未来生活図鑑 No.20 オーナースタンプ
その日から、うちでは物がなくならなくなった。
原因は父が買ってきたオーナスタンプだ。
好きなデザインを作って、持ち物に直接印刷できる。さらに持ち主の情報も登録できるので、IDタグにもなる。
母は椿の紋。
父は将棋の駒。
妹はクラゲを図案化した丸いマーク。
私はしおり型のマークにした。
傘も充電器も、誰のものか一目でわかるようになった。
そして町には、IDチェッカーも広まった。
かざせば、その印に登録された情報が読める。
便利すぎた。
問題が起きたのは一週間後だった。
母が父の鞄を片づけていると、見慣れないマフラーが出てきた。
「これ、お父さんの?」
「違う違う、会社の。預かってるだけ」
父は笑っていたが、母はすでにオーナーチェッカーを取り出していた。
ぴっ。
表示されたのは、知らない名前とメッセージだった。
所持者名:水野美咲
メモ:去年の記念日、ありがとう。次はちゃんと渡せますように。
父は黙った。母も黙った。
妹だけが「うわ,機能強すぎ」と言った。
その夜、家は妙に静かだった。
翌日。
母が父の鞄を片づけていると、IDマーカーが出てきた。
中を確認すると、父の将棋の駒マークとは別に、まだどの物にも印刷されていない新しいデザインが一つだけ残っていた。
小さなリボンの印だった。
母はしばらくそれを見ていたが、何も言わなかった。
翌朝、父が着ようとしたワイシャツの袖口には、見慣れない印が入っていた。
**赤い丸の中に、大きく「済」**と印刷されていた。
「なにこれ」
父が言うと、母は平然と答えた。
「確認済み」
妹がチェッカーをかざした。
ぴっ。
所持者名:母の名前
メモ:家族共有。無断持ち出し禁止。
父はそれを見て、しばらく動けなかった。
妹が言った。
「これ、GPSもついてるよね」
母は笑顔でうなずいた。
「安心でしょ」
その日から父は、会社でもコンビニでも、やたらと早く帰ってくるようになった。
