第二章 第10話: グレン術に向けて入院した日
(このnoteは過去を振り返って書いている実話です。
詳しくはプロローグへ。)
その日、ママはあーちゃんを、
何度も何度も抱きしめた。
何度抱きしめても足りない。
ママの不安があーちゃんにこぼれ落ちてしまわないように、気持ちを心の奥の方に押し込む。
大丈夫。 大丈夫。
そうやって何度も自分に言い聞かせ、
あーちゃんの前ではできる限り、
いつも通りを演じていた。
あーちゃんはまだ7ヶ月だった。
ついにあーちゃんの心臓の手術、
グレン術をする日が決まり、
明日から入院することになった。
入院当日
病院の4人部屋。
カーテンで仕切られた小さな空間のベッドに、
にこやかなあーちゃんがちょこんと座っている。
ーーこの子は、明日、心臓の手術を受ける。
そんな現実を、きっと一ミリも知らない。
くるくるとした愛嬌たっぷりの目でママを見つめる。
その無邪気な瞳が、少し…いや、大きく胸をチクリと刺した。
それでもママはいつも通りを演じる。
大丈夫。 大丈夫。
カーテンの中では、
あーちゃんは泣くこともなく、
驚くほど静かだった。
まるで『ママを困らせないように。』
と、空気を読むように…。
でも目線だけは違う。
ママを探す瞳が、必死に追いかけてくる。
『大丈夫、そばにいるよ。』
あーちゃんも、ママも、
不安をどこかに隠しながら、
なんとかその時を過ごしていた。
手術前の検査
術前の検査のときは、
さすがにあーちゃんもよく泣いた。
大人だって本当は検査するの怖いのに…。
そんなに小さな体で、よくがんばったね。
ママがしっかりと受け止めるからね。
大丈夫。 大丈夫。
プレイルームにて
広い場所で思い切り体を動かしてあげたくて連れていった。
ベッドでは動き回っていたのに、
ここでは固まったまま。
人見知り全開でじーっと周りの様子を伺う。
その慎重さ、人見知り感、ママとそっくり。
でも知らない場所で泣かないだけで十分すごいよ。
手術の説明
あーちゃんがお昼寝しているあいだ、
ママとパパは医師による手術の説明を聞きに、
保育士さんにお願いしてあーちゃんのそばを離れた。
でもあーちゃんの”ママ探知機”は即座に作動。
それはそれは大きな大きな泣き声がすぐに響き渡ってきた。
ママは今すぐ飛んでいってあげたかったけれど、
行けなかった。
真剣に医師による説明に耳を傾けていた。
それでもあんまりにも激しく泣くから、
看護師さんが何度か様子を見にきてくれたんだけど、
まだ話しが終わらなくてそのまま帰って行った。
この時、ママが抱っこをしながらでも話しを聞けていたら…。
後からそんなことを何度も何度も後悔することになるとは、この時は夢にも思っていなかった。
手術は約8時間。
人工心肺で一時的に心臓を止めての手術になる。
人工心肺を使っている時間はできる限り短い方がいいこと。
考えられる合併症、後遺症、わずかな確率で起きる最悪の可能性ーー
耳を塞ぎたくなるような、とても怖い内容もあった。
なにがあっても対応できるように、
十分に備えてから手術を行うことなどを話してくれた。
ようやく説明が終わり、
泣き腫らした目のあーちゃんと再会。
ママが抱っこをした瞬間、体の力が抜けて、
大きな息をひとつ。
安心の音だった。
『ごめんね。寂しかったね。もうどこにも行かないよ。』
強く、長く、抱きしめた。
本当の気持ち
ここでだけ、
そっと、ママの本当の気持ちを残しておこうと思う。
本当は手術なんてさせたくなかった。
健康な体に産んであげたかった。
でも、『ごめんね。』とは言わないようにしていた。
そんな想いが全く無かった…
なんて言えば大嘘になる。
だけど、『ごめんね。』なんて言葉を言っても、
それはママの気休めにしかならないと思ったから。
泣いても、叫んでも、現実は変わらない。
なら、向き合うしかない。
1番がんばるのはあーちゃんだから。
ママも負けじと受けて立つ。
きっと大丈夫。乗り越えられる。
大丈夫…。大丈夫…。
何度も何度も心の中で呟きながら、
必死に笑顔でいつも通りを装っていた。
いよいよ手術は明日…。
いつまでもこの瞳の輝きがつづきますように…。
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第一章から↓
すべては、この小さな鼓動から始まった。
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