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由流里シェアハウスの第一回・床に落ちていたもの選手権


六月も終わりが近い週末。

由流里シェアハウスのリビングには、朝からだらけた空気が流れていた。

エアコンは動いている。

扇風機も回っている。

冷たい麦茶もある。

それなのに、なぜかみんなやる気が出ない。

「なんかこう……」うさぎのリリィがソファにうつ伏せになった。

「人生に刺激が足りない」

「朝から重いな」鹿のシカリンが言った。

「刺激って、例えば?」

「わかんない。でも何か面白いこと」

その時だった。

コアラのココがテーブルの下を覗き込みながら叫んだ。

「あった!」

「なにが?」

「床に謎のボタン!」

確かに落ちていた。

白くて丸いボタンが一つ。

三人はそのボタンを囲んだ。

「誰の?」

「知らない」

「服から取れた?」

「わからない」

沈黙。

三十秒後。

ココが立ち上がった。

「決定!」

「何が?」

「第一回・床に落ちていたもの選手権を開催します!」

「は?」

「由流里史上、最も謎だった落とし物を決める大会です!」

「そんな歴史あった?」

「今できた!」

ココはホワイトボードを持ってきた。

参加資格。

床に落ちていたこと。

以上。

「条件ゆるっ」

まずリリィがエントリーした。

「去年見つけた干からびたグリーンピース」

「それ、ただのグリーンピースでは」

「違うよ。ソファの隙間から出てきたんだよ」

「なおさら怖い」

続いてシカリン。

「私はこれかな」

取り出したのは小さな紙切れ。

そこには、

『たぶん大丈夫』

と書かれていた。

「なにこれ」

「知らない」

「誰が書いたの?」

「知らない」

「いつからあるの?」

「知らない」

「怖い怖い怖い」

ココは真顔でうなずいた。

「優勝候補だね」

さらにココ。

「私はね」

得意げに取り出したのは一本の輪ゴム。

「普通じゃん」

「違うよ」

輪ゴムにはマジックで目が描かれていた。

「……」

「……」

「誰が描いたの?」

「知らない」

「由流里ハウス怖い」

するとシカリンが首をかしげた。

「そういえば、この家って時々変なもの落ちてるよね」

「あるある」

「前に冷蔵庫の横からフォーク一本出てきた」

「私は洗面所からミニトマト出てきた」

「それはもう事件では」

大会はどんどん盛り上がった。

気づけば全員、本気になっている。

午後二時。

ついに決勝審査。

テーブルには、

干からびたグリーンピース。

たぶん大丈夫の紙。

目玉付き輪ゴム。

なぜか片方だけの靴下。

三年前のレシート。

用途不明のネジ。

などが並んでいた。

「レベル高いな」

「低いと思う」

その時だった。

ココが突然叫んだ。

「あっ!」

「どうした?」

「見て!」

ココが指差した先。

リビングの床。

そこに落ちていたのは。

一本のとうもろこし。

「……」

「……」

「とうもろこし?」

「とうもろこしだね」

「なぜ床に?」

誰も答えられない。

シカリンが確認した。

「キッチンから転がったとか?」

「いや」

リリィが首を振る。

「さっき掃除した時なかった」

「じゃあ、どこから?」

沈黙。

全員がとうもろこしを見つめる。

なんだろう。

別に大事件ではない。

でも気になる。

猛烈に気になる。

「犯人捜しだ!」

ココが立ち上がった。

十分後。

捜査の結果。

真相が判明した。

犯人はココだった。

「私だった!」

「なんで!?」

「昨日スーパー行って」

「うん」

「とうもろこし買って」

「うん」

「袋の横ポケットに入れたの忘れてた!」

「横ポケットに入れるな!」

リリィが笑い転げる。

シカリンも肩を震わせる。

ココは少し照れながら言った。

「いやー、でも良かったね」

「何が?」

「今年の優勝作品が見つかって」

「作品じゃない」

「記念すべき第一位」

ホワイトボードに大きく書く。

『2026年優勝床に落ちていたとうもろこし』

「くだらな!」

リリィは笑った。

笑いすぎて涙が出た。

窓の外では夕方の風が吹いている。

特別なことは何もない。

旅行もない。

イベントもない。

ただ三人で、床に落ちていたものについて本気で議論しただけ。

それなのに妙に楽しかった。

「来年もやる?」

シカリンが聞いた。

「もちろん!」

ココは即答した。

「第二回・床に落ちていたもの選手権!」

「その前に掃除しようよ」

リリィの言葉に、三人はまた笑った。

そしてその日の夜。

ホワイトボードの隅に、誰かがこっそり書き足していた。

『たぶん大丈夫』

誰が書いたのかは、結局わからなかった。

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