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音が迷子になるとき

私は音楽が好きだ。しかし、ときどき、音が迷子になることがある。
スピーカーは部屋の端にあるのに、なぜか耳のすぐ後ろで鳴っているように感じる。
誰かが背後からそっと音楽を流しているみたいで、少しだけ落ち着かない。

調べてみると、これはどうやら「交感神経の高ぶり」が関係しているらしい。
交感神経が活発になると、体は「戦うか逃げるか」モードに入り、感覚が敏感になる。普通は脳が音の方向や距離をうまく計算してくれるのだけど、このモードになると、その精度が乱れてしまうのだとか。
その結果、音が不自然な位置から聞こえてくることがあるという。

さらにやっかいなのは、音の取捨選択ができなくなること。
ふつう脳は、必要な音だけを拾って、残りは背景に回す。
たとえばカフェで友達の声だけに集中できるのは、この「カクテルパーティー効果」のおかげだ。
でも交感神経が張りつめていると、このフィルター機能がうまく働かず、あらゆる音が一斉に押し寄せてくる。
世界が同時再生の音ゲーみたいになって、音の海に飲まれてしまう。

私の場合、その最たる例がオーケストラだ。
複数の楽器が同時に、違う高さとリズムで演奏するあの瞬間、脳はフル稼働を余儀なくされる。しばらくすると、頭の奥が重たくなってきて、次の瞬間には眠気が襲ってくる。
私はに毎年夏(おおむね7月から9月にかけて)に行なわれる、世界最大級のクラシック・ミュージック・フェスティバルを楽しみにしていてせっかく聞きに行ったのに大きなホールで大音量で演奏されている最中、ぐっすりと眠ってしまったのである。自分でも驚いた!そして,残念だった。
これはどうやら「脳の防衛反応」らしい。過剰な情報から自分を守るために、強制的にスイッチを切ってしまうのだ。

一方、ピアノやバイオリンのソロだと、そんなことはあまり起きない。音の要素が少ないぶん、脳が追いかけやすい。
ただし、ピアノで高音と低音が激しく行き交う曲になると、やっぱり少し疲れる。やっぱり脳にはキャパシティがあるらしい。

対策は、意外と地味だ。
コンサート前に深呼吸をする、音量を下げる、途中で休憩をはさむ。
場合によっては、音楽を聴く「環境」そのものを変えることも有効らしい。
そしてもし、こうした症状が日常生活にも影響しているなら、専門家に相談するのも選択肢のひとつだ。

思えば、音は空気の振動にすぎないのに、それを方向づけ、取捨選択し、感情まで揺らすのは、ぜんぶ脳の仕事だ。
ときどき、その仕事が追いつかない日もある。
そんなときは「今日は脳が混乱してるな」と静かに認めて、少しだけ静かな場所に退避する。

音楽の良さは、無理して浴びるものではないのだから。


参考文献
1.書籍: "The Listening Ear: The Development of Auditory Processing and Perception" by Stephen J. Crain

2. 記事: "Auditory Processing Disorder: What You Need to Know" (Understood.org)
URL: https://www.understood.org/articles/en/understanding-auditory-processing-disorder

3.書籍:“When the Brain Can’t Hear: Unraveling the Mystery of Auditory Processing Disorder" by Teri James Bellis

4. 記事: "The Effects of Stress on Sensory Processing" (Psychology Today)
URL: https://www.psychologytoday.com/us/blog/sensory-processing/202005/stress-and-sensory-processing

5.書籍: "The Autonomic Nervous System and Its Role in Health and Disease" by David S. Goldstein

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