経理は「いつ・何を・誰がやるか」が9割――板橋区の税理士・行政書士が連載5回分をまとめました
経理は「いつ・何を・誰がやるか」が9割――板橋区の税理士・行政書士が連載5回分をまとめました
こんにちは。東京・板橋区大山で税理士・行政書士事務所を営んでいる吉本勝也です。
このたび、事務所のウェブサイトで連載していた「会計業務シリーズ」全5回が完結しました。
創業されたばかりの社長から、いちばん多くいただくご質問が「経理は何をどの順番でやればいいのか分からない」というものです。会計の入門書を開くと、たいてい「借方・貸方」の説明から始まります。ですが実務でつまずくのは、仕訳のルールそのものよりも、「いつ・何を・誰がやるのか」という全体の段取りが見えていないことのほうが圧倒的に多いのです。
このnoteでは、連載5回の要点を1本にまとめました。そのうえで、連載では書かなかった4つのことを加えています。まずこの1本を読んでいただき、気になった回だけ本編を読む、という使い方を想定しています。
※法令・制度は令和8年9月時点の情報にもとづきます。個別の判断は必ず専門家にご相談ください。
■ 第1回:会計業務の全体像――日々・毎月・年1回の3つの層
最初にお伝えしたいのは、会計の数字は3つの相手のために作っているということです。税務署(申告のため)、経営者(判断のため)、金融機関(融資の審査のため)。この3つのうち、経営者のために必要なのは正確さだけでなく早さです。3か月前の数字をどれだけ正確に出しても、打てる手はもう残っていません。
会計業務は、日々・毎月・年1回の3つの層でできています。
日々:現金の出納、証憑の整理、記帳
毎月:記帳の締め、給与計算、毎月10日の源泉所得税の納付、月次決算
年1回:労働保険の年度更新、算定基礎届、年末調整、1月31日の法定調書等、棚卸、決算・申告
大事なのは、左の層が崩れると右の層は必ず崩れるという関係です。日々の証憑整理が崩れれば月次が崩れ、月次が崩れれば決算が崩れます。逆もまた同じで、日々が整っている会社は決算がとても静かです。
そして、証憑を集めること・取引の中身を説明できることは、税理士に任せても会社側から切り離せない仕事です。ここだけは社内に残ります。
▼本編はこちら
https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-01-zentaizo/
■ 第2回:証憑の集め方と保存――電子帳簿保存法は「1つだけ」
証憑(しょうひょう)とは、請求書・領収書・契約書・納品書など、取引があったことを裏づける書類です。
現場で使われている型はシンプルです。受け取った請求書は未払いと支払済に分ける。領収書は台紙に貼って綴じる。領収書が出ない支出(香典、電車代など)は出金伝票を書く。現金は毎日締めて、ズレは当日中に原因を突き止める。——これだけです。
保存期間は少しややこしく、法人税法で原則7年(赤字の年は10年)、会社法で10年と、根拠が別々にあります。両方を満たすように保管してください。
電子帳簿保存法については、身構えている方がとても多いのですが、3つの制度のうち、対応が必要なのは「電子取引データ保存」の1つだけです。紙で受け取ったものは紙のまま保存して構いません。そして電子取引データの保存も、事務処理規程+索引簿またはファイル名で対応できます。専用ソフトは必須ではありません。国税庁が規程のサンプルを公開しています。
もうひとつ、日付を押さえておいてください。インボイスの経過措置は、**令和8年10月1日から80%→70%**に変わります。
▼本編はこちら
https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-02-shohyo-hozon/
■ 第3回:日々の記帳――仕訳と勘定科目の基本
仕訳は、1つの取引を左右の両面から記録することです。左右の金額は必ず一致します。借方は左、貸方は右。増えたときにどちら側に書くかは、決算書での定位置で決まります。——覚えることは、実はこれくらいです。
勘定科目の鉄則は2つだけ。数を絞ることと、同じ取引には同じ科目を使い続けることです。科目をむやみに増やすと、後で比較ができなくなります。
意外に効くのが摘要欄です。「誰と・何を・どの案件で」を書く。半年後の自分が読んで分かるかどうかが基準です。ここが空欄だと、決算のときに1件ずつ思い出す作業が発生します。
いま実務で多い間違いは、二重仕訳・日付違い・税区分の誤りの3つ。とくに二重仕訳は、会計ソフトの自動連携と手入力が重なって起こります。防ぎ方はひとつで、相手科目を売掛金・未払金で受けること。そうすれば残高を見るだけで二重計上や計上漏れに気づけます。
