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【仕事の短編】トリミングファイターさくらさん、ガチコンペとビール編①(デザイン&カメラ)

大好評、お仕事小説。元カメラマンさくらさんの必殺技はトリミング。今日もトリミングで事件を解決します。

さくら:カメラマン出身のデザイナー(愛用のカメラはNikon D750)。美人で仕事もできるが……
シノ:見習いディレクター(性格に難のあるさくらと組まされがち)
プロデュース部長:顔が怖い。いつも冗談か本気かわかりにくい。
社長:ケチ&お金が大好き。いつも思い付きで社員を困らしている。

シリーズ第4弾。このお話から読んでも大丈夫!

◆ ◆ ◆

今日のプロデュース部の議題は、「当社のデザインやばい問題」についてです。会議というより、デザイン部の悪口を言ってるだけですけどね。

わたしは新人ディレクターゆえ、生意気なことは言えませんが、たしかに最近、デザイナーの皆さんが出してくる表紙案は目に余るものがあります。

線を一本引いただけ。あるいは、フリー画像のアイコンを目をつむって並べたような何か。とてもじゃありませんが、お客様に提出できません……。

皆さん、本当にこんなデザインしか作れないのでしょうか。

あ、申し遅れました。わたくし、シノと申します。小さな制作会社に勤めています。

社員の皆さんは、よく言えば個性的、フラットに言えば変わった人たちなので、いつもいさかいが絶えません。毎日、誰かが叫び声を上げています。

でもまあ、問題は碓井部長でしょうね」

こう話すのは、自称「経済通」の巨体のおじさんです。物理的にも、文句という意味でも声の大きな人。会議ではこの人ばかりがしゃべるので話し合いになりません。

「センスがないんですよ、センスが。というかですね、そもそもそういう人が部長をしていること自体が……」

またこの話ですね。碓井部長のセンスなさは社内でも有名です。

わたしがよく組むデザイナーのさくらさんに言わせると、碓井部長はデザイナーではなく、オペレーターなのだそうです。

手は早いですが、いつもワンパターン。表紙案は、画像をぺたっと貼っただけのものを出してきます。しかも、見たことのある画像ばかり。

不採用になった画像が、何度でも何度でも復活してくるのです。散弾銃で撃たれても死なないゾンビのようです。

「センスのこと言っても仕方ないやないか」
プロデュース部の部長さんがうんざりした声で応えます。「うちのデザイナーは基礎がないんやから。学んできてないねん」

でも、宮本さんは美大出身でしょ?」
え、そうなんですか? 初耳です。
「あの人は人間性があかん」
人格否定! 仲の悪さが伝わってきます。

部長が言うところによると、「ある事件」があったそうです。

でも、まだマシでしょう」
巨体のおじさんは「でも」が多いです。

それにしても、宮本さん、美大だったんですね。
言われてみれば、他の人よりも手を抜いていない気がします。

碓井部長と同じくらいの年に見えますが、碓井さんが部長ということは何か理由があるんでしょうか。

「美大といえば、さくらちゃんもそうやろ?」
でも、さくらさんのほうは造形大じゃないですか」

「シノちゃん、さくらちゃんのデザインどう?」
部長が「でも」を振り切って、わたしに聞いてくれました。

「あ、はい……」
さくらさんも美大だったんですね。元カメラマンさんなので、専門学校とかをイメージしていました。

「わたし、美術の学校とか詳しくないですが、そうですね……」

最近のやり取りを思い浮かべます。

◇ ◇ ◇

まだ20代のさくらさんはテキパキと仕事ができて、しかも、美人さんです。SNSで動画が100万回再生されたくらい(本人は気づいていませんが)。

なぜおじさんばかりの会社にいるのか本当に不思議です。

わたしは……、はい、転職に失敗しただけです。

先日、さくらさんのPCの前で、ある案件の表紙案を見せてもらいました。

さくらさんの得意技はトリミング。カメラマンのときの経験が生きてるのでしょうかね。お客さんのOKが出る確率がとても高いです。

「ほら、こうやってトリミングすればいいのよ? こうすれば、ひとつの画像から何パターンも作れるでしょ」
「たしかに」
「ヒゲは同じ画像を同じふうに使うから、いつも一緒だって言われちゃうのよ」

