、世間の罵倒と逮捕、それでも戸村は信じ続けた。『己の教育こそ今の日本に必要である』と!
後を絶たぬ非行少年の事件、それを改善するのは自分しかいないのだと!!
『ボートから海に落として何が悪い!』『悪を正して何が悪い!』そうして戸村は刑務所の中で、『とある境地』に辿り着く。
ーーそれは!戸村宏樹自身に体罰を行い続けるという常軌を逸した人体実験により、脳根論を完成に至らせるというもの!ーー
『ガンガン威力もスピードも上がってきやがる…それなら…』
マルコスが選択したのは膝関節への蹴り。関節が逆側に曲がってしまう『反則』の足技。
しかし、戸村の正拳突きはもはやマルコスの打撃の威力も速度も遥かに凌駕していた。
意識が吹き飛びそうな一撃が顔面に直撃する。
「さらに威力が増した強烈な一撃〜!!己の魂を乗せたかのような正拳突きだ〜!!強いぞ『脳根論』!強いぞ『暴力教師』!!」
『かかったな!本命は…』
「!?」
「マルコス選手!戸村選手の渾身のパンチを食らいながら背後に回った〜!!」
歯が砕けるほど食いしばり、一撃を耐えたマルコスは戸村の首に絡みつき、背後から裸締めの体勢に入る。
「ぐ…ぐっ…」
「コイツは外せねぇ…アンタ、正直すぎんだよ。その教育論に『フェイント』も書き足しときな!」
砕けた歯を血とともに地面に吐き捨て、ギリギリと強く締め上げる。
戸村は自らを殴り力の増幅を図るが、締め上げられた首による酸素不足により、『体罰』になるほどの痛みにはならなかった。
ーー脳根論、不発ーー
「こ、このままでは…済まさ…ん」
ついに戸村は白目を剥き、気絶する。
「勝負ありッッ!!」
勝者
マルコス・ジョーンズJr.
決まり手:裸締め
控室
「あら♡勝ってきた…え!?」
「わりいな、少し休むぜ」
マルコスの体にあったのは夥しい数の痣。
格闘技の最高峰であるUWKのチャンピオンですら、自身を溺愛する女性の事すら相手に出来ないほどの激痛。
暴力教師たるその拳、体罰におけるその矜持をマルコスはその体で痛感する。
「へっ、だがよ。『生物的に』俺の勝ちだ。」
ーー暴力教師の拳、痛感ッッ!!
しかし、『悪童』、いまだ衰えず!!ーー
「さて!残り三試合はしばしの休息を挟んでから再会いたします!!」
陰陽絶命最大トーナメント予選編(前編)
ーー完ーー

