「なぁんもない」私の大好きな場所

私は福井県福井市に生まれた。
母の実家が福井にあり、いわゆる里帰り出産である。
生まれてすぐ父方の家がある愛知へ移った。
毎年夏になると、母方の実家へ帰省するのが我が家の恒例だった。

愛知から父の運転するワゴンに乗って高速道路を4時間弱。
母の実家の砂利の駐車場の「ジャリジャリ」という音が到着の合図である。
玄関の重い扉を開けると、仏間から流れてきたお香のような香りがする。
土間を上がって居間の襖を開けると、いつも祖母が待っていてくれた。
そして私に祖母はきまって言うのである。
「よぉ来たの。なあんもないけどぉ、ゆっくりしてきね。」

愛知と比べると福井は田舎である。
母の実家の周りは、辺り一面田んぼ。
祖母の言うとおり、本当に「なあんもない」場所だった。
しかし、祖母のいる「なあんもない」福井が私は大好きだった。
「なあんもない」なんて感じたことはなかったかもしれない。

祖母の運転で行ったピアのゲームセンターで遊んだ日
テアトルサンクで、時間を忘れて一日中スクリーンを見つめた日
芝政のプールへ行き、肌が真っ赤になるまで泳いだ日
祖母が切って出してくれた、冷たくてみずみずしい瓜の漬物
私たち家族と叔母と従姉と一緒に行った「トマト&オニオン」
おぶちゃんが「これ食べね」と買ってきてくれる親玉菓舗の「ろっぽ焼」

笑顔しかない。
私のおきまりの夏である。

大人になり、たまの旅先や出張などでふと福井の空気にふれることがある。
嶺北地方特有の語尾がふわりと上がって柔らかく伸びるイントネーション。
胸の奥がきゅっとなるような、不思議な心地よさに包まれる。

「なあんもないけどぉ」と笑いながら迎えてくれた祖母のぬくもり。
私の幼少期の夏には、今も心を温め続けてくれるものが詰まっていた。


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