▼本編はこちら
https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-03-kicho-shiwake/
■ 第4回:月次決算と試算表の点検――毎月締めるのが基本
「決算は年に1回では」と思われるかもしれませんが、経理の実務では毎月締めるのが基本です。1か月ごとに残高を確定させておけば、年に一度の決算はその積み重ねを合計する作業になります。
月次決算では、締切を決めて1か月分を入れ切り、現金・預金・売掛金・借入金を通帳や残高証明と突き合わせます。そのうえで、試算表に載っているすべての勘定科目の残高を点検します。判断の基準は、「なぜこの残高になっているのかを一言で説明できるか」。借方と貸方の合計が一致していても、科目の選び間違いや計上漏れは見つかりません。
残高が合わないときの探し方も、実は型があります。
差額と同じ金額の取引を探す(入力漏れ・二重入力)
差額が2で割り切れるなら、貸借を逆に入力している可能性
差額が9で割り切れるなら、桁違いか数字の入れ替え(135と153など)
▼本編はこちら
https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-04-getsuji-kessan/
■ 第5回:決算と法人税申告――決算日後2か月で何が起きるか
決算日を過ぎてから申告・納税までは2か月しかありません。この2か月で、取引の入力を確定し、決算整理(棚卸・減価償却・経過勘定・貸倒引当金)で1年分の数字を正しい期間に直し、決算書4種類を作って株主総会の承認を受け、法人税・地方税・消費税を申告して納めます。
注意点を4つ挙げておきます。
定時株主総会は決算日から3か月以内なのに、申告は2か月以内。順番が逆になりうるので、間に合わない会社は「申告期限の延長の特例」を申請しておく
赤字でもかかる税金がある。法人住民税の均等割は利益が出ていなくても課される
申告期限の延長を受けても、納税の期限は延びない。利子税がかかるため、実務では見込納付をしておく
少額減価償却資産の特例は、令和8年度の税制改正で30万円未満から40万円未満に引き上げ。決算期が改正をまたぐ場合は取得時期の確認が必要
そして、いちばんお伝えしたいのは、効くのは決算日より前だということです。仮払金の精算、使わなくなった固定資産の処分、納税額の見込み。この3つは決算の1〜2か月前までに手を打っておきたいところです。決算日を過ぎてからできることは、実はあまりありません。
▼本編はこちら
https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-05-kessan-shinkoku/
■ ここからはnote限定――連載に書かなかった4つのこと
連載では「経理の手順」に絞って書きました。ここからは、手順の話ではないけれど、ご相談のときに必ず話題になることを4つ書きます。
◇ ① 記帳を自社でやるか、任せるか――判断は金額ではなく「時間」から
「記帳は自社でやったほうが安いのか」というご質問をよくいただきます。ただ、この問いは金額だけで考えると、たいてい判断を誤ります。
見ていただきたいのは、社長やスタッフが記帳に実際に使っている時間です。月10時間を超えているようなら、いちど分担を見直したほうがよい水準だと考えています。【要確認】
なぜかというと、記帳の時間は「その時間、売上をつくる仕事ができなかった」という形で、見えないコストになっているからです。月10時間は年間120時間、営業日にして15日分です。
一方で、全部を外に出せばよいというものでもありません。第1回に書いたとおり、証憑を集めることと、取引の中身を説明できることは会社側に残ります。ここを手放してしまうと、今度は「自社の数字を自社で説明できない会社」になり、融資の場面で困ります。
現実的な分け方は、次のような形です。
現金出納・証憑の整理・売上の計上 → 社内(現場を知っている人でないとできない)
仕訳の入力 → 体制しだい(人がいれば社内、いなければ任せる)
月次の締めと点検・決算整理・申告 → 税理士
当事務所では、毎月お伺いする巡回監査のなかで、この線引きを会社ごとに決めています。人が増えたら社内に戻す、辞めたら一時的に引き取る、という調整も含めてです。料金は体制によって変わるため、サイトの料金ページをご覧いただくか、ご相談のときにお尋ねください。
https://www.ivy-cpta.jp/price/
◇ ② 経理が1人しかいない会社で、最低限やっておきたいこと
中小企業では、経理が1人(あるいは社長のご家族が1人)という会社がほとんどです。これ自体は当たり前のことで、問題ではありません。