ヒゲとは、碓井部長のこと。わたしはドキドキして後ろを振り返ります。碓井部長は外出中でした。

わたしは画面に向き直りました。
「そうですね、最初に出す案としてはいいと思いますけど……」
「どうしたの?」
「いえ、もう少しデザインしなくていいのかなって」
「だって、わたしたちが抱えてるの、この案件だけじゃないでしょ」
「そうですね」
「いちいち本気出してられないよ」
「……はい」

「どうかした? 思ってることがあったら言っていいよ」
そんな顔をしていたでしょうか。
「ほんのちょっと思っただけなんですけど」
「うん」
さくらさんはわたしが話しやすいように口角を上げて笑みをたたえています。
「わたしたち、本気を出すことがあるのかなあって。同じことをしてたら、ずっと同じレベルのままの気がしまして」

さくらさんの顔が笑顔のままフリーズします。さくらさんはそのまま、すーっとPCのほうに椅子ごと回転してしまいました。

ああ、いい表情、いい動きです。
図星だとこういう仕草になるんですね。
やっぱりバズる人は違います!

ややあって戻ってきました。
「というか、誰のせいで忙しくなったと思ってるの! 仕事増やしたのだれよ」
「ひぃっ」

シノがさくらの動画を無断でバズらせたお話です(さくらさんはそのことを知りません笑)

◇ ◇ ◇

この記憶を受けて、わたしは部長にこう返していました。
「忙しいんじゃないですかね」
「どゆこと?」

「デザインに力を入れたい気持ちはあると思うんです。ただ、案件が多すぎて、そこまで時間をかけていられないと言いますか」
「まあ、案件増やしたもんな。シノちゃんがもっと仕事したいって言うから」
「うっ」
わたしが社長室で勢いにまかせて言ってしまった件ですね。

「でも」
でもおじさん登場です。
「忙しいからって言われても困りますよね。お客さんに文句言われるのはディレクターなんですから。だいたい……」

「わかった、わかった。今日の話をまとめて社長に相談してみるわ」
でもおじさん対策で、会議が「社長に相談してみるわ」で終わってしまいました。

不吉……。
嫌な予感しかしません。

社長は思い付きで右を左にして、今日を昨日にする人です。とんでもないシステム変更があるような気がします。

わたしが会議室を出ようとすると、部長に呼び止められました。
「シノちゃん、ちょっと」
顔の怖い部長がバツの悪そうな表情をしています。

「今日の美大の話、さくらちゃんには内緒な」
「はい、それはいいですが、どうして」
「学歴コンプレックスや」
「え、さくらさんがですか」
思いもよらない言葉です。
「俺が言ったって言わんどいてな」

部長は、さくらさんに気を遣っているというか、恐れてるというか。

ある事件があったそうです。
この会社はある事件ばかりですね……。

その後、別のディレクターさんから衝撃の事実を聞きました。宮本さんはタマビ出身なのだそうです。

わたしがタマビってすごいんですかと聞くと、一般の大学で言えば、慶應みたいなものだそうです。

慶應!
宮本さん、エリートだったんですね! 

部長の言うさくらさんのコンプレックスは社内のそういう事情も影響してるのかもしれません……。

事件はいろいろ重なるものです。
社長のもとに、一本の知らせがありました。

コンペの参加依頼。
当社がこれまで取引をしたことがない規模の、最大手の飲料メーカーです。

「当社のデザインやばい問題」と合わさって、社長がとんでもないことを言い出しました。

コンペの参加に当たって、デザイナー全員が案を出して競います。つまり、コンペの前に、社内コンペをするのです。

わたしにはそれが、さくらさんと宮本さんの美大デザイナー対決に映ってしまいました。(続く↓)

【作者ひとこと】シノのまったく反省しないところが好きです。SNSの件とか。

えっ、反省してますよ? 本当の本当です
読んでくれてありがとう!
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焔ふぁい|FIREの精霊 クリエイターであり続けたいー! が、整体に行かないと死ぬ。ポンコツゆえ、ポンコツゆえ、300円よろしくお願いしまーーす!