CHIPS法とは?半導体補助金の仕組みと日本への影響をわかりやすく解説
CHIPS法(チップス法)とは、2022年8月にアメリカで成立した半導体産業支援法のことです。正式名称は「CHIPS and Science Act(チップス・アンド・サイエンス・アクト)」。総額約2,800億ドル(約42兆円)という空前の規模で、米国内での半導体製造を復活させることを目的としています。TSMCは最大66億ドル、Intelは最大78.6億ドルの補助金を確定。2026年3月時点で5,400億ドル超の民間投資を誘発し、世界の半導体地図を塗り替えつつあります。この記事では、CHIPS法の仕組み・進捗・投資家への影響をわかりやすく解説します。
半導体ニュースをやさしく届けるチップくんだよ。今日は「CHIPS法」について一緒に整理してみよう。

CHIPS法ってどんな法律?
CHIPS法は一言でいうと、「アメリカで半導体を作る企業に補助金を出す法律」だよ。
CHIPSはCreating Helpful Incentives to Produce Semiconductors(半導体生産を助けるインセンティブを作る)の頭文字。バイデン大統領が2022年8月9日に署名して成立した。
法律全体の規模は約2,800億ドル(約42兆円)。内訳を整理すると:
製造補助金: 390億ドル(約6兆円)——米国内に工場を建てる企業への直接補助
研究・人材育成: 130億ドル(約2兆円)——大学・国立研究所・人材育成への投資
製造設備の税額控除: 投資額の25%——工場設備への投資分を税金から差し引ける
合計で527億ドル(約8兆円)が直接補助金や税優遇として使われる(McKinsey、PwC)。
なぜこの法律が生まれたのか
2つの大きな出来事がきっかけだよ。
①コロナ禍の半導体不足
2020〜2021年、コロナ禍で工場が止まり世界的に半導体が不足した。自動車メーカーは部品が足りず生産ラインを止め、家電メーカーも在庫が尽きた。この経験でアメリカは「半導体を海外に依存しすぎると国家安全保障上のリスクになる」と痛感した。
②米中技術覇権競争の激化
中国が半導体産業に巨額投資を続け、台湾・韓国・日本への依存を断ち切ろうとしている。アメリカにとって先端半導体の製造能力は、経済だけでなく軍事・安全保障の問題でもある。
2022年時点、アメリカの先端ロジック半導体の世界シェアはほぼ0%だった。すべて台湾(TSMC)と韓国(サムスン)に依存していたんだ。CHIPS法はその状況を変えるための法律だよ。

主な補助金受給企業と金額
補助金は「先端半導体を米国内で製造する企業」に優先して配分されている。
TSMC(ティーエスエムシー)——最大66億ドル
アリゾナ州フェニックスに3工場を建設中。2025年には4nm品の量産を開始。2nm対応の第2工場は2028年稼働予定。2026年3月、トランプ政権下でTSMCはさらに1,000億ドル(約15兆円)の米国追加投資を発表した(NIST、2024年11月確定)。
Intel(インテル)——最大78.6億ドル
CHIPS法最大の受給企業。ただし2025年8月、米政府は補助金の一部をIntel株式の取得(約9.9%相当)に転換する異例の措置をとった(CNBC、2025年8月)。
Micron(マイクロン)——最大61.65億ドル
ニューヨーク州とアイダホ州でDRAM(ディーラム)工場を新設。2024年12月に補助金が確定。メモリ半導体の米国生産回帰を担う(NIST、2024年12月確定)。
Samsung(サムスン)——約47.5億ドル
テキサス州テイラーに先端ロジック工場を建設中。当初の合意額64億ドルから約26%減での確定となった。
2026年3月時点で、合計309億ドル超が400件以上のプロジェクトに交付済み(NIST)。
トランプ政権下での変化
2025年1月に就任したトランプ大統領は、かつてCHIPS法を「horrible, horrible thing(最悪の代物)」と呼び廃止を主張していた。でも実際にはどうなったか。
廃止はされなかった。ただし変質した。
共和党上院議員が廃止に抵抗し、法律自体は存続
補助金の一部を政府による企業株式取得に転換(Intelで先行実施、TSMCやSamsungにも検討中との報道)
研究開発3施設の資金をキャンセル
CHIPS担当のNIST(エヌアイエスティー)スタッフを約500人削減
「補助金をばら撒く」から「政府が株主になって管理する」方向に変わったイメージだよ。
一方で対中輸出規制はむしろ強化された。CHIPS法受給企業には「中国で先端半導体を製造してはいけない」というガードレール条項があり、米中デカップリング(デカップリング)の動きは続いている。