ただ、1人に全部が集まると、本人に悪気がなくても事故が起きやすくなります。お金を扱う人と記録する人が同じだと、間違いに誰も気づけないためです。担当者が急に休んだときに何も分からなくなる、という属人化の問題もあります。
人を増やさずにできることとして、最低限この3つをおすすめしています。【要確認】
ネットバンキングの振込は、社長が承認する(入力は担当者、実行は社長、と分ける)
通帳・残高証明と帳簿の突き合わせを、月に一度は社長も見る(金額そのものより「見ている」ことが効きます)
経理の手順をメモにしておく(担当者が休んだときに、他の人が代われる状態にしておく)
3つとも、コストはほぼゼロです。1と2は、月次決算の作業のなかに組み込んでしまえば手間になりません。
◇ ③ 会計ソフトを選ぶときに見るところ
具体的な製品名はここでは挙げませんが、選ぶときに見ていただきたい観点は共通しています。【要確認】
銀行・カードのデータを自動で取り込めるか(ここが手入力だと、月次の締めが必ず遅れます)
税理士と同じデータを見られるか(データを送り合う形だと、質問のたびに往復が発生します)
試算表・残高一覧がすぐ出せるか(第4回の点検作業ができるかどうかに直結します)
消費税の税区分を正しく持てるか(令和8年10月の経過措置の変更に対応できるか)
やめたくなったときにデータを取り出せるか
そして、いちばん大事なのは「決めたら変えない」ことです。期の途中でソフトを変えると、データの移行に想像以上の手間がかかります。開業時に決めておきたい5つのこと(事業年度・会計ソフト・口座とカードの分離・証憑の集め方・月次の締め日)に会計ソフトを入れているのは、このためです。
◇ ④ 経理でよくある失敗5つ
連載の各回で触れたものも含めて、ご相談で実際によく出会うものを5つ挙げます。
社長個人の口座・カードと会社のものが混ざっている――創業期にいちばん多い失敗です。後から分けるのは非常に手間がかかるので、設立と同時に分けてください
領収書が出ない支出をそのままにしている――香典、自動販売機、電車代など。出金伝票を書けば経費にできます
仮払金が何年も残っている――中身が確定していない残高は、銀行からも税務署からも印象がよくありません。決算月の1か月前に精算します
電子で受け取った請求書を印刷して、データを消している――電子帳簿保存法で最も避けたい形です。間に合っていなくても猶予措置がありますが、データを消さないことが大前提です
納税資金をよけていない――決算のわずか2か月後に法人税と消費税の納付が来ます。決算の1〜2か月前に見込みを出して、よけておいてください
■ おわりに
連載を書き終えて、あらためて思うのは、経理の良し悪しは几帳面さではなく、段取りで決まるということです。
「決算のたびに毎年バタバタする」という会社は、たいてい決算の進め方に問題があるのではなく、月次が整っていないだけです。そして月次が整わないのは、証憑の集め方が決まっていないからです。すべて、前の工程につながっています。
当事務所は東京都板橋区大山で、毎月お伺いする巡回監査を基本にしています。税理士と行政書士の両方の登録がありますので、許認可や契約書まわりのご相談もあわせてお受けできます。「自己流でやってきたが、これで合っているのか不安」という方は、お気軽に無料相談でお尋ねください。
https://www.ivy-cpta.jp/contact/
なお、この連載では触れなかった「電子取引データを、ソフトを使わずに実際どう運用するか」——フォルダの作り方、規程の整え方、索引簿の作り方については、電子証憑の実務に絞った連載を近日公開の予定です。
▼連載「会計業務シリーズ」全5回
第1回 会計業務の全体像 https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-01-zentaizo/
第2回 証憑の集め方と保存 https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-02-shohyo-hozon/
第3回 日々の記帳 https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-03-kicho-shiwake/
第4回 月次決算と試算表の点検 https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-04-getsuji-kessan/
第5回 決算と法人税申告 https://www.ivy-cpta.jp/blog/kaikei-05-kessan-shinkoku/
