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有川浩『塩の街』

これが有川浩のデビュー作だなんて。
こんな大作を発表していただなんて。

ぐっと涙を堪える場面も、理不尽に押し付けられそうになる場面も、どうしてなんでって叫び出したくなる場面もあった。
それでも先を読み進めなければならないと思わされた。
どうなるん、これからどうなるんって考えさせられた。

人を好きになる

愛の物語はそれこそたくさんの小説の中で語られている。
僕が一番最初に愛について考えさせられたのは横山秀夫の『半落ち』だった。
映画化もされたから結構知っている人もいると思う。

愛の物語で初めて涙を流したのが辻仁成の『愛をください』だった。
辻仁成ほど人間の感情を優雅に繊細に書く作家を他に知らない。
菅野美穂が歌った歌は辻仁成が作詞をしたものだけど小説の内容とは異なっているからぜひ小説の方を読んでみてほしい。

「愛は地球を救う」っていうフレーズが、『塩の街』では登場する。
その言葉が大嫌いだという登場人物がいる反面、その言葉を心に刻む登場人物もいる。

有川浩のすごいところは、1つの小説の中に相反する感情をもつ登場人物を描き切ることだと思う。
物事を見るのはいつも一方からではなく、多数の方向から多角的に、視野を広く持つことが大切なのだと教えてくれる。

加えて、小説の世界に対する知識が深い。
有川浩はよく自衛隊に関する作品を発表しているけれど、自衛隊についての知識があるからこそ深いところまで書くことができている。

なおかつ、世論にも見識が広い。
その時代にどんなことが起こったのか、登場人物たちの何気ない会話から察することができるくらい、世の中を反映させている。

そして、愛。
有川浩のそういうところ、好きだな。

僕は今回の作品にてようやく、有川浩の自衛隊三部作である『塩の街』『空の中』『海の底』を読むことができた。
どれも人間臭さのある作品たちだった。

一番最初の有川浩に触れたのが『阪急電車』だったから、こういう、日常の中に潜む出来事をユーモラスに書く人なのかなと思っていたけど、自衛隊三部作を読むと有川浩の進化を垣間見ることができる。
今まで純文学しか読まないと決めて、基本的には芥川賞にノミネートされた作家たちの本しか触れてなかったけど、昨年からいろんなジャンルのものに手を出してみて本当によかった。

最近、読書はコスパが悪く勉強にならない、と教えている教師がいると話題になっている。
主に大学受験を控えた高校生たちに、要領よく点数を取らせるため、読書なんかやめてもっと目先の問題を解けという趣旨らしい。

それに対し、各大学の教員たちが嘆いているらしい。

確かに高校までのいわゆる「お勉強」というものに対して読書というのは非常にコスパが悪い。
それはなんとなくわかる。
受験科目は基本的に暗記だ。
どれだけ暗記できるかだ。
問題に対する明確な答えが求められる世界だ。
だから高校までの教えるのが上手と言われる先生たちは余計な雑学を入れずに答えを簡潔に伝えているのだろう。
Youtubeとかで人気の教育系もそういったものが多い。

コスパ、か。

僕自身、高校までの成績は非常に悪かった。
小学生の頃から本を年間100冊くらいは毎年読んでいたにもかかわらず、国語や現国の成績は5段階評価の良くて4、たいていは3だった。
つまり普通。
社会科目に関しては2だった。
英語は毎回赤点ギリギリだった。

それを鑑みると、読書なんてやっていても、みんなが目指したい、いい大学、というのには入れない可能性が高くなる。
僕は一応、関西の有名私立大学と呼ばれているところを卒業したが、それだってたまたま、まぐれで入れたにすぎない。

でも。

大学以降は人生でどれだけ余計なこと、遠回りしたこと、余分なことを経験してきたかによって決まってくる。
おかしな話だよね。
けど、ほんとうに、大学以降、社会人になってからも、どれだけコスパの悪いことをしてきたのかによってその後の人生が決まってくる。

読書を通して、僕は学生運動の時代を知った。
読書を通して、僕は女性学について興味を持った。
読書を通して、人間はひとくくりにできないのだと教わった。
読書がなかったら、きっと、僕は今こうして生きていない。

それをコスパが悪いものだと切り捨てるのか。

読書をコスパが悪いと言うのなら、せめて新聞くらいは毎日目を通してほしいと思うけど、きっとそれも同じくコスパが悪いと言われるんだろうな。
天声人語を読んだことのない人がどんどん増えていくんだろうな。

僕がこうして読書記録をつけ始めたのはただ単にnoteを学校の教材として取り入れるために何か記事を書いてみなくてはならなかったのがきっかけだけど、今でもこれを続けているのは誰かひとりでいい、普段はぜんぜん見られていないこのアカウントにふとした瞬間に誰かが見て興味を持って、その本、一度読んでみようかなと思ってほしいという願いが込められている。
僕はこんなに本を読んでいるんだ、どや、という気持ちは無い。
でも、誰かに本の素晴らしさを届けたいと、誰かに届いてほしいと願っている。

本はいいぞ。
読んでる途中で広告が流れてきて一時中止されることもないからな。
頭の中で映像が浮かび上がってくるんだぞ。
泣いたり笑ったり怒ったりもできる。
おまけに知らなかった言葉や知識の宝庫だ。
僕もこの歳になって初めて対面する日本語があるくらいだ。
本はいいぞ。

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