日本への影響
CHIPS法は直接は米国の法律だけど、日本にも大きく影響しているんだ。
日本も補助金競争に参入
CHIPS法に刺激を受けた日本政府は、2021〜2025年で約650億ドル(約10兆円)相当の半導体補助金を投入した(Digitimes)。GDP比では米国を上回るほどの規模。代表例:
TSMC熊本工場: 日本政府が約8,000億円補助。12〜28nm品を2024年から量産開始
Rapidus(ラピダス): 北海道千歳で2nm量産を2027年目標。政府が累計2,500億円以上を拠出
日本の製造装置・素材メーカーにはプラス
米国でのファブ(半導体工場)建設ラッシュにより、製造装置や素材の需要が世界規模で増えている。東京エレクトロン、信越化学(しんえつかがく)、アドバンテスト——こうした日本企業は日米双方の需要増から恩恵を受けている。
日本政府は2030年に国内半導体企業の合計売上高を15兆円超(2020年比3倍)にする目標を掲げている(経産省)。
投資家が知っておくべきポイント
①補助金より民間投資の誘発効果が大きい
CHIPS法の直接補助金は527億ドルだけど、これが引き金になって民間が動いた。2022年以降に発表された民間投資の累計は5,400億ドル超——補助金の10倍以上を民間が出している(SIA)。
②米国の先端半導体シェアは0%から20%へ
2022年時点でほぼゼロだった米国の先端ロジック半導体シェアを、2030年に20%にするのが目標。TSMCアリゾナ工場の第1棟が2025年6月に完工認定を取得した(GAO)。
③ガードレール条項に注意
CHIPS法の補助金を受けた企業は、中国での先端半導体の製造能力を大幅に拡張できない。TSMCや三星電子(サムスン)の中国戦略に制約がかかる点は、長期的な企業業績を見る上での重要な変数だよ。
④製造装置・素材メーカーへの恩恵
米国・日本・欧州での工場建設ラッシュは、製造装置メーカー(東京エレクトロン、ASML(エーエスエムエル)等)や素材メーカー(信越化学、レゾナック等)の受注増につながる。直接補助を受けない企業でも、CHIPS法の恩恵を間接的に受けているんだ。

つまり、CHIPS法って何なのか
CHIPS法は「アメリカが半導体の製造力を取り戻すための国家プロジェクト」だよ。総額約42兆円の法律が民間投資80兆円超を呼び込み、世界の半導体工場の分布を塗り替えている。
トランプ政権下で「廃止」より「変質」という方向に進み、補助金から政府株主化という新しいモデルも生まれた。日本も連動して大規模な補助金政策を展開しており、2030年に向けた世界的な半導体増産競争はますます加速している。
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参考・出典
CHIPS and Science Act - Congress.gov: https://www.congress.gov/bill/117th-congress/house-bill/4346
McKinsey「The CHIPS and Science Act: Here's what's in it」: https://www.mckinsey.com/industries/public-sector/our-insights/the-chips-and-science-act-heres-whats-in-it
NIST「CHIPS Incentives Program Funding Updates」: https://www.nist.gov/chips/funding-updates
NIST「TSMC Arizona Award発表」(2024年11月): https://www.nist.gov/news-events/news/2024/11/biden-harris-administration-announces-chips-incentives-award-tsmc-arizona
TrendForce「CHIPS Act Funding Highlights before Trump Takes Office」(2024年12月): https://www.trendforce.com/news/2024/12/23/news-chips-act-funding-highlights-before-trump-takes-office-tsmc-intel-samsung-and-more/
CNBC「U.S. government takes equity stake in Intel」(2025年8月): https://www.cnbc.com/2025/08/22/intel-goverment-equity-stake.html
GAO「Semiconductors: Information on Projects Funded Under the CHIPS Act」: https://www.gao.gov/products/gao-26-107882
SIA「Semiconductor Supply Chain Investments」: https://www.semiconductors.org/chip-supply-chain-investments/
Supply Chain Dive「Trump wants to end the CHIPS Act. It's not that simple」: https://www.supplychaindive.com/news/trump-to-kill-chips-act-not-that-simple-defunding/741963/
Washington Times「Trump's call to repeal Biden-era CHIPS Act rebuffed by Senate Republicans」(2025年3月): https://www.washingtontimes.com/news/2025/mar/10/trumps-call-repeal-biden-era-chips-act-rebuffed-senate-republicans/
Digitimes「Japan's semiconductor subsidies 2021-2025」: https://www.digitimes.com/news/a20251215PR201/production-manufacturing-worldwide.html
Harvard Technology Review「The Return of Japan's Semiconductor Industry」(2025年4月): https://harvardtechnologyreview.com/2025/04/07/the-return-of-japans-semiconductor-industry-rapidus-and-the-pivot-towards-an-ecosystem-of-innovation/
PIIE「CHIPS Act already puts America first」: https://www.piie.com/blogs/realtime-economics/2025/chips-act-already-puts-america-first-scrapping-it-would-poison-well
PatentPC「How the CHIPS Act Is Impacting the U.S. Semiconductor Industry」: https://patentpc.com/blog/how-the-chips-act-is-impacting-the-u-s-semiconductor-industry-key-stats
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